38.ボス戦
・前回のあらすじです。
『ユノが洞窟で、森のボス【フォルクス=メルヒェン】に会う』
のそりとユノから距離を取るように、あるいは相手のようすを見るように、湿っぽい石の間を、狼は巡った。
『彼らは誰かを傷つける機会が欲しいだけだ。大義名分はその為にある。無ければつくる』
ユノの脳裏に映像がチラついた。
白い床。
現代的な建物。
フェンスに仕切られた屋上――。
狼――【フォルクス=メルヒェン】の言葉を、ユノは体感をともなって理解していた。
めまいがする。
『あきらめてくれたかな』
狼は唸った。
「それでも、」
ユノはかぶりを振った。
「町の人たちを見殺しにすることはできません。アイだって、絶対に助ける」
――ゴオッ!!
電光石火の突進がユノの身体を撥ね飛ばした。
肋がベキベキ鳴って、骨が折れる。
ボールのようにユノは床をころがった。
『慈悲だ』
突進の勢いを殺し、フォルクス=メルヒェンは全身に魔力をまとった。
分厚い毛皮から、幾筋もの毛束が浮き上がり、刀身に化けてユノを狙う。
『その愚直さを評して、ここで引導を渡してやろう。きみにこの世界は酷だ』
銀毛の刃が降り注ぐ。
ユノは地面をころがって、白刃の猛攻から逃れる。
頬を。
腕を。
銀の閃きが切り裂いた。




