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私の父  作者: 雪焼
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3歳の私と社長

チリーン、カランカラン。

お店の入り口の鈴がなり、いつものようにお客が来る。


「ママ〜、今日もきたよ〜」

母を私と同じように呼ぶ男性の声。


「あら、いらっしゃい〜」

と甲高い声で挨拶する母。


その声を聞きながらお店のバッグヤードで静かに待つのが私の日常だ。



1990年代。

バブルは弾けたが、その頃の派手さが抜けない人達は少なくなかった。

母のお店もその内の一つだ。


ここは群馬県太田市にある小さなスナック。


母はここで雇われママをしている。

勤めてもう3年ほどだろうか。


オムツも外れた私は

深夜の託児所から母のお店のバッグヤードにいることが多くなった。


この頃、”父親”はいなかった。


簡単に話すと私の出生1ヶ月前に不慮の交通事故で他界した。

詳しくはまた別の機会にでも話そう。


チリーン、カランカラン。

またお店の入り口の鈴がなり、次のお客が来る。

「こんばんで〜す」

母「いらっしゃ〜い、A美ちゃんついて〜」

「はーい、いらっしゃいませ〜」

着飾った綺麗なお姉さんが母に負けない甲高い声で返事をし

母の指示に従う。


幼心にも”綺麗で非日常的な場所”というのは分かった。


チリーン、カランカラン。

またお店の入り口の鈴がなる、入り口の方を見る。

「・・・。」

黙って入って来る、あの客だ。


他の客とは違う、”ママの人”だから。


その”ママの人”は静かにカウンターに座る。

何も言われずとも飲むものは決まっている。

他の客が飲まない”高いお酒”を”ママの人”は好むのだそうだ。


私はこの”ママの人”が好きではなかった。

だが、”ママの人”のおかげで母娘が健康に生きているのも事実だ。

だから黙っている。


”ママの人”以外は明るくガヤガヤと飲んでいる。


小さなスナックはお客が5人もきたらパンパンになってしまう。

”ママ”である母も大忙しだ。


各テーブルに着いては挨拶をし、お酒をいただき、次のテーブルへ。

”ママの人”をほったらかして。


お店のバッグヤードからお店の中を覗くと

お客の一人が気づく、名前は仮に田中さんとしよう。


田中「雪ちゃん!いたのかい?こっちにおいで。フルーツ頼んであげるよ。」

母 「あら!いいんですか?雪、こっちにおいで」

そう呼ばれてお店の中へ、恒例行事でありお店に入る儀式にも思えた。


当時バブル感が抜けてないスナックでフルーツなかなか高級だ。

当時3歳の私では稼ぎにならないが

フルーツの注文は女の子やお姉さんが稼ぐ額よりいい金額だったらしい。


1500円、3000円、5000円のフルーツ盛りがある。

大抵は3000円のフルーツ盛りだ。


母もこれが注文されるのを分かってて私をお店に置くのだ。

「ありがとう!田中さん!」

元気よくお礼を言う私、なんかそうしなければいけない気がしたからだ。


違うテーブルでも、私は呼ばれる。

フルーツ盛りが頼まれる、お礼を言う。

その時には必ず”ママ”が一緒なのだ。

”ママ”を呼びたいから私を呼ぶ。

私は母にとってもお客にとっても”都合のいい口実”なのだ。


そうでなければいけない気がするのだ。


ふと、カウンターを見る。

”ママの人”は静かに飲んでる。

母のことはカウンターに来た時のみ見る、だが黙っている。


”ママの人”は週4で通う。

お店自体は土日休みだ。

そして週4日目は決まって最終日である金曜だ。


金曜日のお店を閉める時間に残っているのは

”ママの人”だけだ。


3人で”ママの人”の家に向かう。

私は”ママの人”のことを社長と呼ぶ。

私は夜中ずっとアニメのビデオを見る、ずっと朝になるまで。


母と社長は大きなベッドに寝ている。

私はそこに一緒に寝てはいけない気がする。

なぜか、なぜだか。

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