45.ドレイ商人
・前回のあらすじです。
『銀髪の少女・ローランが賊退治のクエストを受ける』
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「暗いなあ~。キャメロンドさん、ここホントに使って大丈夫なんですか?」
「泣きごと言うなビーンツ。天下の街道じゃあ同業がバサバサ斬られてるって話しじゃねえか」
「おうちに帰りたい」
ビーンツと呼ばれた少年は鼻をすすりあげた。
商人互助組合の帽子を頭にのせた丁稚である。
手綱を握るビール腹の親方――キャメロンドの横で、ほそい両脚を抱えて彼はベソをかいていた。
「しっかりしろい、あつかってる物が物なんだ。安全にとはいかねえさ。そのかわり、都につけば大判小判ザックザクだあ」
ガタリ。
荷台が石に乗り上げて揺れた。
幌をかぶせた荷物は、森や岩山、遺跡で狩った、魔物との混血人種たちだった。
「あのー、ウワサに聞く通り魔って……まさか魔王じゃないですよね? こう、同族への報復みたいな」
「ないな――というか、アカデミー時代に神学部の連中から聞いた話だがな、」
深いシワの入った顔を男はきょろりと地下道にめぐらせた。
竜神教の信者には聞かれたくない話なのだ。
過去の水路が枯れてできた隧道には、彼と見習いのふたりしかいなかった。護衛代はケチった。
「魔王ってのは、竜のことらしい。もともとこの世界には、魔族と人間の両方にそれぞれ竜の守り神がいたんだとさ。その二柱があって、はじめて世界は調和の取れた――安定したものになるんだと」
「じゃあ、今はなんで魔物が荒れてるんですか? 俺たちの神さまは?」
「おかくれになったんだよ。それが十一年前。だが竜は不滅さ、死んでもすぐに生まれ変わる。なのに今回の御世はあのアールヴが――」
「あああ、キャメロンドさん!!」
ぬっと現われた影を少年が指さした。
「なんだ?」
たるんだ瞼をすがめ、キャメロンドは進路に立つ細いシルエットを見据える。
「旅人か?」
馬を徐行させる。
全身をつつむ黒ずんだマント。
外套の下に着込んだ金属鎧が、御者台にくくったランタンの光を白く弾く。
手には持ち主の身長はあろうかという大剣――ツヴァイハンダー。
「――!!」
橙色の明かりの中で、両刃の刀身がゆっくりと振り上げられる。
「ビーンツ、発煙筒を出せ! ぼさっとするな!!」
「ははははいっ!――って意味ないですよここ地下なんだから!」
――ボンッ!
剣尖が閃いた。
少年の首が吹き飛ぶ。
血の線を引いて、白刃がひるがえる。
切っ先が、目を剥く男の頭上に跳ねあがる。
「ひっ――」
ずばん!!!
手綱を引っぱる男の身体がまっぷたつに割れた。
馬のいななきがして、それから静かになった。
・設定に食いちがいを生じる可能性があります。修正はおこなう予定ですが、時期については未定です。