42.ヒーロー
・前回のあらすじです。
『ユノが妖精にキレる』
月が陰る。
雲が空を覆い隠し、森は光をなくす。
ユノの持つ剣と目の前の妖精だけが、隠り世の存在のようにおぼろな燐光をまとっていた。
「彼らのやったことが、そんなに気に入らなかったのなら、」
セレンはユノの右手を指差した。
「斬り捨てればよかったのでは? その剣で。私にしたように」
ユノは歯噛みした。
今更のように、胸の骨折がひどく呼吸を圧迫する。
「……ああいう人たちを……」
人家を焼きはらい、晴ればれと帰路についた町の人々。
『彼らもまた見捨てるわけにはいかない』と自分で掲げた矜持は、もはや紙より脆く頼りない。
「あんなヒトたちを守るために、ボクは戦わなきゃいけないんですか……」
「ええ」
セレンは「とりあえずは」とつけ足して、杖を振った。
ワープ用の空間を開く。
「ひとまず、今回の依頼はおつかれさまです。また国王からの命があれば、お知らせに来ますので」
労いの言葉をかけて、妖精の女は消えた。
彼女の用はそれで終わった。
(そんなどうでもいいことのためには姿を見せるくせに……)
どうして。
と心の中で問いかけて、ユノは天を仰いだ。
固く目を閉じる。
地面を、雫が叩く。
読んでいただき、ありがとうございました。