15.メルヒェン
・前回のあらすじです。
『ユノが森の奥で少女と出会う』
・・・・・・
森の名前は【フォルクス=メルヒェン】と言った。
かつて土俗の神が祀られていた、天然の社である。
それは現在、『ぬし』と呼ばれる魔物の名前でもあった。
ユノは、赤い頭巾の女の子に通された小屋のなかで、そんなフィールドの名と由来を聞かされた。
「で、」
紅茶を飲んで、少女は乾いた喉を湿らせる。
「あなたはこんなところに、なんの用があって来たのかしら?」
――十年前に、魔王が影響力を強めて以来、森に棲む動物たちは凶暴化した。
『怪物』という生きものはそれ以前より存在したが、人間の土地を襲うというのは、まれだった。
しかし、現在は森のぬし、フォルクス=メルヒェン――通称【メルヒェン】指揮のもと、近郊の町村に対して侵略めいた略奪・殺人がおこなわれ、日常化している。
こうした、ボスクラスの【魔物】による襲撃は、【コルタ】を中心とした領土だけではなく、世界的な規模で起こっている異変だった。
「ボク、道に迷ったんです」
ユノはテーブルに身を乗り出す。
地図と書類を、彼は肩かけ鞄から取り出した。
「王さまから、『コルタの町を助けるように』って依頼が出て、それで来たんですけど……」
「フツウに歩いてたんじゃ、永遠にさまようわよ。護符でもなきゃあね。この森には幻惑の魔法が掛かってるから」
――森林を抜けた先に、ユノの目的地はあった。
薄暗い外を、少女は顎でしゃくる。
ユノに問いかける。
「王さまの注文って話しだけど。あなた、お偉いさんなの?」
「えらくは……ない、です」
ユノは自分が勇者であることを伏せた。
「とにかく、ボク、コルタに行きたくて……どうやったらここから出られますか?」
「なんで敬語?」
「初対面なので……」
少女は頭巾からはみ出した金髪を払った。
「かたくるしい。うっとうしい。めんどくさい。ためぐちで良いよ」
「……努力しま……あ、努力するよっ」
ユノはぎこちなく返事をした。
そこまで話しをして、少女はやっと名前を教えてくれた。
ユノのほうは家にはいるまえに名乗っていたが、相手はまだだった。
少女の名前は、アイといった。
・いくつかの表現を修正しました。(一例)
旧→『地図と、書類を彼は布袋から取り出した。』
改→『地図と書類を、彼は肩かけ鞄から取り出した。』