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おまけエッセイ:#Mee too!と言えない子供たちのために

ここまで(かえで)くんと氷芽(ひめ)ちゃん(とちょっとだけリジーちゃん)の物語を読んでいただき、ついでにこのエッセイまで覗いてくださっている皆様。

まずは、ありがとうございます。


恋愛以前のチキンな男の子の心情に夏の匂い(主にカレー)を絡ませるのが作者的には面白かった物語ですが、今回お話したいのは、もう1つのテーマ。

家庭内の性犯罪について、です。


氷芽ちゃんの家庭でなぜ性犯罪が起きたか?

を解説しつつ、『普通の家庭』での性犯罪の問題点などについて所感をまとめています。


気になる方だけ、どうぞ。

セクハラに対して#Mee too!という声(日本では政治利用された感があって若干残念です)が上がるようになった昨今。

ですが、もしこれから先、もっと多くの女性が#Mee too!と言うようになっても、おそらくは沈黙を守ってしまうだろう存在がいます。

それが、家庭内での性犯罪被害に遭っている多くの子供たちなのです。


よくこのテーマが読み物で扱われる際には、そうした子供たちの多くの家庭は経済的・社会的に破綻していたり、あるいは義父がそういう趣味の秘密組織に関わっていたり、といった設定になっています。

それは、悪いことではない。


しかし、#Mee too!と言えない多くの子供たちの家庭の中には、おそらく、氷芽ちゃんのお家のように割かし『普通』の家も多く含まれていることでしょう。

家庭内での性犯罪の怖さはここにあるのです。


■■『普通の家庭』に隠されている怖さ■■


想像してみて下さい。

もし、あなたがまだ経済的に自立する手段を持たない子供で、これまであなたを大切にしてくれていた大好きな家族が、あなたを欲望の捌け口にしだしたら。

その行為以外は、相変わらず大好きな家族であり続けるとしたら。


あなたは、被害を誰かに言ったり、相談したり、できますか?


あなたのその発言で、家族が警察につかまったり、悲しんだり、離婚したり。

あるいは、氷芽ちゃんのお母さんのように、逆上して加害者を殺そうとする家族もいるかもしれません。


社会的・経済的に無力な幼いあなたにとっての唯一の寄る辺である家庭が、あなたの一言で崩壊するかもしれないのです。


その恐怖に打ち克ち、助けを求めて声をあげることが、あなたにできるでしょうか?




多くの『普通』の家庭で性犯罪被害にあっている子供たちは、家庭を守るために口をつぐんでいるのではないか、と私は推測しています。


これらの子供たちが統計にあらわれることはありません。

しかし、おそらくは、一定数以上いることでしょう。



次に、家庭内での性犯罪が起こる『普通』の家庭の雰囲気というものを知っていただきたいと思います。

なぜかというと、家庭内の性犯罪は、加害者・被害者の問題にとどまらず、家庭全体の問題である場合が多いからです。


ここでは、この物語の氷芽ちゃんのお家の例を通して見ていきましょう。


氷芽ちゃんの家庭は典型的なモデルケースというわけではありませんが(なにしろあくまでフィクションとして構成した家庭ですから)、そのややこしい雰囲気は掴んでいただけるかと思います。



■■家庭内性犯罪の一例■■


【家族構成】核家族(4人)

父親:会社員。出張が多く、不在がち

母親:専業主婦。メンタル的にやや不安定。依存心・支配欲の強いタイプ

兄(加害者):被害者の4歳上。母親との折り合いは悪い。被害者にとっては父親代わりのような存在。

妹(被害者):母親より溺愛されて育つ。8歳の時より兄から性的虐待を受ける。


上のプロフィールから、この家族の持つ歪さを感じ取った方がいらっしゃれば、それは多分正しい解釈です。

この家族は兄→妹への性的虐待だけでなく、誰もが誰かの被害者である家族なのです。


さて、このような家族の中で性犯罪が発生する問題について、一般論をからめられるところはからめつつ、掘り下げられるところは掘り下げつつ、見ていきましょう。


(以下、雰囲気を掴むために『氷芽ちゃんの家庭についての説明』という形をとっており、論理的・学術的なものではありませんがお許しを)



【性的虐待の動機~タブーの壁を崩すもの~】


多くの人間には性欲があるものですが、それを血のつながった家族に向けることは、社会的・文化的にタブーとして根付いています。


では家庭内で性的虐待をしてしまう人間はなぜ、タブーの壁を崩すのか?

この家族の兄(加害者)の場合、その原因は愛情不足だと考えられます。


父親が不在がちの家庭で、父親代わりとして頼りにされてはいますが、『子供』としての愛情をかけられていない。

どんなに努力しても親の愛情は妹にしか向けられない。

そこで、無意識に親の愛情に代わるものを得ようとした結果が、妹への性的虐待につながったという一面もあります。


もちろん、愛情不足だった人が全てタブーを侵すわけではありません。しかし何らかの問題を抱えやすいのも、また事実なのです。



【被害者はなぜ拒否しないのか?】


家庭内での性犯罪被害者について思われがちな疑問。それが「なぜ最初に拒否しないのか」です。

これは多くの場合「家族だからこそ」としか説明しようがない、と私は感じます。


このケースのように被害者が幼い場合であれば特に「大好きな家族が自分に悪いことをするはずがない」という思い込みが強い。

また、「大好きな家族が自分を傷つけている」と認識したくない、という心理も存在する。

拒否して騒ぎになり、それを嫌というほど認識するのに比べれば、一時ガマンして「なかったこと」にしてしまった方がラク、ということです。


しかし加害者の方は拒否されなかったことで「して良い」と思い込み、その行為は習慣化していく。

また性犯罪の加害者というのはなぜか、その行為を正当化し被害者に罪を着せるのが上手な人が多いのだそうです。


被害者が罪悪感を持った上で習慣化……となると、そこから抜け出すのはより、難しくなってしまいます。



【支配者のいる家庭の怖さ】


この部分『諸悪の根源は親』的な言い方になるので気分悪い方もおられるでしょうが、お許しを。私も母親ですので自戒の意を込めてお話ししたいと思います。


さて、この家庭での母親は、性的虐待に直接には関わっていませんが重要な鍵となっています。


母子関係において依存と支配はワンセットになりがちですが、この母親は無自覚にそれをすることで、性的虐待の温床となる家庭の歪みを作り出しているのです。


親子間の支配とは、つまりは親が子供を従わせることです。

まぁそれが必要な時もありますし、誰でも言うこと聞く子の方が正直いって助かるわけですが、この母親の場合はそれが顕著です。


メンタル的に不安定なせいもあって『子供が思い通りにならない』状況に対してガマンできない。気に入らないことのイチイチに対して猛烈に怒るわけです。

(子供が成長し、怒りにある程度の耐性がついてくると今度は『悲しむ』『心配する』を支配の手段に取り入れます。氷芽ちゃんが本編で言っているのはこのことですね)


兄はそれでも我を通すタイプなので物心つく頃には可愛がられなくなり、放置されがちになってきます。

妹は逆に、母親の怒りを恐れ、盲目的に従うようになっていきます。

結果、母親から溺愛されますが……これは支配が形を変えただけのこと。


従ってまた、色々と問題を生むことになってくるのです。

(この家庭では父親不在ですが、もし父親が支配者タイプの家庭ならここで父→娘への性的虐待、という事態が起こる可能性もあります)


兄は、母親の妹に対する態度から『可愛がってさえいればいかようにも支配してよい』と学んでいきます。

父親代わりとして妹を可愛がり、信頼されている兄が、性的なことに興味が出てきた時に妹をその対象にするのは、この家庭ではじゅうぶんにあり得ることだったのです。



【周囲の対応の難しさ】


家庭内での性犯罪は、被害者が拒否することが難しい一方で、周囲が気付いたとしても止めるのが難しいという側面も持ちます。


このケースの母親は最初に被害者から報告を受けたにも関わらず「逆上して加害者をぶっ刺そうとする」「被害者に隙があると叱りつける」というかなり残念な対応をとります。


その結果、恐怖心を抱いた被害者は事実を否定すると共に『自分が悪い』という認識を植え付けられてしまいます。

そして加害者の方は、被害者の恐怖心と罪悪感を利用して性的虐待を続けますが、被害者は2度と母親に告げようとしませんでした。


この例は『止めようとしても間違えば加速させてしまう場合すらある』という、周囲の対応の難しさをあらわすものです。



さて、ここまで読まれた方は、『普通』の家庭であっても性犯罪が起こり得ることと、そこに至る流れを(下手な説明で申し訳ないですが)少しはわかっていただけたのではないでしょうか。


では、このような事態となった時の具体的な対処について……実は私は『これが正しい!』という確信を持った論を展開することができません。


事態が明るみに出れば、多くの場合、家庭は崩れてしまうでしょう。


極論をいえば「こんな家、崩壊しても良いんじゃね?いやむしろ崩壊した方が良いよね!?」なのです。

しかし心理的にはそうでも、そうすると被害者の経済的・社会的基盤はどうなるのか……とか。


そこで、対処についてはふわっとした所感として述べておくに止めます。


■■対処について思うこと■■


具体的かつ有効な対処としては『引き離す』しかありません。


昔教わった先生の言葉に『人間は何にでも依存する』というものがあります。虐待もまた、依存症という側面を持っています。引き離されない限りは続くと考えた方が良い。


(ちなみにこの先生は児童福祉の現場に携わっておられましたが『子(被害者)を取り返そうとする親(加害者)から包丁を複数投げられた』などその現場の怖さをたっぷり教えてくださいました)


しかし根本的な解決にはなっていないわけです。

本編でも氷芽ちゃんが「離れていたら元の家族に戻っているような気がしたけど」とその複雑な心境を述べています。

久々に会った妹に兄は性的虐待を繰り返し、氷芽ちゃんは『大好きだったお兄さん』はもう居ないのだ、と思い知るわけです。


根本的な解決としては、家族全員がカウンセリングを受けるのが望ましい。しかし、これは現実的ではありません。

回復プロセスが完了するまで、全員がカウンセリングを受ける……加害者はまず同意しないでしょうし、いつ終わるとも知れない長い戦いですから。


つまり、被害者の子供が救われるには『家庭の崩壊・家族の喪失』が前提であるのが現実なのです。


もちろん、加害者である家族とは離れた方が良い。

しかしなぜ被害者には『普通の家族』が与えられないのでしょうか?


仕方がないといえば仕方がないことなのですが、そこが私にはどうしても、引っ掛かってしまうのです。



さて、この次は本当にアホな個人的思考を晒しております。


そういう被害を受けそうになった子供が、未然に防げる社会になってほしい!という願いからなのですが……


まぁご笑覧いただければ。

真面目モードで終わりたい方は、ここで終了してくださいね。


■■エロは恥ずかしいことではない!という社会、どうですか?■■


家庭で性犯罪の被害を受けている子供がそれを口にしないのは多々の理由がありますが、その大きなものの1つが『エロは恥ずかしい』という認識です。


本編でもチカンに遭った氷芽ちゃんが警察に行くことを拒絶しますが、性犯罪は被害を受けたと言うことも恥ずかしい、と思ってしまいがち。

(#Me too!運動はそこを破るという点では大きな意味を持っていますね)


そう、エロいこと・エロに関心を持つことは、恥ずかしいこと・汚いことと考えられやすいですよね。

私が好きな、あるなろう小説やとあるマンガの中にも『エロを描くのは敗者』というような表現があります。


このように多くの人がエロを蔑むのは、『欲望』と『欲望を他者に向けること』を混同しているからではないでしょうか。


私は、恥ずかしいのは『欲望』ではなく『欲望を他者に向けること』である、という立場です。


欲望そのものはむしろ、大いに肯定されるべき。なにしろ、全生命は欲望から発生して裸で生まれてくるのですから。

欲望そのものを否定することは、生命の自己否定に他ならないのではないでしょうか。


真に恥ずかしいのは、欲望を他者に向け、その心身を傷付けることです。

それを実現させてしまう、想像力・共感力の欠如です。


つまりですね。

何を言いたいかというと『もっと牧歌的にエロを語れる世の中にしようぜ!』ってことなんです。


理想は

「ほらー見てごらん!昆虫たちが大人になってセックスを始めたよ!これは大人になってからするもので、子供のうちはしちゃだめなんだよ。

もししてくる大人がいたらそれは悪いヤツなんだ!よく覚えておきなさい!はっはっはっ」

と明るく教えられる世の中。


「このクソ親父~!親のクセに子供のケツなめてんじゃねーよ!おまわりさんにチクんぞボケっ」

と、幼い被害者でも堂々と拒否できる程度に性教育が行き届いている社会。


あるいは

「ねーねー!先生!昨日さーお父ちゃんがお尻をナメナメしてきたんだよ!」

「なんとっケシからんな!よし!先生がお父ちゃんのお尻をペンペンしてやろうっ!」

というやりとりが平然と行われる社会なのですが(笑)

ダメ?

いかがでしたでしょうか?

『ここ違う!』など気になる点がありましたら、遠慮なくご意見いただけると有り難いです。


では。台風お気をつけて、良いお盆をお迎えくださいませm(_ _)m

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