47.剣士
・前回のあらすじです。
『賊がローランに襲いかかる』
髪飾りが割れた。
白い光がローランの全身を包み込み、頭上の凶刃を受け止める。
泥に立てていたレイピアを抜きざま、ローランは剣士を斬りつけた。
ガンッ!!
火花が散る。
両手持ちの剣を軽いもののように片手でひるがえし、賊は少女の一撃を跳ね返す。
(男――よね?)
双方共にうしろへ跳び、相手との間合いを取る。
(ちょっと背は低いけど……)
顔は分からなかった。
頭頂部から鼻のあたりまでをスッポリ覆う、仮面のようなかぶと。
外套が開いて明らかになった体格は、鎧の形に補正されているものの、剥き出しの首と腕のラインは若い。
(十代かしら? 二十歳はまだいってないような……)
武器――ツヴァイハンダーを下ろし、自然体に構える男に、ローランは青い目をすがめる。
真っ暗な林の中、地面に落としてなお燃えつづける松明だけが、この場で唯一動くものであるかのようだった。
「あんた何者? 魔族の売買を邪魔しているようだけど、正義の味方ゴッコですか?」
――泥が跳ねて、
咄嗟にローランは身体を左に傾けた。
剣圧がこめかみを削る。
数本の銀髪と共に血が弾ける。
男は止まらなかった。
体勢を崩したローランを追って、彼女の首に剣を一閃。
前に飛び込み、ころがって、重い薙ぎ払いをローランはくぐりぬけた――
が、
身を返すと、男は想像していたより速い動きで刃を大上段に持っていった。振り下ろす――
(……っっ!)
グリープで守られた脚が、迫る白刃の腹を蹴っとばす。
――剣の軌道が逸れる。
(し、死ぬ!! 死ぬかと思った!)
蹴り飛ばした勢いのまま宙を一回転して、ローランは男から距離を取る。
ガン!
とぬかるみを撃った剣を、男は再び持ちあげる。
ベルトにむすんだ巾着袋から、魔力を持つ石――【ジェム】を少女は取り出した。
(これ以上はヤバイわね。いちかばちか)
少女の胴目掛けて、男が剣を弧状に斬り払う。
斬撃がローランの服をかすめた。
うしろに跳躍したものの、皮膚が一文字に裂ける。
同時に黄色い石を男に向かって投げつけた。
彼のバイザーの前で、それは爆発を起こす。
「がっ……!」
熱と衝撃波に弾かれて、男が身をのけぞらせる。
ひゅっ――
冷たいものが、男の頬とサリットのすきまに滑り込んだ。
「よっくもやってくれたわね。顔、覚えさせてもらうわよ」
カンッ。
とローランの跳ねあげたレイピアが、鋼の兜を打ち上げた。
虚ろな音をたてて、男の顔を隠していたものが月下を舞う。
「あっ!」
ローランは目を見開いた。
サリットの下から現われたのは、短い黒髪。
頼りなさげな黒い目。
年のころ十五、六歳ほどの――
ばっ!!
マントをひるがえして男――少年は、暗闇に走り去っていった。
ローランは追い駆けることも忘れて、ともすればまるで呼び止めるかのように、彼の正体を叫んだ。
「ユノ!」
読んでいただき、ありがとうございました。
・以下の文章を修正しました。
旧→『武器――トゥハンド・ソードを下ろし、自然体に構えるおとこに、(略)』
改→『武器――ツヴァイハンダーを下ろし、自然体に構える男に、(略)』