23.二つの技術
・前回のあらすじです。
『ユノが魔物たちをけちらす』
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異世界メルクリウスには、大まかに分けて二つの超常的な技術がある。
ひとつは【魔法】。
【魔族】やそれを祖先に持つ特定の人間が、潜在的に有している能力のことをいう。
習得には魔法書を読み解く必要があり、また、専門の訓練も要った。
『人間純血主義』と呼ばれる、熱心な信者のあいだでは、『異端の業』――【妖術】と呼ばれ、蔑視されている。
もうひとつは【気術】。
大陸極東部の少数民族が、独自に編み出した技法である。
修行さえ積めば、純血の『人間』でも扱えることから、戦士たちの間で人気が高い。
一方で、自然をつかさどる【妖精】や【精霊】との交信が不可避であるため、相性による術者の力量の差がはげしい。
「よっぽど妖精に好かれているんだな」
アドニスはユノに笑う。
――町へとつづく道を、二人は歩いていた。
「そうでも……ないです」
ユノはぎこちなく答えた。
セレンの胡散臭い微笑を頭に浮かべながら。
「なんにしても、魔法じゃなくて良かった。【気術】もギリギリだけどな」
「どういうことですか?」
町の入口でアドニスは止まった。
あたりを見回し、声を低くする。
「ここは熱心な竜神教教徒しか住んでいない。彼らにとって【魔法】ってのは穢れた術でな。使っているところがバレたら、なぶり殺しだぞ」
ユノはゾッとした。
刹那、既視感めいた感慨に捕らわれる。
晩餐の祈りをささげる声が、近くの建物からした。
「まあ、町人の前では、あんまり使わないようにな」
「……戦いでも、使わないほうが良いですか?」
ユノにはなんとなくアドニスの心配が分かった。
アドニスは、鋼鉄の鎧に覆われた肩をすくめる。
「いや、俺たちは殆どが無宗教だし……そりゃ、洗礼を受けた隊員も、何人かはいるけどな。狂信者ってほどじゃないから安心しな」
気付けのように、アドニスはユノの背を叩いた。
「とにかく、時と場所を選んで使えよってことで」
言い残して、中年の隊長は大きな屋敷に向かっていく。
コルタの町長邸である。
ユノは一人になって詰所に歩いていく。
往来は涼しかった。
読んでいただき、ありがとうございました。
※いくつかの表現を修正・削除しました。(・以下は、削除した文章の一例です)
旧→『明るい小さな石――【光】の力を持つ魔法石――を飛ばして、アドニスはユノに笑う。』
改→『アドニスはユノに笑う。』




