22.土煙
・前回のあらすじです。
『共同墓地で、ユノがセレンから技を教わる』
丘のふもとに土煙がのぼる。
剣戟の音がする。
オーグルの拳に、戦士の鉄兜が割れた。
額から血を噴いて、槍使いの男が地面に沈みこむ。
――ユノは最前線に飛び出した。
臆病風に吹かれる身体を、セレンに教わった技があると鼓舞して。
「おい、ユノ、 下がれ!」
アドニス隊長が叫んだ。
ユノは無視して、魔物の群れに手をかざす。
血を流して草地に転がる男たちに吠える。
「伏せてください!」
反射的に戦士たちは地に張りついた。
ユノの手から閃光がほとばしる。
青白い熱線が、怪物たちの胴体を吹き飛ばす。
光は黒い森まで伸びた。
轟音が、夜に移行しつつある空に木霊する。
ぼうぼうと茂る密林が削れ、赤い火柱があがった。
(あっ)
ユノは硬直した。
(……あの子、だいじょうぶかな)
頭のなかにあったのは、森の奥で助けてくれた女の子だった。名前は確か、アイ。
「魔物が……」
アドニスが兜の覆いを上げる。
ペンドラゴン王国民にありがちな青い眼には、身体の上半分を失くした怪物たちが映っていた。
風が鳴る。
化物の骸が灰になる。
空を蹂躙していた化烏が、逃げるように森のほうへ飛んでいく。
モンスターは、戦士たちの前からいなくなった。
ぺたんと、ユノが尻もちをつく。
ケガの浅かった者たちが、周りで重症者に手を貸していた。
「だいじょうぶか?」
アドニスがユノに手を向ける。
それを取らず、ユノはこくこくと頷いた。
腰がすっかり抜けている。
アドニスは、副隊長の若い騎士を振りかえった。
「怪我人を急いで病院につれていってくれ。町長にはオレのほうから、今日はもう安全だと連絡を入れておく」
「わかりました」
青年騎士は敬礼をして、負傷者運搬の指揮をとった。
「驚いたな」
アドニスは疲労の濃い顔をユノに向け直す。
「おまえ、魔法が使えたのか」
ユノは答えに困った。
「教えてくれた人からは、『技』とだけ聞いています。魔法……とはちがうかと」
「じゃあ、【気術】か」
得心したようなアドニスの声に、ユノは曖昧にうなずいた。