35.洞窟
・前回のあらすじです。
『ユノが狼の棲家にむかう』
・・・・・・
暗い洞に足音が跳ね返る。
アイに教えてもらった洞窟にユノは来ていた。
『キキキキキ!』
コウモリの鳴き声がする。
ビックリして、携えていた剣を振り回す。
――岩の内壁に手を当て、曲がりくねった道を進んでいく。
(アイ……だいじょうぶかな)
残してきた少女のことがユノは気がかりだった。
「セレンさーん……」
虚空に向かって妖精を呼ぶ。
セレンは出てこない。
(アイのことを任せようって思ったのに)
大気中にただよう魔力の燐光を頼りに、ユノは通路を進んでいく。
(なんだよ……呼んでない時は出てくるクセに。ってか、あの人普段どこで何してるんだよ)
ブツクサと胸中で文句を言う。
――あの妖精を信用し過ぎぬことだな――
以前にペンドラゴンの城でアルトリウス王に言われた警告が脳裏をかすめる。
「うわっ!」
頭上から羽音がして、ユノは身を低くした。
ひとつ眼のコウモリ――【ブラン・ストーカー】の群れが、頭髪を引っかいて通り過ぎる。
反響する音波を探るように、コウモリたちはピュンピュンと不規則な軌道をとった。
ユノは【気術】を使おうとして、やめた。
力を込めた刹那、ズシリと全身が重くなったのだ。
『キキキキキキ!!』
牙を剥いてコウモリが飛び掛かる。
ユノはショート・ソードを翻し、小さな魔物の体を斬りはらった。
ガブリとユノの片腕に一匹が噛みつく。
血をグイグイと吸いあげる。
ユノの身体から力が抜ける。
(使い惜しみしてる場合じゃないか)
破壊の光をユノは放った。
小規模な爆発が、二の腕に取りつくコウモリを吹き飛ばす。
縦横に剣を振り、飛び交うモンスターを牽制しつつ、ユノは思い切って走り出した。
・今年の投稿は以上で終わりです。
読んでいただいてありがとうございました。
よいお年を。




