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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
王達の恋愛事情
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喪の宴

宴の席は、葬儀の式の後に相応しい落ち着いた設えが成された大広間だった。

使う盃の色や、仕切り布の色まで、きちんと喪で統一されていて何も不都合な所は見当たらない。

もちろん、入って来て給仕する侍女侍従の着物の色や、仕草まで完璧だった。

それを見た炎嘉が、檀上で言った。

「誠になあ。初めて宮を開くとは思えぬ様よ。まるで慣れた宮で葬儀の宴に出ておるようよな。これは茉希殿の采配か?それとも、翠明の宮から送って来ておる椿の采配か。」

それには、駿が答えた。

「は。母は軍神上がりであって、何事も分からぬと綾殿に問い合わせを。そうして、椿殿に来て頂いたということで、これは椿殿の采配でありますな。」

焔が、感心して翠明を見た。

「また翠明、主の子は大したものよ。やはり我が宮で育っただけあって、綾は妃としては優秀であったか。」

翠明は、居心地悪そうに言った。

「まあ、綾が育てておるから、椿はしっかりしておろうと思う。あれの侍女が言うには、こちらで伸び伸びと采配しておるそうな。良い部屋を与えられて手厚く扱われておるようであるし、綾も良い腕試しをさせられたと喜んでおった。」

箔翔が、満足げに頷いた。

「これだけしっかり采配出来るとなれば、良い妃になろうな。箔炎もこれで安泰よ。」

炎嘉が、じっと考えていたが、言った。

「…そうよな。しかし箔翔よ、主、最近やたらそれを押して参るが、主ら、まだ正式に結納しておらぬよな。」

それには、翠明が頷いた。

「そうなのだ。箔翔殿は急ぎたいと申すが、この度龍の宮が服喪に入り、こちらもこのように。友好関係である宮々が喪中である時に、婚姻など浮足立ったことをしとうないのだ。」

何やらもごもごと言っているので、恐らくは綾が言っているのだろう。それには、焔が頷いた。

「そうよな。我が宮では不謹慎だという感じを受けてしまうの。何しろ祝いを出さねばならぬのに、服喪中であったらそうはならぬしの。こんな時に何をしておると、礼に反する行為と受け取るのだ。主はよう分かっておるわ。」

箔翔は、顔をしかめた。

「別に…こちらはそんなつもりではないのだ。こちらはこちらで考えたらと思うただけよ。」

炎嘉は、真面目な顔で言った。

「焔が言うは間違っておらぬ。箔翔、主の妃は出来る妃であったのではないのか。こんな時に己の宮の婚姻を推し進めようなど、品位を疑われようぞ。元龍王と、獅子の王が亡くなったのだぞ?分かっておるのか。主、己の父が亡くなっておってそんなことが出来るのか。」

駿は、何やら不穏な空気が流れているような気がして、割り込んだ。

「いや、しばらく。」その場の王達が、一斉に駿を見た。駿は、怯むことなく続けた。「我が父は、そのような事を己の葬儀で望んではおりませぬ。それより、我は父がどのように他の王達と交流しておったのか、知りたいと思うておりまする。我もこれから、外へ出て参りたいと思うておる。一刻も早く宮の中を収め、皆との交流を。」

志心が、脇から頷いた。

「そうよな。観の葬儀の席であるのに。誰が誰と婚姻だの礼に反するだの、そんな話はいつでもできようぞ。それより、駿のこれからのことを考えて話をしてやろう。」

いつものように、志心が場を(たしな)めるように言う。それを真面目な顔で聞いていた炎嘉が、パッと表情を変えると、酒瓶を上げて、言った。

「おお、そうであるな。すまぬな、つい気になって言うてしもうて。さあ、飲まぬか駿。主は成人しておるのだし、王になるのだ。我らと観の事を話して今夜は飲もうぞ。」

箔翔は、仕方なくそれで黙った。翠明も、綾に散々礼を失することをするなと言われて来たので、婚姻の話が出て来ないのは有難いとホッとした。何しろ、綾からの葬儀の席での話題の禁止事項に、婚姻の取り決めが含まれていたので、翠明としてはもう、この話はしないで欲しかったのだ。

和やかに酒が進むその席で、維明は黙って皆の様子を見ていた。幼い頃から見ている炎嘉は、そして前世知っている炎嘉は、理由もなくあんな事を宴の席で話題には上げない。

ああやってさりげなくはしているが、恐らく炎嘉は、何か思うところがあるのだ。だから、確認した。

それが何なのか判断できるほど、自分はこの宮同士の繋がりの深い所までは知らなかった。

なので、ただ黙って観察していた。

維斗が、隣りで回りを気にしているような様子を見せる。維明は、小声で言った。

「維斗?何か気になるか。」

維斗は、頷く。

「は。駿には兄弟が居りまするが、体を壊しておるようで式に出ておらぬで。宴の席には、顔ぐらいは出すのかと思うたのですが、未だ。」

維明は、首を傾げた。確か、兄弟と言っても妹が居たはずだ。維斗がそれを気にするとは、もしやこちらへ来ておる間に親しくなったのか。

「確か妹が居ると聞いたことはあるが、主、親しいのか。」

維斗は、同じように首を傾げた。

「いえ、親しいというほどではありませぬが、駿と三人で、よう立ち合っておったので。我は最初、妹とは知らぬで、弟だと思うておって。後で知って驚き申したのですが、未だに弟と思うておる次第。駿の助けになりたいと努めておったのに、やはり…女の身では、父王の死のショックには耐えられなんだのかと。それでなくとも男には敵わぬとむきになる所があったので、落ち込んでおるのではと思いましてございます。」

維明は、弟と間違うような妹なのかと訝しんだ。だが、確かに観が頭を抱える皇女であって、軍に入りたいというから入れてしまったと。

ならば確かに、維斗が言うような皇女であってもおかしくはない。

維明は、息をついた。

「しようが無い事よ。女の身では、いくら男に張り合ってもどうしても力では負ける。気は張り詰めておったほど、切れた時の反動は大きいものよ。駿も分かっておろうし、主は案じるな。」

維斗は、頷いて気遣わし気に駿を見た。

維明も、その視線の先の駿を見る。確かに、公の場になど立ったことは無いはずなのに、ああしてこの、招待した宮の主として、堂々と酒を受け、話の受け答えも申し分ない。駿は、自分とさして歳も変わらないはずなのに、それはすべての面において、優秀だった。見た目は観に似ているが、それでも若々しくもう少し品のある感じだ。茉希の血がそうさせたのかもしれない。

それでも、ろうたけた王達の中で、気遣いは半端ないだろう。それをおくびにも出さずにああして対応している精神力は、大したものだと維明は思った。

その駿が、ふとこちらへと視線を向けた。

「…維明殿。酒は足りておるだろうか。維斗は、まだ飲まぬか?」

隣りに座っていた、炎嘉がこちらを向いた。

「おお維明か。主は維心と同じで一生でも黙っておるようなヤツであるからもう。こちらへ来ぬか?維斗、主も成人しておるではないか。参れ。」

維斗は、苦笑した。確かに自分は駿と歳が近いのだが。

維明は、ため息をついて膝をそちらへ向けた。

「維斗は普段からあまり飲まぬのだ。酒というなら我が。」

炎嘉は、それを見てあきれたように言った。

「なんだ、維明。主は維心そっくりよ。弟をいつまでも子供扱いするでないぞ?過保護であるな、誠に。」

維斗は、兄に迷惑は掛けられないと急いで杯を差し出した。

「炎嘉殿。お受け致しまする。」と、維明を見た。「兄上、我は大丈夫でありますから。」

維明は、心配だったが仕方なく頷いた。

「では、飲み過ぎるでないぞ。」

そうして、宴の席はしめやかに和やかに進んで行ったのだった。

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