表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
次世代の神達
24/198

後悔

薫は、後悔していた。

光希は、死ぬことは無かったのだ。それなのに、自分が光希自身の性質が悪いのだと思い込み、それを自分で何とかしようとした。

途中から、何やらおかしいと気付いてはいたのに。

薫にとって、闇というものの存在など、ここへ来て初めて学んだものだった。まさか、これほどに面倒でどうしようもないものだとは、思いもしなかったのだ。

今日は、また蒼の部屋へと呼ばれるかもしれず、非番で部屋に籠っていた薫だったが、そのせいで更に昨夜のことが思い出されて、悔やまれてならなかった。

ふと、部屋の戸が鳴った。

「…薫?」

螢の声だ。

螢の存在すら昨夜の事件を思い出させて億劫だったが、無視するわけにも行かない。

薫は、戸を開いた。

「…なんぞ。」

螢は、薫の憔悴し切った顔を見て、苦い笑顔を作った。

「酷い顔だの。」

薫は、フンと戸を開いたまま、螢に背を向けた。

「うるさいわ。主だって神々しいにはほど遠い顔であるぞ?」

螢は、入って来て戸を閉めた。そうして、腕を組んだ。

「主は。己一人のせいではないわ。我だって、光希のことを見誤っておった。朔も、到もぞ。そもそも、ここへ来るまで闇などという存在を、知らずに居ったゆえ。それほどに厄介なものだなどと、思わなんだのだ。」

薫は、チラと螢を振り返ると、大きくため息をついて、頷いた。

「知らぬことだらけぞ。神世にはまだやっと入ったばかり、我らはぐれ者であったものな。確かに、黒い面倒そうな霧がよう、集落の辺りには立っておったわ。そうして、それが立った時には、大概が大きな戦いが起こった。あれが、闇の元凶だなどと、知る由もないわな。誰も知らぬで教えてはくれなんだ。」

螢は、何度も頷いた。

「そうよ。到と朔とも話して参ったが、同じように言うておった。知らぬものは仕方がない。これからは、あのようなことはせぬだろう。ただ、光希は哀れではあるが、それも知らぬで起こってしもうたことなのだ。」

薫は、息をついた。結局は光希は、はぐれの神ではなく普通の暮らしをしている神達の、権力争いに使われた術の、犠牲になったのだ。確かにはぐれの神達は粗野で他者のものを奪い、奪われ、そうやって生きている。だが、生きて行くだけの分を奪って来ているのだ。それ以上のものを、天下を取ろうなど、これっぽっちも考えたことは無かった。何しろ、生きるのに必死でそんなことを考える余裕がないのだ。

「…何が良いのか、我には分からぬようになってしもうた。螢よ、我らはぐれの神は、そんなに悪いのであろうかの?確かに礼儀も知らず己を抑えることも出来ぬ。そんな神が多いのは確かであるが、天下を取ろうとか、そんなことの為に命を奪いに参る事もあるまいが。そもそも、生きるだけで必死なのだからの。誰かを治めるほどの知識がある神も少ない。我は…どうしたら、はぐれの神でも普通の民でも、何かに巻き込まれる事無く平穏に暮らせるのかと思うわ。命を取ったり取られたり、それははぐれの神の中だけのことではない。神世は、どこでもやはり血生臭い。月の宮は特別よ。それでも、こうして死体は出る。」薫は、息をついて、窓の外を見上げた。「どんな世ならば、皆安心して暮らせるのだ。結局はどこかの宮の結界の中でも、外とそう、変わらぬ様よ。確かに外からの敵からは守ってくれよう。だが、内は?余所者の我らにとって、身内ほど怖い敵は居らぬだろうて。」

はぐれの神というだけで、犯人だと決めつけられたりすることを言っているのだ。

螢は、息をついた。

「そうよな。だがの、我は王をご尊敬申し上げておる。あのように素直なかたは、そうは居まい。主がああして非難するようなことを言うたのに、王はすぐにそれを受け入れて悔やんでいらした。こちらの言うことは、きちんと聞いて考えてくださる。ゆえにの、あのかたのために、我は仕えて参ろうと思うのだ。」

薫は、チラと螢を見た。螢は、自分より少し年下なだけの男だ。しかし、小さな頃より母が居た自分よりも、恐らくは苦労して居そうだった。

「…主こそ、素直であるわ。」薫は、そう言って椅子の背へともたれ掛かった。「もっと学ばねばならぬわ。我の知識はまだ、少な過ぎる。神世へ来るのが遅すぎたとは思うておらぬ。これからよ。」

と立ち上がった。螢は、驚いて薫を見上げた。

「どうした?どこへ行くのだ。」

薫は、腰に手を当てて言った。

「学びに参るのよ。ここは学校の宿舎であるぞ?図書館がすぐ近くなのだ。我はもっと、神世の歴史の深い場所から学ぶ。」

薫は、そうしてさっさと部屋を出て行く。

「薫!待たぬか。」

螢は、慌ててそれを追ったのだった。


「…では、紫翠は深であったと?」

維月は、維心と寝台に横になったまま、そう言った。維心は、頷いた。

「そうなのだ。知っておったらあのように世話などさせなんだと思うが、しかし紫翠は良い子であったしな。」

維月は、維心を見上げた。

「そのような。維心様、深は本当に哀れでありましたの。むしろ私は、紫翠が深であって良かったと思うておりまする。今度こそ、誰にも愛される子として育ってほしいもの。闇になど生まれる命では無かったのですわ。」

維心は、咎めるように言う維月に、恨みがましい視線を向けた。

「そうは言うても、最後には主と十六夜を連れて行ってしもうた元凶ぞ。我は、忘れることが出来ぬのだ。あの後、ひと月の間主らを待って黄泉の門の前に座り続けた。我は…あのような絶望を、もう味わいとうないのよ。」

維月は、それを聞くと表情を緩めて、そうして維心を抱きしめた。

「まあ維心様…あちらでお会いして、そうしてまたこちらへ共に参ったではありませぬか。死しても共であると、もう今生は知っておりまする。それが知れましたのですから、あの死も意味があったのですわ。」

維心は、維月を抱きしめ返した。

「分かっておる。だがの…やはり、世を異にするのは、嫌なのだ。主とは片時も離れとうないものを。分かってくれぬか。」

維月は、子供をあやすように維心の頭を撫でた。

「はい。私もですわ。大丈夫…今生は、このままずっと一緒で、共に黄泉へ向かうのですわ。それに、父がそう簡単に死ぬことを許してなどくれませぬ。ご案じなさいますな。」

維心は、クックと笑った。

「おお、そうであったの。碧黎が居ったわ。あれが居って、主らが闇以外のことで世を去るなどない…、」

言ってしまってから、維心はビクッとした。そうだ、闇…。

維月は、慌てて言った。

「今は十六夜の封の中でありますから。それに、私はあの最初の闇には飲まれる事など有りませぬ。なぜなら、同情など欠片もせぬから。ご案じなさいますな。」

だが、闇は陰の月を狙って来る。そうでなければ、絶対に陽の月に勝てないからだ。

「…宮へ帰ろうぞ。ここでは、闇に近すぎる。」

維心は、起き上がった。維月は、驚いて言った。

「ですが維心様、まだ解決策が…。」

維心は、首を振った。

「解決してから来れば良い。我も、主について龍の宮を出ぬ。」

すると、脇から声がした。

「我も同感よ。」

維月は、顔を上げて驚いた。

「お父様!まあ、最近ではいきなりに来られることも少のうございましたのに。」

そう、戸から入って来ていたのだ。それが、今はいきなりそこに居た。つまり、パッと出たということだ。

維心が、軽く碧黎を睨んだ。

「いきなりに夫婦の寝室へ踏み入るなど言語道断なのであるぞ?だがしかし、主は我の意見に同意するのだな、碧黎よ。」

碧黎は、頷いた。

「維月を側に置いてはならぬ。万が一ということがある。龍の宮の中に置いて、結界を強化せよ。我も奥宮に結界を張る。さすればそうそう入っては来れまいが。」

維心は、顔をしかめた。

「有り難いが、しかしそうなると臣下も誰も入っては来れぬのだ。奥の居間と我と維月の部屋だけにしてくれぬか。」

維月は、びっくりして維心を見上げた。

「え、維心様、私は解決するまで居間と寝室しか行き来出来ぬのですか?」

維心は、真剣な顔で、頷いた。

「僅かな間ぞ。維月、主が食われたら、前世と同じことが起きる。十六夜は身を挺して主を殺し、殺されるだろう。そうしたら、碧黎はまた月を作れるか?」

維月は、ハッとした。そうだ、お母様…。

「…お父様。ということは、月は我らが最後ということに。」

碧黎は、頷いた。

「そうよ。本来不死であるのだから、そう何度も転生させる必要もないのだ。それが、人や神が黒い霧を生み出しよるゆえ、主らがああしてその身を犠牲にして消さねばならぬようになった。此度のことも、結局は黒い霧さえ新たに発生しておらねば、闇だって復活など出来ぬのだ。それなのに…やはり愚かな人や神のせいで、あのように。我は、何が正しいのか分からぬようになった。我が愛する子達を犠牲にしてまで、守らねばならぬ命なのかと疑問に感じるほどぞ。」

維月は、首を振った。

「お父様、そのようなことは無いのですわ。無駄な事などありませぬ。善良な命も居るのです。それらを闇へと沈めぬためにも、私達はそうして霧を消し、闇を消す意味があるのですわ。」と、仕方なく、頷いた。「では、私は維心様にお連れ頂いて、龍の宮へ帰ります。どうか、後をよろしくお願い致しまする。」

碧黎は、頷いた。

「案ずるでない。我が主を守る。此度のこと、闇が関わっておるのだからの。いざとなれば、我があの女と子を殺す。」

維月はびっくりしたが、維心は頷いた。碧黎も頷き返し、そうして、二人は義心を代わりに会合へと残し、龍の宮へと帰って行ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ