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【異世界転移】をやってみた《1》  作者: とり
 第4話 おおかみ
25/92

s1.【異世界転移】をやってみた



 ・この話はサブストーリーです。内容は『ユノの過去』になります。

 ・『いじめ』の表現ひょうげんが含まれます。

 ・以上の点に抵抗ていこうのあるかたは、読まないことをおすすめします。

  また、閲覧(えつらん)してくださるかたでも、途中とちゅうでご不快になられた場合には、その時点での中断ちゅうだんをおすすめします。


(サブストーリーは、まなくても『本編ほんぺんのほうのつづきの話が分からなくなる』ということはありません)


 ・これより先、本文にはいります。





「なにこれ?」


 コンクリートの屋上おくじょうに三人の少年がいた。

 彼らと離れた場所――と言っても、グループとべる程度に近い距離――に【ユノ】は立っている。


「ご都合(つごう)主義すぎじゃん」

 【友人】に取り上げられた携帯端末を、彼は「返して」とも言えずにながめていた。

 学校(こんなところ)で執筆していた自分が悪いとあきらめる。


「こんなのよくけるよな」

「現実逃避ってやつか?」

自己投影(じことうえい)丸出しじゃん」

 三人の【友人】は【ユノ】が(したた)め、匿名(とくめい)で配信しつづけた【世界】をしてわらう。


 まっとうな反応だった。


 感情にまかせて書きなぐった拙文(せつぶん)と、どこかからコピー&ペースト(コピペ)したような、使い古されたシナリオ。

 登場人物たちの人格(じんかく)は、主人公を称賛するためだけにゆがめられ、世界はひたすら()()()()()の楽園であろうとする。


 それが【ユノ】の理想郷りそうきょうだった。


幸村(ゆきむら)あ」

 【友人】のひとりが言う。

「これ、なんか死んで転移したってなってるけどさ」

「うん……」


 【ユノ】は返事をした。

 イヤな予感がした。


「正直なとこどうなの? お前さ、こういうヌルイ世界に行って……えーっと、英雄? そんなんになりたいわけ?」


 【ユノ】は迷った。

 ウソをつこうかとも思った。

 だが取りつくろえば、彼らはますます深いところを穿(うが)つだろう。

 これは処刑なのだ。


「……そりゃ、まあ。だって、現実で出来ないことを出来るのが、創作のいところなんだし……」

「ふーん」

 微笑を浮かべる【友人】の顔は、同情的でもあり、また、『理解者りかいしゃ』のようでもあった。

 くいっと彼は親指おやゆびを向ける。

「じゃ、やれば?」


 【ユノ】はかたまった。

 相手の指の先に広がる場所は、見なくても分かった。


 【友人】はう。


「やってみれば? 転移てんい

 【ユノ】は動かない。

 他のふたりが手を打ち鳴らして、「とーべ、とーべ」と(あお)る。


 【ユノ】はけ出した。

 空と屋上を仕切る、グリーンのフェンスにかって。

 いつもの【あそび】の延長線と言い聞かせて、まるで(きも)(たま)の強さを(きそ)うように。

 あるいは、自分の不幸を(もっ)て、相手への復讐(ふくしゅう)とするように。


 菱形(ひしがた)網目(あみめ)に、まだ買ってもないのに汚れきった上靴うわぐついた足をかけて。

 恐怖きょうふをちっぽけなプライドでねじせて。


 ――【ユノ】は、【異世界転移いせかいてんい】をやってみた。






 ※この物語はフィクションです。実在の人物・事件・団体などとは、一切関係ありません。


 読んでいただいて、ありがとうございました。



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