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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
次世代の神達
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信念

その少し前、将維と炎託が光希の屋敷の上へと到着すると、上空で見張っていた碧黎が振り返った。

「…主、父に擦り付けるのはやはり気が重かったか。」

言われて、炎託は驚いた。碧黎は、知っていたのだ。確かにこの地が、それに気付かぬはずはなかった。

「知っておったのか。ならばなぜに、すぐに知らせてくれぬのよ。」

碧黎は、苦笑した。

「そんなもの、わざわざ知らせておったら、我は忙しゅうてならぬわ。神世にどれほどそんなことがある思うておるのだ。なので、我は口出しはせぬのだ。別に誰の子でも構わぬ。炎嘉でも確かに直系で、孫なのだから問題は無かろうが。だがしかし…今の主には、少し面倒な責務よな。」

将維は驚いたが、炎託は頷いた。

「主が知っておったのは知っておる。時にチラチラ我を見ておったからの。老いが来ておるのを気取っておったのだろう。だが、責任は取るつもりよ。あれを助けるのに、我の手が必要ならやる。それが最後の責務であろうしな。」

碧黎は、首を振った。

「主が役に立つとすれば、最後に主の身に闇を抱えて死ぬことぞ。今の主ではあれに対抗するのは無理よ。回りの誰も、いくら寿命が少ないとはいえ、そんな死に方をさせたいとは思わぬだろう。」と、足元を見た。「…とりあえず、見て参るが良い。見ればすぐに分かる。あれは、主の子ぞ。」

炎託は、息をついて頷き、将維に気遣われながら、光希の屋敷へと降りて行った。


十六夜が、戸を開いた。

「おう。来たか。で、炎託死にそうなんだって?」と、炎託の体をとっくりと頭の先から足先まで見て、顔をしかめた。「いや、まだまだじゃねぇ?オレの結界の中だから楽なはずなんだがな。倒れるってそんな大層な消耗じゃねぇぞ。」

その礼儀もへったくれもない様子に、将維が思わず脇から言った。

「こら十六夜。少しは遠慮せぬか。老いて来るといろいろ体調も悪うなるのだ。主は老いたこともないから分からぬだろうが。」

十六夜は、将維を軽く睨んだ。

「あのなあ緑青を看取ってるんだし知ってるんだっての。あいつは元々の気が炎託ほど多くなかったが、月の浄化の光だけでそりゃ頑張ってたぞ。普通に老いてたのにさ。寝たきりになってからも数年頑張ったんだからな。弱音も吐かなかった。息子の緑黄が心配してうるさかったが、本人は老いてるだけで平気だって叱り飛ばしていたもんな。ま、最後は眠るように死んでった。だから炎託はまだまだ死にそうにないって言ってんの。」

炎託は、十六夜が炎嘉と同じようなことを言うのに、少し自分が恥ずかしくなった。死斑が出たからと、もう死ぬと自分に酔っていたのではないか。

だが、碧黎には闇と戦う力はないと言われた。

複雑だったが、炎託はそんな十六夜には軽く睨んだ程度で応え、そうして奥へと、足を進めた。


すると、奥の寝台に若い神が寝かされていて、それを維月がじっと見ているのが目に入った。

その若い神を見た途端、炎託の体の中の気が、ピリッと震えた。同調する気を感じる…つまり、同じ気を気取ったのだ。

その瞬間、炎託は顔を見る必要もなく、それが自分の息子だということがハッキリと分かった。

「…我の子よ。」

炎託は、その瞬間にすぐ言った。維月が、驚いたような顔をした。

「そんなに早くに分かったのですか?」

炎託は、苦笑しながら頷いた。

「本来よく見る必要などない。己の子ならば己の種から出来ておるから、気が一瞬にして同調するのを感じるもの。これは、我の子。」と、顔を覗き込んだ。「…確かに我にそっくりであるな。鳥であるし…なぜに気付かなんだものか。」

十六夜が、後ろから将維と共に入って来て、言った。

「産んだ梓っていう女が気を封じる術を生まれた時から掛けてたからだ。オレ達だってこいつが鳥だって分からなかったぐらいだから、結構な術だぞ。あの女にしたら必死だったろうから、自分の力をほとんど使ってやってたんじゃねぇか。」

炎託は、怪訝な顔をして首を傾げた。

「梓?…そんな名であったかの。いや、確かに顔も覚えておらぬし、名も聞いたかどうか…。」

維月が呆れたように眉を上げたので、将維が慌てて言った。

「炎託、確かにあちらから縋られて蹴り飛ばさねば断れなんだとか言うておったよな?それほどに言うならとか。」

炎託は、その時を思い出すように、遠い目をした。

「…そうであったの。若い女で、まだ子供のようであるから分別もつかぬのだと断ろうとしたのだが、足に縋っておって離れぬでな。あんな様を見られては噂も立つであろうし、娶るという形ではなくその時だけで忘れるというなら、仕方がないと思うたのだけ、覚えておるな。脇の物置部屋のような場でササッと済ませてすぐ帰ったので、顔も覚えておらぬのだ、本当に。」

十六夜は、呆れて言った。

「あのなあ、そんなでも相手にとっちゃお前が好きで必死だったんだと思うぞ?その程度だったらやめときゃよかったのに。…って言っても、まあそうなると、炎耀は居なかったってことになるんだけどよ。」

炎託は、息をついた。

「瑞姫との間にも長く子が出来ぬであったから、そう簡単に出来ぬのかと思うておっただけ。しかし、これは我の子なのだ。炎耀と申すのだな?…助けねばならぬの。」

そう言った途端、炎耀の目が、スッと開いた。

「…父上…。」

炎託は、ギョッとした。闇か?いや…しかし今の声には、そんなやましい色はなかった。

それよりも、いきなり父と呼ばれたことに、戸惑ったのだ。

「炎耀?!そうだぞ、ここにお前の父親が居る!」

十六夜が言う。炎耀は、大義そうにこちらを見ようとして体を動かしていた。まるで見えない何かに押さえ付けられているかのように、体が変な動きをしている。炎託は、将維に背を押されてその視線の先に入るように歩み寄った。

「…炎耀。」

炎託が言うと、自分そっくりの赤いような茶色の瞳で、何とかして炎託を見ようともがいた。そうして、炎託の姿を見ると、見る見るその目に、涙を浮かべた。

「ち、父上…聞いておりました。ご迷惑を…申し訳…、」

無理に、何かに抗うようにして話しているようで、口が変な動きをしている。炎託は、その姿に、自分でも何の感情なのか分からなかったが、感じたことのない熱い塊のような物が、胸の奥から湧き上がって来るのを感じた。なので、首を振った。

「良い。主のせいではないのだ。それに、主は我ら鳥族を、助ける力となる子。見つかって良かったのだと思うておる。闇などに憑かれておる場合ではないのだ。」

炎耀の目からは、ボロボロと涙がこぼれて落ちている。維月がそれを見て涙ぐんでいると、フッと炎耀の目が、真上を見た。そうして、怒鳴るように言った。

「何を出ようとしておる!主は我に体を貸すと約したであろうが!赤子に戻って良いのだな!」

炎託と将維がその変貌に思わず後ずさると、維月が目を真っ赤にしたかと思うと、怒鳴った。

「うるさい!黙りなさい!この下僕が!」

ピタと炎耀が口を閉じた。しかし、目は真っ直ぐに寝台の天井を見ていて、身動きしない。

それを見た十六夜が、二人を隣りの部屋へと押して、戸を閉めた。そして、戸を背にして、言った。

「…闇に支配されようとしてるんでぇ。だが、炎託の声を聴いただけでああして炎耀は闇を押しのけて出て来た。見てたら、やっぱり力が足りねぇんだ。闇に今、押しのけられて押さえ付けられたんだと思う。維月が居るから、まずはあいつも暴れられないと思うけどよ…」

「いいこと?!お前は私の下僕なのよ?!何を勝手に話しておるの!話す前には膝まづけと言ったでしょう!寝ておるままとはどういうことよ!許しを乞いなさい!…何よ、踏まれたいの?汚らわしいお前を私の靴が触れるだけで怖気が走るわ!ひれ伏して乞うたら蹴り飛ばしてやるかもしれぬわよ!」

隣りから、維月が発する罵詈雑言が漏れ聞こえて来る。将維は、それを聞いてビクビクしていたが、心配そうに十六夜を見た。

「のう十六夜、維月は大丈夫なのか?あのような様は、見たことがないのだが。確かに月の宮では口調も砕けておったが、あれほどに口は悪くはなかったと思うのだが…。」

それには、十六夜も頷いた。

「維心も親父もあれも維月だからって言うんだけどよ、確かに陰の月に憑かれた維月ってのは激しく闇寄りで、もうさあ、サディスティックな女なんだよ。でも、見てたら闇は下僕であれを喜んでるみたいな。あれで喜びを感じるって、マゾティシズムの権化なんじゃねぇかって思うんだよな。踏んづけられたらそれでめっちゃ気持ちいいらしいぞ?紫翠もそれを気取ってドン引きしてたよ。まあ、炎耀の体にはなるべく傷は付けねぇようにするから安心しな。」

あれが快いのか。

将維も炎託もドン退きしていたが、ああして闇をコントロールして心が炎耀に行かないようにしているのだろう。維月にかまけている間、闇は炎耀を浸食していく気持ちが反れると思われるからだ。

十六夜は、まだ聞こえて来る隣からのドタバタに、ハアとため息をついた。

「さっきから目を開けたらあの調子なんでぇ。紫翠もモニターしてくれてたが、理解出来ぬと疲れきって来たから一旦部屋へ帰したんだ。闇は痛め付けられる快感に目覚めたようで、そういう性的な感覚ってのは無縁で居た命だろう?だから我を忘れるみたいなんでぇ。それで出てきてくれたらお前らの手を煩わせることもねぇし、いいと思ったんだがオレの気がするからさすがにそれは無くてよぉ。」

そういう趣向はわからない。

将維も炎託もただ呆然としていたが、それで炎耀が楽なのなら仕方がない。

「あら蹴ってもらうつもり?その程度で?だったらもっと私を楽しませなさい!この下僕!」

維月の声はまだ続く。

十六夜も疲れきっていたが、気持ちは痛いほどわかった二人だった。

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