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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
次世代の神達
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揃い

朔と到もぎこちないまま、薫が来るというのに放って置けないのもあり、螢の部屋へとやって来た。

螢は、静音のことがあってから、自分の部屋に結界を張るようになっていた。実は、育ちのいい軍神達は、それが当然のように結界を張り、夜中に忍んで来るような女を警戒しているのだという。そんなことは知らなかった螢は、ある日嘉韻に結界を張っているか、と聞かれ、張っていないと答えたところ、大層驚かれていろいろと指南を受ける事になった経緯があった。

そもそも、軍神が部屋に結界を張っていないとなると、誰でも来いというような意味あいになり、育ちが悪いという噂も立つものなのだそうだ。

そんなわけで、一人部屋に入った時から、螢はきちんと結界を張るようになったのだ。

朔と到は、まだ二人部屋だった。

父親が居た頃は屋敷をもらってそこで生活していたらしいが、屋敷には母親だけになり、帰るのも億劫になって、こちらに居ついているらしい。

もっと序列が上がったり、所帯を持ったりしたなら小さくてもきちんと屋敷を下賜されるのだが、二人ともまだそこまで稼ぎは良くはないと思っていて、所帯は持つつもりはないとのことだった。

そんなたわいもない話から、少し気持ちが落ち着いて来たところで、薫が、言った。

「…それで、であるが。」空気が変わったので、朔と到もスッと表情を強張らせた。薫は続けた。「どうであったのだ。あやつは、北東の穴へ参ったのか?」

朔と到は、顔を見合わせたが、朔が答えた。

「…行った。我らは止めたのだ。だが、あやつは場所を正確に知っておるから、迷うことはないし交代までには余裕で帰って来れると申して、サッと脇の茂みに飛び込んで、その中を飛んで行ってしもうたのだ。」

螢は、怪訝な顔をした。

「しかし…何も持っておらなんだ。月の結界に入っても、何の影響も受けておらぬようであったし。闇の欠片など、持って来れなんだのではないのか。」

それには、到が答えた。

「我らもそのように。何の問題もなく、機嫌良くあやつが言うた通りにすんなりと帰って来たのだ。どうやら、あやつは北東の海の集落一つ目に住んでおったのだそうで、あの辺りは幼い頃から遊び場にしておったと申しておった。その時はあれがそんなものだと思わずに居たらしいが、ここへ来て知ったのだと。」

薫が、それには頷いた。

「知っておる。静音も同じ集落の出であるのは知っておるか?」

到は、顔をしかめたが、頷く。

「知っておる。静音はあちこちの男に声を掛けておって、我にもすり寄って来た時があった。その頃は知らなんだのだが、静音が持っておる石と、光希が持っておる石が同じなのに気が付いてな。それは光希の腕にも似たような物があったような、と言ったら、バレたか、という顔をして、静音が言うたのだ。同じ集落で育ったので、よく一緒に遊んだのだと。この石は、宝石など見たこともなかった静音に、光希が拾ったからとくれたものなのだと。つまり光希と関係があるのではないのかと思った我は、すぐに静音から離れたのだがの。」

螢は、石と聞いて、すぐに思い出した。静音が、いつも肌身離さず着けていた、あの琥珀のような小さな石。形はいびつだったが、静音は大切にしているようだった。

「…黄色いような、茶色のような石であるな。我も知っておる。あれを、光希も持っておるのか?」

到は、頷いた。

「ああ。あれは麻の紐を通して腕に巻いておったわ。」

螢は、一気に落ち込んだ。そんなに分かりやすい目印があったのに、自分は静音と光希との関係に、気付くことが出来なかったのだ。

薫が同情したような顔をしたが、言及せずに朔に言った。

「それで、本人は闇の欠片をどうしたと言うておったのだ。」

朔は、首を振った。

「何も。月が出ておったしまして満月ぞ。あのようなところで口にすることはできまい。上手く行ったのか、とだけ聞いたが、光希はニヤリと笑って、まあな、と。しかし闇の気配も無いし、我らも訳が分からなんだというわけよ。」

薫は、息をついた。

「…分からぬ。我とて知らぬことの方が多いのだ。もしかしたら神世のそれなりの地位の者が聞いたら、分かるのやもしれぬの。だが、どうしたら良いものか。」

螢が、薫を見て言った。

「薫。これは、嘉韻殿に言うべきぞ。何が起こったのか起こっておらぬのか分からぬが、我らではどうしようもない。事が大きくなっては、我らではどうしようもなくなるのだぞ。朔と到も、何とか光希の尻尾を掴もうとしておった、と申したら罰せられることもあるまい。何より、光希は一人暴走しておるのだ。静音もどんな風に手を貸すのか分からぬ。静音は宮で仕えておるのに、王に何かあってはと案じられる。」

薫は、大きく息を吐いた。確かに、このままではもしかしてという不安が拭い去れないのだ。何やら嫌な予感しかしないのはなぜだろうか。

「…では、今すぐに。」薫は、立ち上がった。「嘉韻殿の宿舎へ参る。そうと決めたら急がねば、光希が何をしようとしておるのかは最早分からぬような状態よ。とりあえずここに居る皆で、参ろう。」

言われて、朔と到は、震え上がった。

というのも、嘉韻は遥か高見に居る軍神で、とても厳しい上司だからだ。しかし、そうも言っていられない。もしかしたら、この自分達が暮らす平穏な月の結界の中が、乱れてしまうかもしれないのだ。


「王。」

蒼は、目を覚ました。月の宮にはどこにでもある時計を見ると、まだ夜中の一時ぐらいだった。

しかし、嘉韻が寝ているのを分かっていて自分の所へ来たということは、それなりのことがあったということ。

蒼は、急いで起き上がると、衣桁に掛けてあった袿を引っ掴んで羽織り、居間へと出て行った。

すると、そこには嘉韻の他に、後ろに四人の軍神達が並んで膝を付いていた。

「…ん?どうしたのだ、そやつらは新入りの軍神達ではないのか。」

蒼が言うと、嘉韻は顔を上げた。

「は。それが、これらが我の所へと報告に参った事が、面倒な事を孕んでおるようなので取り急ぎ、ご報告に参ったのでございます。」

すると、上から見ていて嘉韻が来たのを知った十六夜が、割り込んで来た。

《そいつらって、今夜結界外の警備していた奴らと、その友達じゃねぇか。何かあったのか。》

やはり見ていたのか。

四人がそう思っていると、嘉韻は、頷いた。

「込み入っておって我だけでは判断できず、王の御許へ参った次第。恐らくは、これが王がご懸念されておるものではないかと、我は思いましてございます。」

蒼は、椅子へと座って目をこすると、眠気を吹き飛ばして頷いた。

「申せ。」

嘉韻は、頷いた。

「は。では最初に我が、掻い摘んでお話致しまする。」

そう言って、嘉韻はここ数週間に起こっていたことを、わかりやすく話した。汐を恨む輩が居た事、しかしこの20年で浄化されて殺すほどでもなく、ただ悪口を言い合って済んでいたのが、光希という神だけは殺すという執念を持って行動し始めたこと。そのためには、汐に処刑されるほどの罪を負わせるのが良いと判断し、闇という月が忌み嫌う力を手にしようとしていること…。

「…光希は、北東にあるはぐれの神の大き目の集落のひとつに居たらしく、その近くに、例の闇が封じられた洞窟があり、見知っておったようでございます。」

蒼は、険しい顔で螢、到、朔を見た。

「…なぜにすぐに知らせなんだ。薫も、気取っておったなら、己で調べようなどとせず、すぐに嘉韻に知らせるべきであったのに。確かに何も持ち帰っておらぬようだから良いが、持ち帰っておったら今頃は大騒ぎぞ。十六夜の結界が、光希を焼き殺す様を見たかったのか。」

四人は、ビックリして身を固くした。月の結界は、そんなに反応するのか。

十六夜の声が、ため息と共に言った。

《オレの存在意味ってのは、闇を消す事なんだよ。だから、オレの意思とは関係なく闇を気取ったらさっさと殺しちまうのさ。ただ、気取れなかったらオレが自分で力を送らなきゃならねぇけどな。それが、新月の胸に入ってた術だったってことだ。だが、あれは特殊でまず、普通じゃあり得ねぇ。だから、光希ってヤツが闇の欠片を持って入ったってことはねぇだろうな。》

薫が、皆を庇うように、言った。

「我が申したのです。光希が学校に出入りしておる時、あまり良うない気の兆候を読み申した。ゆえ、近づいて来たのをこれ幸いと、何か企んでおるのなら探ってやろうと軽い気持ちでありました。ですが、聞いておると何やらマズい内容で、このままではまた、皆殺しにされると。我らはぐれの神は、たった一度そのようなことを策したと知られれば、それで命が飛び申す。我は全員が悪いのではないと、中で話して聞いておって思い申した。そうして、皆殺しを避けるため、己で思いとどまらせようとしたのでございます。螢は元より脅されてのことだったので己で思いとどまり、朔と到は、我の話を聞いて思いとどまった。しかし、光希は無理だった。静音はそれに追随しておるような状況で、我らではどうしようもないと、嘉韻殿にお話を。我らは、真面目に生きておっても一度疑われれば観や岳に殺される。後でそれが冤罪だと分かっても、紛らわしいことをする方が悪いのだと言われるのです。王、王とて観の言いなりであられるでしょう。我らは、王に拾って頂き感謝し申しておるが、しかしここでは、我らは平等ではない。何をしても、はぐれの神の仕業なのではと疑われ、そうして疑われれば、殺されるのです。一切の言い訳など通用しませぬ。我は、そのような己の立場を知っておるゆえ、己で何とかしようとこれらに口止めした。ですからこれは、我の責でありまする。」

蒼もショックを受けて絶句したが、十六夜も黙った。嘉韻も、その言葉に偽りも何も無いことに、それで気付いた。

そう、蒼が招き入れて世話をして、幸福にしてやっていると思っていたはぐれの神達は、そういう境遇に立たされているのだ。

元はぐれの神という肩書は、その神達を縛り、どんなに真面目に生きていても、何かあれば疑われる。

今回も、何かがあると思った時、真っ先にはぐれの神ではないかと疑ったのでは無かったか。

そう思うと、蒼は自分のやって来たことが、自己満足だったのではないかとショックだったのだ。

そして、それをハッキリと言い放った薫という神は、まるで高位の軍神のように、しっかりとした物言いで、そうして不必要に威厳のある様だった。

螢が、ハッと我に返ったようになって、慌てて薫の前に立った。

「王、薫にばかり頼っていた我も同罪でありまする。薫はこのように頭が切れ、先を見通して物事を考えることが出来申す。なので、我ら、つい甘えてしもうたのでありまする。なので、薫は己の責任になるにも関わらず、自分に任せよ、と言って、全てを背負ってくれたのです。王に真っ先にご報告せなんだのは我の責でもありまする。薫は、我らを助けようとしてくれただけ。どうか、沙汰は我に。」

薫は、後ろから螢の肩を掴んで後ろを向かせた。

「何を言うておる!主は最初から嘉韻殿にご報告すると言うておったではないか!それを皆殺しを避けるためというて、引き留めたのは我ぞ!主は悪うないわ!」

螢は、ブンブンと首を振った。

「主があの時静音の腹の子が術で我の子のように装われておるだけだと教えてくれなんだら、我はもっと迷うておったわ!主は我の心持ちを軽うしてくれたではないか!」

茫然と二人のやり取りを聞いていた蒼と嘉韻、そして十六夜だったが、嘉韻がそこで我に返り、割り込んだ。

「ちょっと待たぬか。術で子を?」

薫は、嘉韻がその術を知らぬのかと少し驚いたようだったが、頷いた。

「は。腹の子の気の色を、他の男の種を使ってその男の子のように偽装する術がありまする。」

嘉韻は、眉を寄せた。

「知っておる。そのことでは無うて、主、腹の子に術が掛かっておると?そして、それが螢の子ではないと見たと申すか。」

薫は、渋々ながら頷いた。

「は。我は育った境遇が境遇でありますので、恐らく鋭敏になっておるのだと。あれは光希の子でありまする。本人も否定はせずで、今静音が光希の屋敷に居ることから、間違いはなかったのだと思うておりますが。」

十六夜の声が、やっとショックから立ち直ったのか割り込んだ。

《…それ、前に過去を見た時に維心達が言ってたの聞いたことあるぞ。確か術で偽装されたら、維心や炎嘉クラスならすぐに見破れるが、炎真じゃ五分五分、焔も多分分かる、ぐらいだって言ってたぞ。お前、なのに分かるってのか。というか、お前の気、ちょっと変だな。誰の子でぇ。》

薫もだが、螢も顔をしかめた。そもそもはぐれの神に、親は誰だというのが難しいのだ。まず、父親は分からないのが普通で、たまたま家族連ればかりを探した十六夜のせいで、ここには家族のはぐれの神が集っているが、基本母親だけに育てられることが、多かった。

なので、薫は答えた。

「…はぐれの神に父親を聞くのは間違いぞ、十六夜。我に分かるはずはあるまい。気が付いたら母しか居らなんだ。ほとんどがそうよ。ここに居る神達は、そういう神を探して十六夜が連れて来たからこそ両親が揃っておるのだ。酷い時には母も居らぬ。そういうものなのだ。」

螢は、薫を見た。

「だが、主の母上なら知っておるやもしれぬな。聞いてみても良いのではないか?」

しかし、薫は息をついて首を振った。

「今更何ぞ。それでもし父が分かったとして、どこぞで軍神でもしておったら何とする。今さらに迷惑を掛けとうないゆえ。」

十六夜の声が言った。

《だがお前、神世じゃ父親を知っといた方が、後々…》と、言ってから、ふと言葉を切った。そうして、慌てたように言った。《なんだって?!ちょっと待て、覚えのある気が漏れてやがるぞ!》

蒼が、慌てて窓辺へ寄った。

「なんだ?!どこでだよ、何の気だ?!」

十六夜の声が慌てふためいた。

《闇でぇ!》そうして、仰天している皆を無視して、叫んだ。《親父!親父、あれはなんだ、見えるのか!ありゃあ光希の屋敷だ!》

嘉韻が、脱兎のごとく飛び出して行く。

薫も螢も、蒼もそれを追って窓から飛び出し、朔と到はおずおずと、仕方なく後を追ったのだった。

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