24.祠(ほこら)
・前回のあらすじです。
『ユノが詰め所に帰る』
・・・・・・
アイは祠を目指して走っていた。
赤い頭巾の少女である。
夜の森林は危険だった。
獰猛な怪物たちが、最も活発になる時間帯。
ただ得体の知れない破壊の光を前に、今や彼らはひるみ、息をひそめているのだった。
森の中心に到着する。
大樹と、狼を象った石像がそこにはあるはずだった。
樹齢千年はくだらない木は消し飛んでいた。
狼の像は木っ端微塵になって、焦土のうえに散らばっている。
頭の部分だけが奇跡的に残っていた。
アイはそれに手を伸ばす。
『そこで何をしている』
夜風が震えた。
頭巾を被り直そうとして、アイはやめた。
駆けている間に風圧ではずれてしまったままにする。
「ようすを見にきたの。心配だったから」
一匹の獣が少女の前にはいた。
熊ほどの大きさもある、銀色の毛の狼。
毛皮と同じ色を持つ瞳が、針葉樹をつらぬく月光に、ぎらぎらしている。
『惑いの魔法は、もう終いだ。きみは帰って、逃げる仕度をするんだな』
「逃げるって、どこに」
狼は答えられなかった。
アイの耳は大きい。
獣類特有の深い毛に覆われて、やはり動物と同じように、ぴくぴくと動いていた。
彼女は【魔族】の血を引いていた。
「森を出たところで、人に見つかって売り飛ばされるのがオチよ」
『だが、ここも安全ではなくなった』
狼はフイと背を向ける。
『夜明けには消えることだな。人間共が、この機に乗じて一気に攻め込んでくる』
「出ていかないから」
アイは宣言した。
『忠告はしたぞ』
なぎ倒された木々を跳び越えて、狼は暗闇に消えていく。
アイは足元を見た。
石像の残骸を拾いあげる。
【フォルクス=メルヒェン】。
古くから語り継がれ、かつては『神』にまで昇格した土地の守護者。
彼は数年前、自分を模した像に魔力を宿し、小さな森を迷路にした。
それは人から排斥された、半魔族の少女を守るためである。