後編
お待たせしました。後編です。
思ったより長くなりました。
「……ヤッティ、龍族からの返答は?」
「ございませんね。というか、あの状態で色よい返事が来るとでも?」
「だよなぁ」
龍族との会談から逃げるように帰った後、俺は魔王城で悶々とした日々を送ってきた。
「やっぱり、謝ったほうがいいんじゃないか?」
「おそらくそれをすれば、龍族が魔王様の配下になる可能性は失われます。龍族は武を重んじる部族。たとえ魔王様との戦いで疲れ果てていたとしても、仮に残虐な仕打ちを受けたとしても負けは負け、勝者に頭を下げられるというのは、その勝負自体を侮辱する行為になるのです」
器官当日にもそのように言われたのだが、その様になることに俺は納得できなかった。勝ち負けの重要さは分かるが、自分達の王が傷つけられて謝罪を求めないというのに違和感を抱かざるを得ない。謝罪には保障や補填が伴うものだ、仮にも国として成立しているのなら、それは受けるべきものではないのか。
そんな疑問を持っているのが分かったのか、ヤッティはため息を吐いた。そして突然。
「いや~WWW勝っちゃってごめんね?いやいや、まあ、勝っちゃったのは俺じゃないんだけど、まあ、あいつも俺の妹だし、なんていうの?俺の妹の力だし、実質俺の力、的な?それにしても。まさかあんなに弱いと思わないじゃん?まあ、お金とかだったら全然払うし、だから、仲直りしてちょ♥」
「はっ倒すぞ貴様」
ヤッティの言葉に反射的にそう答えた俺に、彼は「今のが、龍族から見た今回の事件を謝罪した場合の受け止め方とお考え下さい」と続けた。
マジか……マジか。
「とにかく、今はあちら側が接触するのを待つしかありませんな。
俺はうなだれ、深く玉座に腰かけるのだった。
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龍族との会談からさらに数日たったある日、俺の姿は玉座の間にあった。とはいえ、それは別に特別なことではない。人間の国では魔族は戦う事しか能がない野蛮人とでも思っているかのような噂が聞こえてくるが、頭に関しては人間以上の者も一定数以上いるような集団が統治の構造を持っていないはずがない。そのため、魔王である俺にもその恩恵と、義務も発生するということだ。
気取っていたが何てことはない。要するに、俺は魔王としての政務に励んでいたのだ。
基本的に部族ごとに好き勝手している魔族の調整はそこそこに骨の折れるものだ。
俺が書類に頭を悩ませていると、軽い音と共にいつの間にか設置されていたドアベルがチリチリとなり、来客を告げる。
「ああ、ヤッティか、ちょうどよか……だれだ?」
俺の執務室に訪問してくるのは十中八九ヤッティだ。だが、そこにいたのは見知らぬ男性だった。きっちりとした軍服を着た青年は、緊張したように俺の言葉に返答する。
「はっ!私は、ヤッティ兄貴の弟。シンジであります!」
それを聞いても、俺は頭に疑問符を浮かべる。シンジというあまり聞きなれない語感の名前と言い、その顔つきと言い、どうにもヤッティと似ていない。
「まあ、俺と兄貴は異母兄弟なんで、似てないとは思いますけど……」
なんだか申し訳なさそうにいうシンジに、俺は一つ頷いて、シンジに声をかける。
「ヤッティの弟か。あいつの弟なら、とても優秀なのだろう?ならば歓迎だ。似ている、似ていないなど問題にもならんさ」
それを聞いて、シンジは嬉しそうに俺に顔を近づける。
「俺を評価してくれるなんて感激です!それにしても、信じられないくらいですよ!まさか魔王様とこうしてお話ができるなんて!こんな素晴らしいことはこれまで起こったことが「魔王様に対して失礼すぎるわバカモノ」……え?」
彼が振り返った先には、拳を振りかぶったヤッティの姿があり、そして次の瞬間その拳はシンジの頭へと振り下ろされた。その拳を納めてから、ため息を吐きながらヤッティは魔王に向き直る。
「ふぅ、ラーレン家の当主として、愚弟の暴走を謝罪いたします。本当に申し訳ない」
「いや、仮にも俺は魔王だしな、こういったことがあるのもある程度は許容範囲だ。特に、側近の家族ともなれば俺の身内の様なもんだ。無礼もなにもないさ」
実際は家臣の家族どころか、実際の家族であっても無礼を気にする者は多いが、それを馬鹿正直に伝える必要は今はない。ヤッティ自身の口から彼が弟であると聞いた時点で、彼に対する警戒を解いた俺は単刀直入に声をかけた。
「それで、そんな魔王の俺にシンジ君は何の用があってここまで来たんだ?」
それを聞いて、シンジはそうだったと慌てて報告した。
「ご報告します!魔王城付近にて、魔王城に侵入しようとする、大量のワイバーンが確認されました」
それは、龍国が行動を起こしたという情報だった。
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ある程度の情報を集め、俺は暗澹たる気持ちでヤッティと顔を突き合わせていた。
「今回現れたワイバーンは、確かにソンナバ公国の物だったのだな?」
「ええ、そして現在、全ての個体が、ミトさまの襲撃で心神喪失状態にあります」
俺とヤッティはほぼ同時にため息を吐いた。
「襲撃か交渉かも分からん。というわけだ」
襲撃ならばこちらから打って出ればいい。交渉なら向こうの言い分を吟味すればいいし、最悪こちらから出向いたってかまわない。だが、現在の状況はそのどちらでもない。
しかし、どうするべきか、と考えたのは一瞬だった。
「なら、俺がもう一度竜王に会いに行こう」
宣言した俺に、ヤッティが探るように視線を向ける。
「大丈夫だ。もし龍共が俺を殺そうとしても、負ける気はない。その時は俺が龍族を滅ぼしてやるさ」
それを聞いて、ヤッティは深々とため息を吐いた。
「まあ、仮に交渉となったにしても、向こうからの使いを伸している状況ですしね。誠意というのも必要でしょう。……それに、魔王様を心配するなど、無駄なことでしたな」
そう言ってヤッティは首を振り、しかしきっぱりと俺を見据えて忠告した。
「しかし、分かっておりますな?ワイバーンを撃墜したのはミトさまです。今はワイバーンなど雑魚と言い切るあの方のことですから、何事もなかったかのように生活しておりますが、もしワイバーンと竜族を結び付けたら……」
……確かに、もしミトが暴走したら、事情の詮索も何もなく相手を殲滅するだろう。
結局俺たちはミト対策を話し始めたのだった。
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「お兄ちゃん!私にご用事があるって聞きました!」
玉座の間で待っていた俺は、やってきたミトを歓迎するように立ち上がる。
「ああ、待っていたぞ。我が妹よ。今日はそなたに頼みがあって呼んだのだ」
「お兄ちゃんが私に頼み?何かしら?何を殲滅ればいいの?それとも……」
思わせぶりに体を掻き抱く妹に軽く頭痛を覚えつつ、俺は彼女に頼みを伝える。
「お願いというのは、伝令だ。ゲール族のサジナ族長と、獣人族の猛虎衆、ウサン氏へとこの手紙を渡してほしい」
それを聞くと、先ほどの浮かれた様子はどこへやら、嫌そうな顔をしていた。
「えぇ、伝令?なんで伝令なんてことを私がしなきゃいけないの?そんなのそこら辺の兵士にでもさせとけばいいでしょ?」
「それは、俺の頼みを聞けないという事か?」
「え?」
俺が冷たく言い放った瞬間、ミトの顔が凍り付き、何やら禍々しい雰囲気さえも漂わせてくる。
「なんでなんでお兄ちゃんは私のことを信じてないのお兄ちゃんは私を認めてくれないの?私は兵士と同じくらいってこと?お兄ちゃんが私を一兵卒と一緒って思っているってこと?私はお兄ちゃんの特別なはずなのにお兄ちゃんが私のこと認めないならいっそ閉じ込めて私だけのお兄ちゃんnにしなきゃそうすればずっと一緒にいられるもん場所は私の部屋で……」
「ん”んっ!ゲール族や獣人たちの住む地域は、我ら魔王軍に仕えるほどの知能もない強力な魔物どもが多くいる。普通の兵士では、彼らに素早く手紙を届けることは出来んのだ。
ミト、お前なら、この難題を熟してくれると信じていたのだが……」
「任せて、お兄ちゃん!」
ふと気が付くとキラキラした瞳で、ミトが飛び出そうとしていた。
「まてまて、手紙を忘れるな。……それと、両部族とも魔王軍にとってとても重要な部族だ。失礼のないように頼むぞ」
「もちろん、お兄ちゃんの言葉を伝える伝令として、恥ずかしくない働きをするわ!ぱっぱと終わらせて、3時間で帰ってくるからのんびり待っていてね!」
3時間……いや、俺でも往復だけでそれくらいかかるんだが。本当に大丈夫だろうな?
少し心配になりつつも、その時には既にミトは飛び出した後だったので両部族のことは一旦頭から追い出し、すぐさま転移の間に向かった。
転移の間には、起動済みの転移門と、そこに控えるヤッティがいる。
「魔王様、ミトさまは……」
「上手くゲール族と獣人族の方に向かわせることができた……三時間で帰ってくるそうだ」
「……それは、なんとも……いえ、ミトさまならあり得ますね。素早さだけなら魔王様以上ですから。それよりも魔王様、手はず通りに」
それを聞いて、俺は目線を転移門に向ける。
「一度転移したら、6時間は再使用できないようにしております。これで、例えミトさまが帰ってきたとしても、ソンナバ公国へ行くのはかなり時間がかかるかと、しかし……」
それは即ち、仮に龍たちが敵対してきたとしても逃げ帰ることができないということだ。だが、それを持ってしても、俺は怯むことなどない。
魔王とは最強の証だ。魔王とは暴虐の証だ。魔王とは傲慢の証だ。なればこそ、立ち向かうのが脆弱なゴブリンだろうが、精強なドラゴンだろうが、俺の態度が変わることはない。
「それでは、行ってくるぞ、ヤッティ!」
「行ってらっしゃいませ」
転移門が起動し、キラキラとした光にヤッティの姿がかき消されていく。そして、光が全て失われたとき、そこには転移門のある部屋を埋め尽くさんばかりの龍の軍勢がいた。
……ごめん、ちょっとやり直していい?
あまりにもあまりな光景に現実逃避しかける俺に、巨大な龍たちの中から、人の姿を取った龍族の男性が近づいてきた。
「これはこれは魔王陛下。ようこそおいで下さいました。此度は竜王代行様にお会い頂くことになると思いますが、よろしいですね?」
「……あい」
俺はそう言い、連行されることしかできなかった。
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待つこと数時間、とても居心地の悪い空気の中またされた俺は、再び竜王と出会った王の間に立っていた。元々竜王がいた場所には一人の女性が立っており、家臣団が立っていた場所にはひしめくように龍たちが壁を作っている。
竜の代表は純白の衣服を身に纏った女性だった。荒々しい印象を受けた龍王とは違い、とても落ち着いた印象を受ける。もしも額に二つ伸びた角が無ければ人間の聖女に見えたかもしれない。
そんな女性が、ゆっくりと口を開く。
「お初にお目にかかります。私は竜の巫女にして、龍王の妹、チアタリーナと申します。此度は我が国にお越しいただき、ありがとうございます」
「ああ、ワイバーンが我が城に来たようなので何なのかを聞きに来たのだ。手違いで話を聞く前に撃墜してしまってな。今は療養中だ」
それを聞いて、驚いた顔をしたチアタリーナだったが、すぐに笑顔に戻って俺に伝える。
「ええ、実は我が姉、竜王様が正気に戻りまして、そのことをお伝えするために伝令を使わせたのです」
嬉しそうに言うチアタリーナの様子を見て、俺も祝いの言葉を告げる。
「それは重畳。俺からも祝いの言葉を述べておこう」
俺のそんな言葉に、チアタリーナは「はい!」と嬉しそうに頷いた。
そして、彼女はもう一度俺を見据える。その瞳に剣呑なものを感じ、俺の警戒心が高まっていった。
「ところで、魔王様。龍族の精鋭たちはどうですか。この屈強な腕、強靭な尻尾、堅固な肉体。この王の間だけではありません。この城には、この10倍の戦士がおり、今も国中の強者がここに集まっております」
「それは……龍族の総力を持って俺を討伐しようという事か?」
「さあ、どうでしょう?」
その意味深なチアタリーナの言葉に、俺は呵々大笑する。
「クハハハハハハハハハハハハハハハ!!笑止!たかが龍の国のみで俺を倒せると?お前たちを滅ぼすのも忍びないと思っていたが、俺を倒そうとするのならば構わん!最後の一兵まで死兵となって向かって来い!」
そう言って俺は今まで抑えていた力を解き放つ。体は膨張し、頭の角は歪にねじくれ、そして体には鱗が浮き上がり身を守る装甲になる。それは、俺が龍族を難敵と認めた証であると共に、絶対に殲滅するという意思表示でもある。
「サァ、殺シアオウカ?」
「全軍、魔王陛下に平服を!」
俺が戦闘の口火を切ろうとした瞬間、チアタリーナの声が王の間に響き渡った。
「魔王様、度重なる無礼、ご容赦ください。今を持ちまして、ソンナバ公国、その全ての民と富は魔王様のもの、魔王様の所有物となりましょう。魔王様の望みであれば、王族から一兵卒に至るまで、喜んで死兵となりましょう。偉大なる魔王様、我らが忠誠をお受け取り下さい。魔王陛下万歳!」
「「「「魔王様、万歳!!!!」」」」
王の間を揺るがす掛け声が続き、城全体が揺れたかのような轟音となって俺を打ち据えた。
「命ゴイ、トイウワケデモナイヨウダナ……どういうことだ?」
俺は姿をいつものものに戻しつつ、そう問いかけた。
「龍は力と誇りを尊ぶもの。あなたは姉を打ち倒し、そして、我らが軍を見ても、あまつさえ国さえも敵に回して笑っている。そんな方だからこそ、我らが王にふさわしいと思うのです」
「……なるほど、これは試験だった、というわけか」
薄く笑う俺に、チアタリーナは焦ったように声を重ねる。
「もし、不快に感じられたのでしたら、私をいかようにしていただいても構いません。ですから、我ら龍族を魔王軍に加えていただきたく存じます」
「……構わん構わん。そのように感じるのは好感が持てる。此度の件は不問とする。龍族が魔王軍に従うことも、こちらから言い出したことだ。拒みなどせん」
それを聞くと、チアタリーナは嬉しそうに笑顔を見せた。
「我ら龍族を受け入れてくださりありがとうございます!不肖チアタリーナ。龍族としても、個人としても、魔王陛下に忠誠を誓い、その身滅びようともあなた様の力となりましょう。
……それと、魔王様、我が姉カーナにも会っていただけませんか?姉も魔王様に会いたがっております」
俺は頷き、チアタリーナについて行くことにした。
現在竜王がいるのは玉座のその奥、王族の私室の一つだった。
そこにいた竜王はひどい姿をしていた。体には先ごろの裂傷が残り、鱗も完全に再生しきってはおらず、所々剥げており、牙も何本かかけている状態だった。
しかし、今の竜王を見て、みすぼらしいと思う者はいないだろう。その瞳はぎらぎらと輝き、その四肢にの動きは、彼女が圧倒的な捕食者であるのを証明するかのように自信と力強さに満ち溢れていた。
「魔王よ、せっかく来てくれたのに、こんな姿ですまないね。この傷がいえたら、私も存分に力を貸そうと思う。共に殴り合った仲同士、仲良くしたいと思っている」
「こちらこそ、妹が済まなかったな。俺も、お前の拳には期待しているぞ」
それを聞いて、竜王は俯いて動きを止めた。
あれ?もしかして今も謝っちゃ駄目だった?と頭の中で考えていると、彼女はゆったりと頭を上げ、俺に向かって話しかけた。
「き、気にするなよ、わ、私は、だいじょ、ダイジョぶ、だ、だから、な、たたか、かいに、不測のじ、事態は、つきもの、だからさ、き、きにすんなよ」
あ、これ、竜王の方が駄目だったタイプだ。我が妹の行動は、きっちりと竜王にトラウマを植え付けたらしい。俺は話をそらそうとして、気が付いた。
本来王族以外にはあまり人がいないはずの居住エリア、静謐なはずのそこに、何やらこちらに向かってくる音が聞こえる。
それに気づいてすぐ、俺たちがいる部屋に一人のドラゴニュートが駆け込んできて、声を張り上げた。
「報告します!とんでもなく強い侵入者が来ました!現在王の間からこちらに向かってぐえっ……」
ドラゴニュートを踏みつけて侵入してきた闖入者。それは人の姿をしていて、背中には悪魔の様な翼が生えている。顔は美形であり、すごく見覚えがある顔だ。
うん。はっきり言おう。うちの妹だ。
そして、俺を見つけると、真っ先に飛びついてくる。
「お兄ちゃん!お兄ちゃんが本気を出した魔力を感じたから、魔王城に帰る前にこっちに来たんだよ?一体何があったの?お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
俺をがくがくと揺するミトに俺はされるがままになりながら周りを見回す。
「ふぇぇ、あの子怖いよぉ」
「ふむ、あれが……」
そこには幼児退行する竜王と、興味深そうにこちらを見る竜の巫女がいた。……俺の妹がマジでゴメン!
心の中で謝っていると、チアタリーナがミトに話しかけてきた。
「あの、少しよろしいですか?」
「何よ、今私はお兄ちゃんに話を聞いているの?それとも、お兄ちゃんを危険な目に合せたのってあなたなわけ?それならこの国と一緒に滅んでみる?ねえ、ねえ、ねえ!」
その迫力は俺をして気圧されるほどだったが、チアタリーナはその言葉をニコリと笑顔で受け止め、言葉を続けた。
「いえ、ただうらやましくなってしまって」
「うらやましい?言っとくけど、お兄ちゃんはあげないからね?」
警戒心むき出しでうなるミトに、チアタリーナは若干ひきつっている笑顔で続きを答えた。
「魔王様は確かに素晴らしい方ですが、そうではなく、あなた様と魔王様が、あまりにもお似合いの兄妹に見えたものですから」
「そうよね!私とお兄ちゃんはもうベストカップルよね!あなたよく分かってる!スゴイいい人ねあなた!」
……妹よ。その変わり身の早さはどうなんだ?ほら、チアタリーナも困惑した顔でこっちに助けを求めているじゃないか。
「ミト、ここには病人もいる。騒ぐのは別の場所でだ」
そう言うと、ミトは部屋の惨状に気付いたのか、少しシュンとなりながらも俺についてきた。その後、後からやってきたドラゴニュートに竜王のことを任せ、俺たちはチアタリーナの部屋で少し話してから解散する流れとなった。
結局、龍族が配下に加わるという最高の結果で終わることができて、俺は満足して龍国から帰国することになったのだった。
なお、その際褒め殺しでミトのご機嫌を取っていたチアタリーナは、ミトにマブダチ認定されたうえに頻繁に遊びに来るという宣言を受け、姉の病状を懸念した結果魔王城住の配下となることが決定した……。
龍族よ……前回に引き続き、マジでゴメン。
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この世界には、勇者がおり、魔王がいる。そして、二人がいる以上、それが起こるのは当然だった。
「俺の名前はルード!お前を倒すために異世界からやってきたアナザワ・ルードだ!」
その声に相対するのは、偉大なる魔物たちの王。魔物たちを束ねるメーン家の当主、マジディエゴ。
「我が名はマジディエゴ。勇者よ。何故もがき苦しむ?俺を討ってなんとする?悪いことは言わん。諦めよ。今ならば、見逃してやろう」
彼の言葉に、しかし勇者は首を振る。
「俺の命は俺だけの物じゃない!俺を育ててくれた人がいた!俺の背中を押してくれた人がいた!そして、危険を承知で魔王の城について来てくれて、魔物の大群を引き付けてくれた大佐、モウマンさんがいる!
彼らの思いを無駄にしないためにも、絶対に俺は負けられない!」
「そうか、ならば、俺が言うことは一つだ。死ぬなよ」
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その後、ワイバーンに空輸された簀巻きの勇者が、人間軍の王都に飛来したことで、戦況は一気に傾いた。
そして、勇者は最後に一言言葉を残して、勇者を引退したのだという。
「魔王城には、魔王よりも恐ろしい化け物が存在する」と。
みなさん、薄々気付いていると思いますが、名前でめっちゃふざけています。その辺も含めて次の人物紹介をお待ちください。
一応内容自体は殆どかけているので、今日か明日には出します。