39.決着
・前回のあらすじです。
『狼の攻撃にユノが深手を負う』
立ち上がりざまにユノは剣を抜き放った。
最後に飛んだ銀の刃を上に弾く。
つららのような白刃が、天井に鈍い音をたてて突き刺さった。
狼が――敵が吠える。
洞穴の空気がビリビリ震え、ユノの動きを圧した。
『あんな連中を助けてなんになる』
フォルクス=メルヒェンは問いかけた。
大きな身体を弾丸にして、ユノに跳ぶ。
ユノは立っているのがやっとだった。
ショート・ソードを構え、狼の頭突きをしのぐ――
ばきん!
鉄の刀身が砕けた。
硬質な額がユノを吹き飛ばす。
からから。
刃が湿った土の地面を滑った。
獣の前肢が少年の肩を踏みつける。
ごきん。
と関節が外れた。
『町の人間を守るのは、あの少女の不幸を意味するのだぞ』
銀色の獣の目は血走っていた。
【魔女】の駆逐に意気揚々としていた【コルタの町】の住人たちが、ユノの意識をかすめる。
重なって――この世界に来る前の場所での記憶。
「でも、ボクは……」
ユノは完全に自分が【異世界】に来るまでのことを思い出した。
「イヤなんだ。どちらかの犠牲の上に成立させる平穏なんて……っ」
唾棄するように狼が鼻を鳴らす。
大きな口を開く。
奥まで生えそろった獰猛な牙がユノを狙った。
(セレンさん――)
ユノは妖精を呼ぼうとした。
が、寸でのところでその発想を捨てる。
「かっ――」
ユノは叫んだ。
「カルブリヌスを!!」
オリハルコンの剣が空気を裂いて地面に刺さった。
上空から現れた伝説の武器に、狼の視線が一瞬逸れる。
剣は――ほんの少しユノが手を伸ばした先にある。
ユノは全身の力を振りしぼった。
「光よ!!」
渾身の思いを咆哮にして、ユノは【気術】を放った。
狼の前に小さな閃光が弾ける。
乏しい爆発が起こる。
『これしきの威力で――』
ダメージはゼロだった。
ただ獣の肢が、かすかに動く。
拘束からユノは這い出した。
カルブリヌスの柄を取る。
ガクガクと膝が悲鳴を上げる。
「ぐっ……」
狼の咢が、ユノを無力化しようと頭を目掛けてひらく。
「くっ、おおおおおおおおおお!!」
両手でユノは剣を振り上げた。
オリハルコンの刀身が、音もなく相手を貫く。
毛皮を伝って、狼の胸から赤黒い液体が迸る。
『愚かな……っ』
巨狼【フォルクス=メルヒェン】は嘆くように呻いた。
ザラザラと獣の肉体が崩れる。
体毛が。
皮膚が。
肉が。
骨格が灰になり、床に積もる。




