29.異端
・前回のあらすじです。
『ユノが詰め所を出て森に向かう』
・・・・・・
詰所からユノは出ていった。
その後、外に追いやられた町人たちは、町の集会所で手持ち無沙汰に武器をいじる。
広い部屋のなかで誰かが言った。
「だいじょうぶかな、あの坊主」
「【気術】が使えるって言ってたぞ」
「妖精の力を借りる……って、あれか」
町人たちはそれぞれに渋面をつくった。
彼らが信仰する【竜神教】は、かつてこの世界に存在していた土着の神々を【異端】とし、長い時間をかけて焼き払った。
そのなかで、唯一手を出せなかった種族が【妖精】だ。
それは、『妖精の世界への影響力は他の種族の比にならないほど甚大で、排除することはできない』という事情に依る。
しかしコルタの住民をはじめ、一般の信者にそうした内情は伝えられていない。
『教典』における妖精はあいまいな記述に終わり、その種族に対する得体の知れなさだけが、ひとり歩きしている。
「妖精か」
町長のアルゴがつぶやいた。
「かつては神と対立したが、その力を認められ庇護を与えられたという……」
教典の一文を引用し、眉根を寄せる。
「信用してもいいものなんでしょうか? 妖精は」
「それが神の教えであるならな……」
アルゴはうめいた。
アールヴへの信仰について、教典はなにも語らない。
「しかし、魔女は滅びるべきだ」
アルゴはイスから立ち上がった。
「森のなかに、必ずあの【魔族】の親子がいる。十年前……追放処分で済ませてやった恩を、仇で返すとは」
「人間の血が入ってるって言っても、所詮は化け物ですよね」
青筋を浮かべる町長に、若者達もまた、口々に怒りを表す。
「やはり、ここで手をこまねいているわけにはいかん」
アルゴは歩き出した。
「神の御名のもと、魔女には鉄槌をくださねば」
拳を固め、奮起し、彼らは鬨の声をあげる。
高まっていたフラストレーションを町人たちは爆発させた。
義憤に狩られ、今一度いきり立った彼らを、止める者はもういなかった。