5.さいきょー
・前回のあらすじです。
『主人公たちが、お城にはいる』
・・・・・・
玉座の間にも戦士たちはいた。
王のそばに、ローブすがたの老人がひかえている。彼はしわまみれの手に、一枚の丸い板を持っていた。
赤い絨毯の敷かれた床に、木や、骨でできた棒っきれが落ちている。
(なんだこれ?)
不思議がるユノの目のまえで、棒は幻のように、次々と消えていった。
――玉座の男が言う。
「久しいな、セレン」
「ご無沙汰しております。アルトリウス陛下」
悠然とセレンは一礼をした。ユノも国王に頭を下げる。
「呼んだのか。異界の者を」
豪奢な肘かけに、王は体重をあずけた。白髪の多い頭を片手で覆う。
謁見の間に集った戦士たちを、セレンは一瞥した。
「選ばれた者はいましたか?」
厳つい顎を王はしゃくった。
消えていく木や骨が、彼の示した先にある。
床はほどなく、キレイになった。
「『神託の銅板』ですね。救世主にのみ、魔を裁く剣を与えるという……」
「できることなら、我々の世界の人間にその栄誉を授けたかった」
「『栄誉』」
静かにセレンは繰り返した。頭を低くしたまま進言する。
「背に腹はかえられない、と言います。どこの世界の出身であろうと、それで平和がおとずれるのなら」
王は唸った。となりの老人に、指を動かす。
「それを、あの若者に」
壇上から、ローブの男はユノのもとに降りた。丸い板を差し出す。
それは曇った鏡のようだった。
赤銅色の表面には、なにも映らない。
「あのー……」
わけが分からず、ユノはローブの男を見あげた。
老人は説明をした。
「なにも考えず、手をかざしなさい。この神器は、英雄には剣を、そうでない者には、一時の幻を与える」
(まぼろし……)
ぐっとユノは唾を呑み込んだ。
その希薄な言葉は、ひどく遠ざけたい『なにか』を、唐突として、生々しい、実体のあるものへと昇華する作用を持っていた。
板の表面に手を当てる。
火花が散った。
閃光が、広間を白く染めあげる。
光が失せる。
「……なんと、」
黒い目を王は剥いた。
周囲の戦士たちもどよめく。
一振りの剣が、ユノの手にはあった。
「霊験なる金属、オリハルコンの刀身。英知の文字の刻まれた柄。……『カルブリヌス』か」
愕然と、王――アルトリウスは玉座に沈み込んだ。
「……そなたが、勇者だ」
重々しく、ユノに告げる。
あたりはシン……としていた。
少年の手のなかで、引き抜いた剣だけが、祝福するように輝いていた。
・いくつかの表現を変更しました。(以下は、その一例です)
旧→『何もかんがえず、手をかざしなさい。この魔法の道具は、英雄には剣を(略)』
改→『何も考えず、手をかざしなさい。この神器は、英雄には剣を(略)』