14.森の中
・前回のあらすじです。
『コルタの町で、防衛戦がおこなわれる』
・・・・・・
一軒の小屋が森の中にあった。
街道から大きくはずれた、盗賊も踏みこまない奥地である。
茂る葉の天蓋に、朝の日差しが阻まれていた。
魔鳥や鬼の影が、うっそうとけぶる霧の向こうに横切る。
彼女は切り株の椅子に座っていた。
野鳥にエサをやっている。
それはもはや日課と呼べるほどに、彼女にとって自然な行動になっていた。
ぼうっ。
庭の周囲が青く光る。
鳥たちが飛び立っていく。
彼女は立ちあがった。
赤い頭巾をかぶり直し、田舎くさい洋服から、パンくずをたたいて落とす。
地面が揺れる。
鬼の足音がする。
――悲鳴が迫る。
「た……助けてえええ!!」
茂みからひとりの男が飛び出した。
大陸ではオーソドックスな、黒い髪に黒い目。安い布と皮でつくった、冒険者によく見る旅装。
手には剣を握っているが、剣士というよりは、できそこないの猟師といった、情けない顔つきをしていた。
彼は少女の敷地に飛び込んだ。
清浄な光をするりと抜けて――人の手で整えた草の地面に、身体から着地する。
『ごおおおおお!!』
大きな拳を、男の後頭部めがけて鬼が放つ。
ぶうんっ!
男の髪をかすめて、無骨な一振りは結界に触れた。
ばちんっ!!
火花が散って、赤い巨躯が弾かれる。
『ぐううう……』
オーグルは太い喉を唸らせた。
くるりと背を向けて、ずんずんと獣道を引き返していく。
「し……死ぬかと思った」
男はつぶやいた。
彼――ユノは少女の足にしがみつく。
「離れてくれる?」
少女は少年を見下ろした。
赤い眼差しは冷たい。
少年――ユノは離れない。
そんな彼を、少女は思いきり蹴り倒した。




