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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者: 環
次世代の神達
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その方法

十六夜が、身を乗り出した。

「なんだよ?お前、なんか思いついたのか。」

明蓮は、頷いた。

「とは申して、我とてあまり気が進まぬことでありまするが…」と、息をついた。「…公明様は、あれを言いくるめた。普通ならそんなことは無理であり申した。なぜに闇は、あれにへりくだっておったのだと思われますか。」

蒼は、顔をしかめた。

「どうだろうな…多分だけど、公明は奏の子だから。奏はオレの子と、維月の子の晃維との間の子で、ほとんどが月で。身の内に、陰の月を持っておったのだ。なので公明もそう。恐らくは、かなり薄れてはおるが、主とて瑠維の子なのだから陰の月を持ってるわな。だからじゃないかって話してたんだが。」

明蓮は、知っていたことなのか、頷いた。

「その通りでありまする。我はそんなことは思いつかなんだが、公明様はそうした。元々口が達者であるのもですが、それを成させたのはおそらくは陰の月の力。つまりは、闇は陰の月には取り入ろうとするのですよ。陰の月の力は、もともと闇を思い通りに操る力です。そうして縛った上で、陽の月が消し去るというのが、本来の月の機能かと思われまする。」

蒼は、あ、と口を押さえた。言われてみればそうなのだ。これまで、十六夜一人が必死に消していて維月は守られる存在として気楽にしていたが、本来は維月が抑えて十六夜が消すという連携プレーが出来るようになっていた。

闇の霧を消すぐらいならそれでもいいが、闇自体を消すとなると月は総力を結集して対抗せねばならないだろう。

維月が取り込まれることばかりを思って遠ざけてばかりいたが、本来は共に戦う仕様なのだ。

「…そういえば維月は、前の時はどうやったらいいのか分からなかったんでぇ。霧を操るのはさせてなかったし、維月も陰の月の力は使わないようにしてた。だから知らなかったんだ。だけど今回は、あいつも生まれつき月だから、オレと一緒に小さい頃はよく遊んだんでぇ。維月がどっかから闇の塊をボールにして持って来て、仰天したオレが慌てて消すってのもよくあることだった。」

それはそれで、そこに居る者達は驚いて目を丸くした。維月は闇の霧を遊び道具にしていたのか。

その空気を察して、十六夜が苦笑して続けた。

「まあ、それまで維月を怒ったことなどなかった親父にどやされて泣いてたから、ちょっと育ってからはやらなかったけどな。オレが消すから大丈夫だって親父をなだめて維月を庇ってたっけ。」

将維は、ドン引きしていたが場を落ち着かせようと言った。

「では…まあ今生、維月は闇を扱えるということよな。そうやって文字通り手玉に取っておったのだから。」

十六夜は、頷いた。

「そうだよな、見て見て十六夜、お手玉できるのーっとか言って闇の霧を丸めてポンポン飛ばして回してたこともあったしな。もちろん、すぐに消したけど。」

幼い頃だから罪はないが、小さいので大層なことをしていた自覚は無かったのだろう。碧黎が怒るのも無理はない。

「いや、そういう意味では無かったのだが。」

将維は困ったように言ったが、蒼は真面目に頷いた。

「ということは、碧黎様も維心様も警戒して維月を閉じ込めて守ってるけど、維月が来たらもしかして、闇は出て来るかもしれないってことだよな。今回の維月は、前の維月と違って、闇の扱いを知ってる?」

十六夜は、うーんと腕を組んで、考え込むような顔をした。

「本人に聞いてみなきゃ分からねぇが、恐らくはな。とにかく霧で遊んだら親父が怒るんで、維月も隠れて遊んでたしよ。霧を集めて形を作らせて、それを後ろに従わせて、見て、犬よ!とか言ってたこともあった。今は成人してるんだし、だからもっと出来るんじゃねぇか。」

維月にすれば、上手く形を作れる粘土みたいなものだったのかもしれない。

しかし、将維が考え込むような顔をしながらも、言った。

「だが…取り込まれる可能性も無いわけではなかろう。前回、あれほどあっさり取り込まれてしもうたのだ。此度もあり得ぬことではない。」

しかし、紫翠が首を振った。

「あれは、我が力を放ったものを、遮ろうとしてまともに受けてしもうたから。我は取り込むつもりはなかったし、維月を傷つけようなどこれっぽっちも思わなんだ。というか、闇というのは陰の月を力づくでものにするような、そんなことは本来出来ぬ。何しろ、陰の月の前では体が絶対的に従うように出来ている。陰の月は闇を、まるで己の手足のように使えるのだ…本来ならば。陰の月が同意して初めて、一体化することが出来るのだ。あれは、本当に偶然の産物であった。なぜか維月は、心が我に寄っていて、だからこそつながりがはっきりと出来たのだ。」

闇側の話を聞くことは、興味深い。

つまり闇は、維月の心をものにしないと、繋がりなど作ることが出来ないということなのだ。だからこそ、陰の月には媚びようとするし、その力をものにした後のことを考えると、必死にもなる。

あの時は、維月が深という闇の意識に同情して繋がり、そこへ偶然放った力の前に維月自身が飛び出して来たことで、取り込むことに成功してしまったということなのだ。

蒼が、驚いたように紫翠を見た。

「では、闇は維月を攻撃することは出来ないと?」

紫翠は、すぐに頷いた。

「出来ぬ。唯一の生き残る道である陰の月に嫌われでもしたら、もう自分は死ぬしかないのだからの。媚びて自分についてもらわねばならぬ。言葉の限りを尽くして心を手に入れようとするだろう。だからこそ、陰の月の気配がすると、どうしても躊躇ってしまうのだ。」

知らなかった。

十六夜を含めて、皆がそう思った。闇は、思ったよりずっと陰の月を恐れ、そして陰の月を自分側に着けたいと必死なのだ。

「…だったら、やることは一つだ。」十六夜は、言った。「維月を呼び戻せ。考えたらあいつも月なんだしオレと一緒に戦える。霧でお手玉なんてオレでも出来ねぇ。親父でも無理だ。だが、あいつはやる。あんな小さな手で、泥団子作るより簡単に霧を呼び集めて玉にして投げて遊んでたんだ。今ならもっと出来るはずだ!」

そうして、蒼の遣いは龍の宮へと飛んだのだった。


龍の宮では、維心と碧黎が並んで維月の前に座っていた。

維月は珍しく、対面に座らされており、バツが悪そうな顔をして、二人の顔を代わる代わる見ている。目の前のテーブルには、書状がひとつ、置かれてあった。

「…主は、子供の頃霧で遊んでおったのか?」維心が、咎めるような目で見て、言った。「霧の玉でお手玉を?」

維月は、渋々頷いた。

「はい…。ですが十六夜がすぐに消しておりましたし、父が怒るのでそう頻繁にはやっておりませぬわ。ただ、母から泥で遊んではならぬと言われておって、そうしたらあの頃の私には、思うように形を作って遊べる霧は、大変に便利な道具でありまして…。手も着物も汚れぬので気取られることもありませぬし…。」

碧黎が、維心の横から言った。

「一度見つけた時、決してならぬと言うたよの。なのに主は、我の目を盗んでそんなことをしておったと。」

維月は、小さくなりながら、下を向いた。

「はい…申し訳ありませぬ。だって十六夜がすぐに消してくれるし、いくらでも呼び集められるので雪がなくても雪だるまも作れるし…。」

維心が、息をついた。

「霧でだるまをと。あのな維月、あれは凝縮すると闇になるのだぞ?そんなもので遊ぶなど…ましてそのような幼い頃に。考えただけでも恐ろしいわ。」

碧黎も、頷いた。

「ならぬと申したのに。だから十六夜がこのようなことを言うて来るのだ。」と、書状を一瞥した。「…して、どこまで出来る。霧はどこまで主の言うことを聞くのだ。」

維月は、おずおずと手を上げた。

すると、スーッとどこからか黒い靄のようなものが近付いて来て維月の指の上へと集まって来た。維心が仰天してそれを見ていると、黒い霧になったそれは、丸く形を作り、維月の手の上でくるくると回った。

「何をお見せしたらよろしいでしょう。」

維心と碧黎の二重の結界を事も無げに通り過ぎて霧を集めた維月に若干引き気味だった碧黎だったが、言った。

「なんでも良い。出来ることをやってみよ。」

維月は頷いて、霧を見た。

すると霧は、フワッと宙に舞って見事な薔薇の花を形作った。ご丁寧にも蝶の形になった霧が、その回りを飛んでいる様まで表現されている。

と思ったら、霧はスーッと形を変えて維月の足元へと降り、そうして、猫の形に変化した。その猫は、維月の膝に頭を摺り寄せ、そうしてぴょんと膝へと飛び乗った。

維月は、その猫の頭を撫でるような仕草をした。すると猫は形を崩し、また丸い玉へと戻った。

「こんな感じですの。」維月は言ってから、窓を見た。「十六夜。」

すると、見ていたように月からピンポイントにその霧へと浄化の光が降りて来て、一瞬にして霧は消え去って行った。

維心と碧黎の二人が茫然とそれを見ていると、維月はしょんぼりと下を向いて、言った。

「私と十六夜の間には、切っても切れない繋がりがありまして、私が消して欲しいと思って十六夜の名を呼ぶと、十六夜の意識の外でもその力が降りて参りますの。もちろん、十六夜は力を使われたことを気取るので、私が霧で遊んで消したな、と分かるんですけど。だから、きっと今も分かったと思いますわ。その…小さい時は、こうやっておりました。お父様の気配がしたら、すぐに十六夜を呼んでその力で消して証拠隠滅しておりましたの。ほとんどが一緒に居たので、言わなくても十六夜が後始末してくれてたんですけど…。」

つくづく、今生の育ち方は特殊だった。

そもそも、十六夜と碧黎が育てたという維月は、二人が甘いのもあって、結構好き勝手して育ったのだ。

碧黎が禁じても、いつも側にいる十六夜が見逃したら、維月はそれが出来たのだ。

もちろん十六夜が駄目だと言ったら何も出来なかっただろうが、こんなことまで許していたのだから、結構なことが出来たんじゃないだろうか。

維月は、十六夜の価値観で育ったようなものなのだ。

「…前世の記憶が戻っておった良かったことよ。」維心が、ホッと息をついて、やっと言った。「十六夜の甘やかせぶりには呆れるわ。よう無事にここまで育ったの。というて、それが陰の月本来の姿であろうし…それを知っておったら、これほど我らも警戒せなんだものを。」

維月は、すっかりしょぼくれていた。

「はい…申し訳ありませぬ。」

碧黎が、息をついた。

「まあ良い、前世はその力を扱えなんだゆえああなったのであるしの。紫翠が闇の転生した姿で、ああして闇側のことを聞ける機会があったのも幸運だった。ならば、我らと共ならば、あちらへ参っても良かろう。何をするつもりなのか知らぬが、出来ることはして、無理ならさっさと殺して終いにする。参ろうぞ。」

そう言った途端、碧黎のガッツリした結界は、龍の宮の奥から消えた。

そうして、維心と碧黎に伴われて、維月は再び月の宮へと戻って行ったのだった。

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