40.ジェム
・前回のあらすじです。
『ユノが森のボスを倒す』
・・・・・・
夕焼けが来ていた。
ユノは洞窟から森に出る。
身体の痛みを薬草を咀嚼してごまかして、彼はようよう出口まで戻ってきたのだった。
肩に掛けた鞄の隙間から、狼の残した魔物の核――【ジェム】の輝きがほんのりと洩れている。
他の魔物はエリアの頭領を失って、各々の塒に身をひそめているようだった。
ユノは鼻をヒクつかせる。
空気は乾燥していた。
喉をボソボソと掻くような、煤臭さが混じっている。
黒煙がひとつ、朱色の空にのぼっていく。
(……逃げてる、よね)
ユノは駆け出した。
折れた骨が胸部に鈍痛を訴える。
(そうだ……それに、橋だって壊したし)
自分に言い聞かせながら足を速める。
からまる下草を蹴っ飛ばし、進路を阻むツタや藪を掻き分けて、ユノは少女の小屋へ急いだ。
・・・・・・
「やあ、ユノさん」
町長のアルゴは「ご無事でしたか」と相好をくずした。
剣や槍をたずさえた町人が、大きな炎の周りにいる。
彼らの靴や脚絆――腰元までの装備には、水に浸かった跡があった。
小屋は燃えていた。
「ごらんください。魔女めはこの通り」
右手に持ったものをアルゴは掲げた。
赤い宝石が、男の手の中で心臓のように脈打っている。
「ユノさんは、今までどちらに? 道にでも迷われていましたかな」
熱波を噴き上げる家屋の前に、灰の小山が出来ていた。
寒気がユノの背筋を這う。
ぼろぼろになった赤い頭巾が、灰の中に落ちていた。