46.灯
・前回のあらすじです。
『賊がふたりの商人を殺す』
・・・・・・
足音が通り抜けた。
レイピアを掴んでローランは立ち上がる。
疾風のように焚き火を過ぎった影は、馬具をひっかけたままの馬だった。
(どっかから逃げてきたのかしら?)
おびただしく生えた林木の彼方をのぞきこむ。
魔物の遠吠えも、血に飢えた剣呑な気配もない。
強大な『なにか』がいるのだ。
「まどろっこしいわね」
フードつきのマントを銀色のおかっぱ頭からかぶって、ローランは野営地を後にした。
ずだ袋から太い枝を出し、脂をふくませた先端に焚き火から灯りをもらう。
獣避けにしていた火を土をかけて消して、たいまつの明かりを頼りに夜更けの林を歩いた。
(あれは……)
かざした光のなかにチカリと反射するものがある。
それを身につけたシルエットは、複数。
怯えるように彼らは進行方向を変えた。
ローランは駆け出す。
相手も走る。
(魔族だわ!)
ザザザザ!!
下草を旅慣れた足でローランは蹴散らして進む。
狼。
鬼。
魔鳥。
耳や角、翼やしっぽを持つ混血種が、互いを突っつき押して急かして逃げまどう。
彼らの首には力を弱め声を断つ【魔封じの枷】が嵌められていた。
(でも、どこから来たのかしら?)
ピンッとローランは閃いた。
「あー!」
くちもとに手を当てて大声を出す。
「こんなところに魔族がいるわ! ドレイにして売りさばけば大儲けまちがいなしよウッシッシ!」
ばささ!!
鳥の羽がひるがえった。
が、【首枷】のせいで翼を持つ人型――まだ子供だ――の身体は空へ上がりきらず地にコケる。
(……あれ? 来ない)
子供に追いつく。
起きあがろうとした彼女の横に、ローランは剣を突き立てた。動けないよう牽制する。
「てっきりピンチになればウワサの賊がお出ましするかと思ったんだけど」
他のドレイたちがこれ幸いとローランから遠ざかっていく。
「なにあんたら? サーカスから脱走でもして来たの?」
「あっ!」
という形に翼の少女がくちを開けた。
だが【枷】が光を放ち、彼女の声は音になる前に砕け散る。
ローランは自分の背後を見た。
剣士がひとり、大剣を構えて立っている。
銀髪の頭に、長い刀身が振り下ろされる。