21.門の外
・前回のあらすじです。
『ユノがアドニス隊長から、魔女について教えてもらう』
・・・・・・
腹ごなしに表に出る。
町の門の外をユノは散歩した。
草の生えない、なにかを埋めて間もないような荒れ野。その中央に、腰かけに良さそうな岩が一つ立っている。
「墓標ですね」
「うわっ!」
ユノは飛び退いた。
肩口から、ひょこりとセレンが顔を出している。
「ご無沙汰しております、ユノさま」
セレン――妖精の美姫は微笑んだ。
彼女は小さな動きで辺りを窺う。
他に人はいない。
「今日は少々……お教えしたい技がありまして」
「わざ?」
ユノは緑の髪の女から距離を取った。
すっと、白い手をセレンは掲げる。
「なんてこと有りません。他世界から来られた方なら、誰でもすぐに使いこなせる――」
「ちょっと待って下さい」
光を帯びる女の手を、ユノは慌てて抑え込んだ。
「『他世界から来た人なら誰でも』ってことは、ボク以外にも、召還された人がいるんですか?」
「そうなりますね」
セレンは構わなかった。
――ユノは、この剣と魔法の世界【メルクリウス】とは違う世界から来た異邦人である。
現在の【レベル】――【冒険者ギルド】をはじめとする、戦闘集団への加入者の『強さ』を数値化したもの――は、【16】。
人付き合いを苦手とする性格のため、パーティ・メンバーと呼ぶような仲間はいない。
それが、【アヴァロンの泉】に招かれてから二週間ほどを経た彼の、現在の社会的地位だった。
召喚以前の記憶は無い。
また、取り戻そうという気持ちも起きなかった。
逃げ出して来たのではないか。
と、ユノ自身は思っている。
(そんなボクと、同じ境遇の人達がいる……?)
ユノはセレンを見た。
「……その人達は、今どこに?」
若い、キレイな、少し背の高い妖精は、緑の目になんの感情も宿さなかった。
「いりませんか、技」
ユノは彼女に答えを期待するのをやめた。
「危なっかしいのなら困ります」
王都で与えられた武器――カルブリヌスのような、必殺の威力は持ちたくなかった。
身の丈に合わない力は、無暗に他者を殺戮する。
「無理強いはしません。便利かとは思いますが」
空がゆっくりと夜に移行する。
地面が小さな揺れを起こす。
物見櫓から、ガン! ガン! と鐘が響く。
黒い雲が森にかかる。
それらは蠢き、ギャアギャアという鳴き声を伴っていた。
「【フギントムニン】ですね。あんなに群れるのはめずらしい」
どこかの神話の男神が飼っっていた鴉を由来とする怪物鳥が、他の影に勝って町に肉薄する。
地響きは、黒い波の様になったシルエット――地上の化物たちの軍勢だった。
「オーグル……だ」
ユノは膝を震わせた。
森のなかで、さんざん追いかけまわされた赤い鬼。
逃げる途中で、何本もの木々がその膂力によって薙ぎ倒された。
「どうしますか、技」
セレンの問いに、ユノはぎこちなく頭を縦に動かした。
「背に腹は代えられませんものね」
ユノの手を取って、セレンは前に向けさせる。
「手本の時間は無さそうなので、感覚を覚えて下さい。敵に対して構えを取って、あとはイメージするだけ。彼らを焼き尽くす様を」
(やっぱり物騒な技なんだ……)
仄かに自分の腕に力が伝わるのをユノは感じた。
術の発動を促す加護を、セレンが施してくれているのだ。
・モンスターの名前を変更しました。
旧→【ショルダー・クロウ】
改→【フギントムニン】