34.テリトリー
・これまでのあらすじです。
『世界を救う【勇者】として、異世界【メルクリウス】に召喚された少年ユノ。
彼は王様の命により、モンスターの襲撃がはげしい【コルタの町】へ救援に向かった。
道中、森のなかに迷いこんでしまうものの、そこで出会った少女【アイ】の助けにより、ユノは無事に目的地にたどり着く。
【コルタ】は『神』の名のもとに、魔族の殲滅を尊ぶ人々の住む町だった。
ユノは、そこで他の土地から集められた戦士たちの集団――【警護隊】に加勢。
妖精のセレンからもらった技で、モンスターの群れを撃破する。
勢いに乗った町人たちは、森のなかにいる【魔女】を処刑しようと徒党を組むも、ユノは魔女の正体に思い当たる節があり、町人の進行を阻止。
説得のすえ、ひとりで森の攻略に向かう』
――――――
・前回のあらすじです。
『森に住む少女【アイ】が、自分が【魔族】であることをユノに明かす』
「――そろそろ行けば?」
アイは頭巾をかぶりなおした。
大きな耳が隠れる。
「行くって……」
「【フォルクス=メルヒェン】のところ。倒すんでしょ?」
ユノは首を横に振った。
「話し合ってみる。だって、そのヒトがアイを匿ってくれてるんでしょ? 町の人たちのことも、考え直してくれるかも」
ガックリ。
アイは項垂れた。
ユノに「むだだよ」と言い聞かせるのをあきらめる。
「……それに、アイはそのヒトと、ずっと一緒にいたいって思ってるんじゃないの?」
「まあ、確かに」
アイは母親の墓を見た。
「この森で生きていくことが、私の幸せではあるわね」
――オオカミの棲む場所をアイはユノに教える。
駆け足になって、ユノは少女の庭から出ていった。
「あとさ、アイ」
「なによ」
ユノは数歩分だけ引き返した。
「誰かが来たら逃げてね。絶対だよ」
ヒラヒラと、アイは小屋の脇から手を振った。
「ユノ、」
森へと、ためらいながら向かう少年に、見送りの言葉を掛ける。
「頑張って」
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