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前編

前作の「モテモテハーレム……なんて嘘でした」から来てくれた人は嘘みたいになってすみませんでした。でも2話くらいで終わる予定なので、実質短編だから許してください。

 薄暗……くはなく、血生臭……くもない、とてもきれいに掃除がされた、玉座の間。その玉座に俺はふんぞり返って座っていた。その横には、俺の部下である壮年の学士風の男、ヤッティが控えている。


 人は俺のことを、魔王マジディエゴと呼ぶ。そう、俺は魔王なのだ。


「だというのに……だというのにだ!なんだこの部屋は!この城は!普通魔王の城って言ったら薄暗い雲の垂れこめた場所に立っている、寂れて蜘蛛の巣やら血の跡やらがあちらこちらにある古城と相場が決まっているだろう!」


「落ち着いて下され魔王様。確かに人間の勇者をバイオレンスな空間でビビらせるために歴代魔王様がそのような内装にしたことは認めますが、そこはそれ、そうでしょう?」


 それを聞いて、俺はジト目で彼をにらむ。


「そう言って、あいつに関わりたくないだけだろう?」


「分かっているなら、ご自分で何とかしてはいかがですかな。正直やってられませんぞ」


 俺とヤッティは数秒間にらみ合った後、ほぼ同時にため息を吐いて扉の外を見つめた。


「……はあ、ミトさまにも困ったものです」


 全くだ。我が妹ながら、あれはどうにかならんものか。


 我らが代々続くメーン魔王家において、ミトは異端と言える存在であった。魔王は一対一を良しとする。魔王は人々に恐怖と不快感を与えるのを良しとする。あるいは、魔王は人の生き血をすすり、血肉を貪る者である。そんな常識を、彼女は全く気にすることなく台無しにしてきた。


 曰く、「お兄ちゃんが怪我するなんて耐えられない!それなら私がそいつをやっつけちゃうから!」と相手の戦士に対して暗殺を仕掛けたり。


曰く、「こんなところにいたらお兄ちゃんが暗くなっちゃう!体にも悪いよ!」と血のりや蜘蛛の巣を全て取り払われ、徹底的に掃除されたり。


 曰く、「人の肉なんて拾い食いしちゃダメ!ちゃんとした物食べないと、体壊すよ!」と手の込んだウサギや野菜を中心とした料理が食卓に並んだりした。


 そう、ミトは極度のブラコンかつ、魔王の伝統なんてへでもないと考えているのだ!


「これでは、魔王の威厳が!伝統が!」


 そう言って頭を抱える俺だったが、その横でヤッティは俺よりも深くため息を吐いた。


「魔王様はまだましです。私なぞ、用兵に口を出されて……ミトさまのせいでアンデット系や植物系の一部魔物、それに、ラット、ウルフ、サキュバス。その他多数の魔物が辞職することになっているのですぞ」


「それこそ、お前の仕事だろうが……と。愚痴るのもそろそろやめにしないとな」


 俺は非常に重く感じる腰を、何とか玉座から離し、出かけるために転移陣のある空間へと向かった。

 今日は魔王軍にとって大事な日だ。何しろ、最上位の魔族である、竜族との会談が控えているのだから。


「それでは魔王様、行ってらっしゃいませ」


「ああ、行ってくる」


 そう言って、俺は転移門に歩いて行くのであった。なお、竜王を呼びつけなかったのは、この威厳の無い王城を見せたくなかったからである。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 転移門から出ると、龍国、ソンナバ公国の王城の一角へと転移した。今日転移門を使うことは既に知らせ済みのため、転移門がある部屋の前にはドラゴニュートが案内役として控えている。別に攻め込んできたわけではない。案内役を振り切ってまで見たいものもなかったので、案内役の指示に従い、竜王が待つであろう玉座の間へと向かった。



「魔王様!参られました!」


 案内役のドラゴニュートが俺の身の丈の十倍はありそうな大扉の前でそう声をかけると、扉の奥から入るように声がかかる。

 

 その声を聞いた門前に控える兵士たちが扉の端から垂れる縄を引っ張り始めた。どうやら縄を引くことで扉を開く仕掛けのようだ。だが、いかにも遅い。ぞの大きさから想像できる扉の重みからすれば当然の速さ……と言えば確かにそうだが、それにしたって遅すぎる。


 我慢できずに、俺は扉を無理やり押し広げ、中に侵入した。

 その場には多くの人……否、人の姿をした龍共がいたが、特に目を引くのは正面にいる女だった。

 きらびやかな紫の衣装は、胸元が大胆に開かれいかにも扇情的な装いだ。その胸元には武骨なドクロのアクセサリーが飾られ、手には節くれだった杖が握られている。

 とはいえ、そんなものは見た目だけのものだ。目を引くのは別の場所だ。

 例えば目。その目は俺が扉を無理やり開けたことに驚きつつも、おもしろそうな視線を向けている。

 例えば手。細い手は、俺がいつ暴れてもいいように、さりげなく腰の獲物に伸びている。

 例えば角。その角は、見た目もさることながら、警戒するようにバチバチと魔力を飛ばしていた。


 しかし、それも一瞬。警戒など一瞬もしていないとでもいうかのように、彼女は一瞬でそれらすべての所作を止めて俺を見据えた。


「おやおや、魔王君。礼儀をわきまえないものだとは知らなかったよ。今からでも、礼儀をきちんとしたほうがいいんじゃないかな?」


「貴様らこそ、あの悠長な扉の開閉をやめるべきだな。それとも竜族はあのような扉の内に引きこもらねば安心できぬ腰抜けなのかな?」


 馬鹿にしたようにそう言う俺の言葉に、周囲の龍共は騒然とする。しかし、その中で一人だけ龍王だけが面白そうに眼を細めていた。


「ふふ、まさか私が腰抜けと言われるとは思わなかったな。さてさて、私のことを腰抜けと呼んだ小僧は、はたして私を腰抜けと呼べる傑物なのか、それとも言葉だけの愚か者か。興味があるな」


 そう言って目を向ける彼女に、俺はふっと息を抜いて彼女に頭を下げる。


「俺は魔王マジディエゴ。此度は対談の場を用意していただき感謝する……。この度は貴様らに俺の配下となってもらうべく参上した……。ん?どうしたそんなコカトリスが豆鉄砲を食ったような顔をして。お前が言ったように礼儀は払うべきだろう?たとえそれがトカゲもどきだとしてもな」


「……!確かにその通りだ。思い上がり甚だしいガキにでも、礼儀は払わねばな。私の名前はカーナ。龍族の王をしている。……早速だがその高くなった鼻へし折ってあげよう」


 そう言って、彼女の拳が握り込まれた瞬間、そこは戦場になった。


 まず最初に動いたのはカーナだ。玉座から倒れるように一歩を踏み出したかと思うと、まるで滑空でもするかのような超低姿勢で俺に詰め寄った。


 俺はそれを冷静に見定め、彼女の進行方向に、細い糸を魔法でばらまいた。魔力で作った糸は、即座に糸の端の双方が壁にくっつき、強固に固定される。


 カーナはその糸に足を引っかける寸前で大きく飛び、俺に向かって拳を振り下ろした。


 轟音。例え双方ともに人の姿をしていても、その正体は魔王と龍王だ。その攻防で俺の足元には亀裂が走り、カーナも空高くに吹き飛ばされた。


「今の一撃、少し効いたぞ!だが!」


 俺は一瞬にして巨大な魔法陣を展開し、そこに膨大な魔力を込める。


「空中でこの一撃は避けられまい!」


 上位魔法闇の閃光(ダークレーザー)が一瞬にして()()()()()()()()()を貫き、更に王城に穴を開けて飛び去っていく。


「詰めが甘かったのは、君だったようだね」


 そう言って()()()()()()()()()の姿でカーナが俺に声をかける。その背中にはいつの間にか、巨大な翼が姿を見せていた。


「龍の王である貴様が空を飛べぬと考えるのは、甘い考えであったか」


「そう言うことだね。それじゃあ、反撃行くよっ!」


 そう言うが早いか、カーナは俺に向かって急降下してくる。それはまるで獲物を狙うバトルホークのような勢いだ。俺は警戒をしつつ彼女を注視し……そして彼女はそのまま俺をすり抜ける。


 意識にできた一瞬の空白、その瞬間を見逃すほど、彼女は甘くない。慌てて振り向いた俺を待っていたのは、巨大な魔法の竜巻だった。


「さあ、受けて見なよ!大雷嵐(サンダーストーム)


 巨大な竜巻を前に、俺は強く足を地面に打ち付けた。

 一秒、二秒、三秒。たっぷり十秒は続いた雷と風の嵐は、まるでそれが嘘であったかのように唐突に霧散した。そして、その場に残ったのは荒れ果てた室内と()()()()()()()()()()()()()()俺の姿だった。


「まさか大雷嵐を食らっても傷一つつかんとはな。……なっ!?」


 俺の様子を見て悠長にしゃべっていたカーナを目がけて、俺は飛び上がる。そして、そのまま空中で静止し、カーナに近接戦を挑む。


「魔王が空を飛べないとでも思ったか?」


「全く、なんて非常識な!だが……我らを従えようとするならばそのくらいでなくてはな!」


「ならば俺の軍門に下れ!」


「そうしたいなら、私を倒して見せることだ!」


 言葉と拳の応酬は時間が過ぎるごとに激しくなっていき、いくら龍王の座する王の間と言えども、あちこちにひびが見えるまでに被害は拡大した。


 そして、そんな戦いも時間が経てば自ずと結果は明らかになるものだ。

 もう一度攻撃が止んだとき、玉の間には、息も絶え絶えに倒れ伏す龍王と、それに跨る俺、それに、それを見つめる龍族の姿があった。


「……はぁ、はぁ。まさか、私がここまで追いつめられるとはな」


「こちらこそ、これほど歯ごたえるある戦いは久しぶりであったよ。……非礼は詫びよう。少なくともお前は、臆病でもトカゲもどきでもないようだ」


「こちらこそ、お前を小僧扱いしたことを謝罪しよう……それと」


 龍王が何かを言い出そうとした時、俺たちは揃って扉の方を凝視した。何やら扉の外が騒がしくなっており、何やら嫌な威圧感が扉の外から漂ってきている。


 そして、それを認識した瞬間、あの重厚な大扉がまるで破裂するかのように……否、実際に破裂し、粉々になって吹き飛んでいった。

 その中から、一人の少女が姿を現す。やや幼く見える顔立ちをしており、淡い桃色の髪の中からは、威圧感よりもかわいらしさを感じられる羊の様な角が生えている。服装は給仕のような動きやすい服にエプロンを纏い、それが様になっている。そんな威圧感とは程遠い装いにもかかわらず、彼女の周囲には何かどす黒い物が見えるのではないかと錯覚するほどに重苦しい空気が漂っていた。


「……ミ、ト?」


 それは、俺の妹であるミトその人であった。しかし、彼女は俺の言葉に反応せず、じっと俺たちを見たままぶつぶつと口の中で呟いていた。


「どうしてお兄様はあの女に跨っているのあの女はお兄様の何なのお兄様は私がいるのに何であの女に跨っているのそんなのみとめないみとめないみとめないみとめないにくいにくいにくいにくいお兄様は私だけの物お兄様の愛を受けるのは私だけでいいのだからお兄様は私のために生きて私もお兄様のためだけに生きるのだからお兄様に言い寄ってくる邪魔な女は私が消さなくちゃ私が守ってあげないとお兄様に悪い虫がついちゃうからだからあの女も始末しなきゃだから………………」


 ミトはぶつぶつと何かを呟きながら、俺の下で息を切らしていたカーナを片手で持ち上げ、壁をぶち抜いてその奥へと向かっていった。

 俺たちは、連れ去られたカーナ含め、彼女の威圧感と突飛な行動に誰も行動できなかった。


 茫然とすること数秒、誰かの悲鳴が遠くで聞こえ、俺たちは我に返って騒然となった。

 俺は慌ててその場にいた指示を出し、手分けをして捜索だけをするように依頼した。ミトは腐っても俺の妹、戦闘能力で言えば魔王軍の中でも俺に次ぐナンバー2なのだから、注意するに越したことはない。


 そして、捜索の結果、俺たちは見てしまった。


「ごめんなさいゆるしてくださいもうしません。私は魔族以下のトカゲもどきですだからいたいことしないでいやなことしないで、つめをはがさないでうろこをはがないでおねがいしますもうなにもいりませんだからゆるしてくださいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 カーナの姿はひどいものだった。俺との戦いの後でも失われなかった滑らかな鱗の輝きはくすみ、爪や鱗の何枚かが無残にも飛び散っている。また、先ほどの戦いではついぞ抜かれることのなかった腰の刀も無残にも真っ二つに折れていた。そして何よりも、先ほどまでどれほど攻撃を受けても、決して陰ることのなかった瞳が、まるで死んだ魚のように虚空を眺めたまま何も移していないのが、彼女の状態を如実に表していた。


 そこまでして満足したのだろうか、俺が来た瞬間に、ミトは俺に抱き付いて頬を寄せる。俺はミトを逃がさないようにしっかりと肩を抱きながら、医療班のドラゴニュート達がカーナを連れて行くのを見ているしかなかった。


 代理人を立てるにしろなんにしろ、このままでは話にならない。龍族の大臣を務める男から伝えられた、要約すると早く帰れという言葉と冷たい視線に耐えられず、俺はミトと共に魔王城に逃げ帰ったのだった。


 龍族よ、妹が迷惑かけてマジでごめん

一応魔王側も龍王側も力試しだと思ってバトってるから、武器は使用していません、ミトちゃんは武器を使用していませんが、素手で龍王を作中の状態まで追い込みました。多分時空魔法的な奴で時間伸ばして拷問してます。

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