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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
なるべくしてなるもの
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反旗2

しかし、箔炎は言った。

「王座など就いておっても中身が王で無ければただの無用の長物よ。ならば答えよ。このまま獅子に圧力を掛け続けて、あちらが椿を差し出して参ったらなんとする。神世にそら見た事かと自慢げに告示するのか。そうして神世はどう反応するのだ。たかが女一人を勝ち取ったところで、鷹は愚かよと笑うのではないのか。そしてもう一つ、獅子がこちらへ攻め入って参ったらどうする。龍は獅子につく。鳥も然り。月は龍と同体。白虎王は愚かではないゆえ、中立を保つか悪くて獅子につく。鷲はもしかしたら同情してこちらにつくやもしれぬが、世の全てが獅子となれば、種族を守るためにあちらにつこうぞ。そうしたら、ここはどうなるのだ。一気に神世での発言力を失くす。それだけで済めば良いが、攻め滅ぼされぬとなぜ言える。鷹というものはこの世から全て消え去るやもしれぬのだぞ?それでなくても今の神世に鷹は父上の代になってから貢献しておらぬ。居っても居らぬでも同じと思われておるこの危機的な状況に、こちらからは退くに退けぬ状況であるのを見て、あちらから手を差し伸べて参っておるのに、そんなことも分からぬのか主は!」

箔炎は、段々に激しい様になった。回りでは、臣下達が怯えて体を震わせ、そんな箔炎の様子を見ている。

箔炎は、自分でも分からなかった。だが、何かがそう言った。自分の頭の中で、そんな分かり切った事なのになぜこの父親は分からないのかと、腹を立てている別の自分が確かに居た。

その、別の自分が言うままに、箔炎は一気に箔翔にまくし立てたのだ。

「そのような…!我は、ずっと馬鹿にされたままで居て、このままでは鷹の権威も地に落ちようと…。」

箔炎は、首を振った。

「主が言うは、己の権威ぞ。王は民のために居るのだと教えられなんだか。己のために民があると思うておるか。己に仕えて居る者達は、守ってこそ仕えてくれる。王の器で無いものに、誰が従うと申すのだ。一族の将来が危うくなれば、臣下など簡単に離れて参るぞ。そんなことも分からぬか。幾つになったのだ箔翔よ。あれから数百年、少しは賢くなったと思うて見ておったのに。そんな様では鷹を任せることなど出来ぬ。我が王座に、我が鷹を守ろうぞ!」

箔炎は、そう言い放つと刀を抜いた。

「!!」

「箔炎様!」

筆頭軍神の、佐紀が叫ぶ。

箔翔も慌てて刀を抜いたが、しかし臨戦態勢を整える暇も無く、箔炎の見たことも無いほど素早い巧みな動きで、胸を一突き、一瞬で勝負はついた。

「は、箔炎様…。」

玖伊が、ガクガクと震えて床へと額を着けている。佐紀の目の前では、箔翔が箔炎の刀で胸を貫かれた状態で、がくりと膝をついた。

「…ぐ…っ、」箔翔は、ゴフッと血を吐いた。「ち、父上…か…?」

佐紀が、必死に叫んだ。

「治癒の者!すぐに参れ!早う!」

箔炎は、一気に刀を引き抜くと、それを振ってから、鞘へと戻した。

「もう遅い。気を込めてある…殺すためにな。」

それを聞いて、佐紀も玖伊も震えて声が出なかった。箔炎は、思ってもみないほど素早かった。こんな技術など、持っていただろうか。

箔翔は、その場にどうと倒れて、虫の息の中、言った。

「…なぜに…。」

箔炎は、険しい顔のまま、言った。

「主は王の器では無かった。それを遺したのは、我の責。」と、息をついた。「…思い出した。忘れて来るつもりであったのに。主のていたらくぶりを目の当たりにして、己の中の何かが言うままに罵倒しておるうちに、それが前世の我であることをの。思い出しとうなかった…なぜにあのまま幸福にこの生を歩ませてくれなんだのだ。箔翔、もう逝け。主はこれ以上鷹の王で居るわけには行かぬ。地に落ちた鷹の信頼を、取り戻さねばならぬのだ。後は、我に任せよ。」

箔翔は、段々に弱々しくなって来る息の中で、細い瞼の間から、箔炎の顔を見た。そうか、父上か…父上が、お怒りに…ならば、仕方がない、か…。

「王!」

佐紀と玖伊が叫ぶ中、箔翔は、静かに息を引き取った。


「…!何とした事…!」

維心が、居間の椅子から突然に立ち上がった。

いつものように、維月と並んで過ごしていた午後一番、鷹の宮より急ぎの書状がと手渡され、維心がそれに目を通した瞬間だった。

「維心様…?いかがなさいましたか?」

維月が、不安そうに尋ねる。維心は、珍しくウロウロと維月の目の前を行ったり来たりしたが、そのうちに、顔を上げて、窓の方を見た。

「炎嘉…炎嘉と話さねば。維月、ちょっと出て参るゆえ。」

維月は、訳が分からず戸惑った。

「はい。ですがいったい、何が…。」

維心は、窓へと向かいながら、窓枠に手を掛けて、答えた。

「箔炎が箔翔を殺した。取り急ぎ我は炎嘉と話し、そこから志心や焔にも会うて来ねばならぬ。数日空けるやもしれぬが、留守を頼むぞ。」と、飛び立ちながら、言った。「義心!参れ!」

そうして、維心は着替えもせずに、部屋着のままで飛び立った。その後ろを、義心がサッと飛んで追って行くのが見える。

「まさか…箔炎様が…?」

維月は、維心が飛び立った後、維心が読んでいた書状を拾い上げ、中を確認した。

するとそこには、箔翔崩御の知らせと、それに伴う箔炎の即位のことが書かれてあった。そして、その最後に、筆頭重臣である玖伊らしき文字で、小さく密かに付け足したように、箔翔の立ち回りに業を煮やした箔炎が、会合の席で箔翔の胸を一突きにして殺したことによる代替わりである、と、知らせて来ていたのだ。

「ああ、箔炎様…まさか今生まで、このような罪を背負わねばならぬとは…。」

箔炎は、前世も母を殺している。

そして、今回は父を殺して王座に就いてしまったのだ。前世の維心と、同じ境遇になってしまった…。

維月は、その重い事実に胸の奥がズンと暗くなった。

だが、事態は動いてしまった。


維心は、常なら絶対にそんなことはしないのに、炎嘉の居間の窓から到着した。

「炎嘉!」

すると、居間の椅子で書状を手に、項垂れていた炎嘉が顔を上げた。

「維心…。」

やはり、己のせいだと思うていたか。

維心は、急いで居間を横切って炎嘉の前へと駆け寄ると、顔を覗き込んで言った。

「玖伊は理由も知らせて参った。こちらもか?」

炎嘉は、また頷く。

「急いだのか乱れた字で付け足されてあった。我らには真実を伝えておかねばと思うたのだろう。箔炎が…前世に引き続き、今度は父親を殺した王になってしもうた。我のせいよ…。」

維心は、首を振って炎嘉の肩を握った。

「しっかりせよ、そんなことを言うておる暇はない。獅子が、打開策を提案したのだと聞いておる。だからこそ、それを巡って箔翔と箔炎が争った可能性がある。ここへ来る途中、義心に詳細を密かに玖伊に聞いて来るように命じて行かせておる。あれが戻るまでに、志心と焔をどこかへ集めておかねば。こんな時は、我らが足並みを乱してはならぬのだ。全員が一枚岩で通さねば、簡単に世は戦国へと戻る。今の箔炎が一体何を考えて箔翔を弑したのか分からぬが、とりあえずは警戒しておかねばなるまい。焔の宮へ参るか…あそこなら、離れておるから滅多なことでは探りに来れまい。まずは、何を探るにも龍の宮へ行くはずであるからの。」

炎嘉は、維心に矢継ぎ早にいろいろ言われているうちに、段々としっかりしなければと思ったようで、しっかりした目つきになった来た。そして、頷いた。

「そうよな。落ち込んでおる場合ではない。焔に先触れを送る。志心にも知らせを。あちらで話そう。」

維心は頷いて、炎嘉の軍神を借りて龍の宮へも鷲の宮へ行くと連絡し、炎嘉と共に鷲の宮へと飛んだ。

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