1.剣と魔法の世界
※注意です。
〇このものがたりは、作者『とり』の腕試しを目的として書かれた小説です。「どこまで継続して出せるか」に重点を置いているため、なかみがすっからかんになる可能性が、きわめて高いです。
(※なるべくおもしろさを追求する所存ですが、保証はできません)
〇以上の点に抵抗のあるかたは、【移動】をおねがいします。
(もし見てくださるかたでも、ご不快になられたさいは、すぐに閲覧をやめることをおすすめします)
深い水のなかに彼は沈んだ。
ごぼごぼと泡が吹き出す。
見えない糸に引かれるように、水面に上がる。
「たす――助かった」
顔を出して、少年は空気を求めた。腕で水をかいて、岸へ泳ぐ。
「『助かった』?」
日差しが森を照らしていた。空は青く、昼らしい明るさだった。風があって、木の葉っぱがザワザワ揺れた。
(あれ?)
少年は、自分のくちに手を当てた。
(どうしてボク、『助かった』なんて言ったんだろう?)
頭上からキレイな声が降る。
「なにかから逃げていたのですか?」
よくわからない。少年には思い出せなかった。
「とりあえずは、『ようこそ』と言うべきなのでしょうね」
白い手を女性が差し出した。それを少年は取って、陸にあがる。
「ここは? ――あの、あなたは?」
『あなた』という言葉を、彼は初めて使った気がした。それほどまでに、女は神秘的だった。
「私はセレン。妖精族の長です。以後、お見知りおきを」
色の白い、長い萌黄色の髪と、緑の目を持つ女性だった。ほそい長身に、薄いワンピースドレスを着て、ブローチで留めた短いマントを羽織っている。
としは不明。十七才か、十八才ほどの見た目をしている。耳は長く、先が尖っていて、イヤリングを吊っていた。
「どうも……」
頭を下げ、少年は立ちあがった。
「えっと、ボクは……」
彼は名前を云おうとしたが、わからなかった。手掛りを求めて、濡れた着衣をたたく。胸のポケットに感触がある。
――〈生徒手帳〉――。
「あの、ボクは……。『幸村 望』です。……『十六才』」
短い黒髪と黒い目の、地味な風采。さえない〈証明写真〉の横に書かれた『名前』と『年齢』を読みあげる。
『私立 聖竜高等学校』在籍。『一年C組』所属。
「ゆきむら……。ユキムラ・ノゾムですか。では……」
女性――セレンは杖を振った。不思議な文字になって、少年の名前が浮かびあがる。光のつづりは、いくつかを残して消えた。
「この世界では、『ユノ』と名乗っていただくことにしましょう」
音もなくセレンは微笑んだ。
「本当の名前は、帰る時にまたお返しします」
――帰る。
その選択肢が、少年にはなにか、恐ろしいことのように思われた。
「あの……。ここは? どこなんですか?」
「アヴァロンの泉」
草地にぽかりとできた、丸い水辺をセレンは指さした。
「私たちの世界――メルクリウスにおいて、救世主を召喚する神聖な場所です」
「きゅ……」
「救世主」
彼にセレンは言いきかせた。お辞儀をする。
「改めて。ようこそお越しくださいました、水の惑星の勇士。どうかそのおちからで、我が世界をお救いください」
森は息をひそめたように静かになった。
空を大きな動物が飛んでいく。
「わ……」
妖精の女の言葉を、彼は半分も理解していなかった。ただ「帰りたくない」という気持ちが、彼に返事をさせた。
「わかりました……」
ここがどんなところなのかはわからない。
前にいた場所が、どんな世界だったのかは覚えていない。
けれど、
誰かに必要とされたのは、初めてのような気がした。
・いくつかの誤字・脱字・表現を修正しました。