s1.【異世界転移】をやってみた
・この話はサブストーリーです。内容は『ユノの過去』になります。
・『いじめ』の表現が含まれます。
・以上の点に抵抗のあるかたは、読まないことをおすすめします。
また、閲覧してくださるかたでも、途中でご不快になられた場合には、その時点での中断をおすすめします。
(サブストーリーは、読まなくても『本編のほうのつづきの話が分からなくなる』ということはありません)
・これより先、本文に入ります。
「なにこれ?」
コンクリートの屋上に三人の少年がいた。
彼らと離れた場所――と言っても、グループと呼べる程度に近い距離――に【ユノ】は立っている。
「ご都合主義すぎじゃん」
【友人】に取り上げられた携帯端末を、彼は「返して」とも言えずに眺めていた。
学校で執筆していた自分が悪いとあきらめる。
「こんなのよく書けるよな」
「現実逃避ってやつか?」
「自己投影丸出しじゃん」
三人の【友人】は【ユノ】が認め、匿名で配信しつづけた【世界】を指して笑う。
まっとうな反応だった。
感情に任せて書きなぐった拙文と、どこかからコピー&ペーストしたような、使い古されたシナリオ。
登場人物たちの人格は、主人公を称賛するためだけにゆがめられ、世界はひたすら主人公だけの楽園であろうとする。
それが【ユノ】の理想郷だった。
「幸村あ」
【友人】のひとりが言う。
「これ、なんか死んで転移したってなってるけどさ」
「うん……」
【ユノ】は返事をした。
イヤな予感がした。
「正直なとこどうなの? お前さ、こういうヌルイ世界に行って……えーっと、英雄? そんなんになりたいわけ?」
【ユノ】は迷った。
ウソをつこうかとも思った。
だが取りつくろえば、彼らはますます深いところを穿つだろう。
これは処刑なのだ。
「……そりゃ、まあ。だって、現実で出来ないことを出来るのが、創作の良いところなんだし……」
「ふーん」
微笑を浮かべる【友人】の顔は、同情的でもあり、また、『理解者』のようでもあった。
くいっと彼は親指を向ける。
「じゃ、やれば?」
【ユノ】は固まった。
相手の指の先に広がる場所は、見なくても分かった。
【友人】は言う。
「やってみれば? 転移」
【ユノ】は動かない。
他のふたりが手を打ち鳴らして、「とーべ、とーべ」と煽る。
【ユノ】は駆け出した。
空と屋上を仕切る、グリーンのフェンスに向かって。
いつもの【遊び】の延長線と言い聞かせて、まるで肝っ玉の強さを競うように。
あるいは、自分の不幸を以て、相手への復讐とするように。
菱形の網目に、まだ買って間もないのに汚れきった上靴を履いた足をかけて。
恐怖をちっぽけなプライドでねじ伏せて。
――【ユノ】は、【異世界転移】をやってみた。
※この物語はフィクションです。実在の人物・事件・団体などとは、一切関係ありません。
読んでいただいて、ありがとうございました。




