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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
王達の恋愛事情
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服喪

龍の宮では、喪に服して王族は皆墨染めの着物を身に着けて、将維を悼んだ。

将維は、宮の王族の墓所の、五代龍王維心の隣りへと安置され、そうして棺の蓋は閉じられた。葬儀は、内内に行うと告知され、参列したのは血の繋がった親族だけだった。

その方が、将維も気遣わずでいいと維心は思ったのだ。

臣下達も皆墨染めで、龍の宮の政務は完全に停まっていた。葬儀を終えてから、100日は宮は龍以外には解放されることは無い。その間は、皆将維を悼んで過ごすのだ。

しかし、血の繋がりがあるとされる蒼は、この限りではなく、葬儀も何もかも参列し、しばらくは龍の宮に居た。

将維の死は、蒼にも堪えたようで、月の宮へ帰った後も、あちらも暗く沈んで喪に服しているかのようなのだという。

蒼でもそんな風なので、維心も維月も、今度ばかりは沈み込み、二人してぴったりと寄り添って、お互いの心を慰めようと努めていた。

二人にとって、初めての子だった。将維は、維心が強く望んで十六夜が許し、維月が産んだ運命の子だったのだ。

それによって維月も維心を愛するようになり、十六夜が折れて、そうして今の関係に至った。維心の幸福の原点は、やはり将維であったのだ。

そんなことに思いを馳せながら、それぞれがなんとか自分の中で悲しみを消化していたその中で、獅子の宮から、観が亡くなったという報せが来た。

維心は、維月と共にその報せを居間で受け取り、じっと考え込んだ…こうして、前世の記憶の中で確かに生きて共に励んだ者達が死んで逝く。

自分はもう、五代龍王ではなく、七代龍王なのだと、維心はその時、やっと実感した。

将維は息子でなく父だったのだ。自分は今生を、歴代龍王が守った通りに守り、生きて行かねばならない。

維心は決意を新たに、今生も共に居てくれる維月に感謝しながら、生きて行こうと思った。

とはいえ、最上位の獅子の宮の王が崩御したのに、誰も葬儀に参列しないのは礼に反する。

喪中であるので維心は出て行けないが、長くあちらで世話になっていた、維斗を維明と共に行かせることにした。

あちらも慣れないので内々の葬儀にすれば良かったのだが、しかし現役の王が亡くなったのに対外的に葬儀を行わないのもと思ったようで、恐らく今は宮は大変な騒ぎだろう。

だからといって、こちらは手伝いに行かせることも出来ない。何しろまだ、宮を挙げて服喪中なのだ。

炎嘉と志心、箔翔がいくらか助けているようであったが、何しろ獅子の宮ははぐれの神ばかりの荒れた宮。

維心は復活してきた心の中で、獅子の宮を案じていた。


獅子の宮では、駿は父王との最期を反芻する暇もなく、獅子の宮としては初めての、対外的な催しの開催という問題に直面していた。

葬儀は、内々に開くという選択肢もあった。だが、父王は王座に就いたままで亡くなった。しかも、その直前までは外へ出て他の宮の王達とも交流し、政務を執り行っていた。

そんな状態での突然の崩御なのに、別れの挨拶も無しとなると、これからの宮の運営上、閉じたままというのは礼を失すると考えたのだ。

しかし、母の茉希は、確かに王妃としては申し分なく振る舞うことが出来る女神だったが、もとは軍神家系の末であり、公に行う催しで、何をどうしたらいいのかは、全く知らなかった。

父はもしかしたら知っていたかもしれない。だが、駿はまだそんな事まで父に教わってはいなかった。何しろ、公の催し自体をこの宮で行ったことがなく、駿自身、外の催しに出かけたのはついこの間のたった一回きりであったからだ。

しかし、そんな窮状を外の神達は知っていた。

真っ先に使者を送って来たのは、炎嘉だった。

炎嘉の手助けを皮切りに、宮の近い志心、少し離れた箔翔も軍神達を送り込み、こちらがどうしたらいいのかを指示してくれた。

普通なら真っ先に手助けしてくれるはずの龍の宮は、前龍王将維の崩御で喪に服している最中で、こちらへは出ては来れない。

つくづく、一つの宮だけでなく、他の宮との連携は大切なのだと駿は痛感した。

茉希が困るので、本当なら悠子が来て茉希についていろいろ指示を出してくれるはずだったのだが、あいにくこちらは荒れた宮で、いくら駿が守るとは言っても、目が届かないことがあるかもしれない。なので、それが出来なかった。

そんな窮状を見た翠明が、綾は無理だが椿をやろうかと言ってくれ、箔炎との婚姻が決まっている椿が、鷹の軍神にがっつり守られた状態で宮へと来てくれていた。

言わずと知れた、椿は龍の宮での女の立ち合いでの優勝者だ。

その椿ならば、この宮でも問題なく立ち回れると、駿もホッとして任せていた。


観の葬儀の当日、聞いていた通り、夜明けと共に下位の神達から順に、獅子の宮へと次々に到着した。

それでも、綾に教えを受けている椿とは若いのに大したもので、事前に侍女侍従を集めて訓練をしていたのもあり、客はスムーズに流れて今のところ混乱は無かった。

茉希は、そんな椿に称賛の目を向けており、駿にも何度も椿を絶賛する言葉を伝えて来ていた。

だが、駿はそれどころではなく、日ごろから信頼している軍神達を集めてしっかりと指示を出し、もしも何かが起こった時のための対策を取っていた。

軍神達は、思ったより優秀でそれは真面目に仕えてくれていた。

観が居た時のことを考えると、思ってもないようなきびきびとした動きで、駿は逆に戸惑った。皆、いったいどうしたのだろう。何か企んでいるようにも見えない。だが、こんなに規律の取れた軍は、初めて見る。

いつも面倒を掛ける軍神ですら、今日はおとなしく黙々と責務をこなしている。

喜ばしいことだが、これまでがこれまでだけに、駿は半信半疑だった。

そうして、客達が順調に収まって行った後、式の時間も近くなり、上位の宮々の王達が到着し始めた。

皆口々に悔みを述べて去って行く中、焔と炎嘉が到着した。

「焔殿、炎嘉殿。この度は、ご足労頂き、またいろいろとご支援を頂き、感謝し申す。」

いつも派手やかな色目の衣装の二人が、今日は暗い喪の色の着物をまとっていて、それがまた荘厳な雰囲気を醸し出している。焔が、神妙な顔をして、言った。

「この度は残念なことであるな、駿。主も王座に就くことになったが、皆そのようにいきなりに王になるものなのだ。分からぬことがあれば、我らが手助けするゆえ。なんなりとの。」

駿が頷くと、炎嘉が言った。

「主も妃を早急に娶らねばならぬな。慣れた宮なら問題ないが、ここはやっと開かれたばかりの宮。外からしっかりと躾けられた妃が、どうしても必要ぞ。とはいえ、ここはまだまだ危険な宮であるし…主の母のような、軍神も出来るほどの女でなければならぬし。困ったものよ。」

焔が、眉を寄せたまま頷いた。

「誠にな。宮の存続に関わるゆえ、好きだ嫌いだなどと言うてられぬ。そんな都合の良い女がその辺に転がっておるとは思えぬが、我も探しておくわ。主も見つかったら少々不器量でも宮のためと弁えて娶るのだぞ。」

炎嘉が、同じように眉を寄せて、言った。

「そうは言うてもこの大きな宮を回せるだけの教養を持っておるとなると、どうしても上位の宮の皇女になるし、上位の宮は器量だけは良いのが揃っておるからなあ。問題なのは、己でとりあえず身を守れる腕ぞ。そんなもの、無くても生きて行ける上位の皇女が、やっておるとは思えぬし。」

駿が炎嘉と焔の深刻そうに話すのに困っていると、箔翔と、志心が到着していたようで、歩いて来た。そうして、箔翔が言った。

「こんな所で立ち話など。本日は観の葬儀であるのに、駿を困らせるでない。」

志心も、苦笑して言った。

「そうであるぞ、炎嘉、焔。とにかくは本日を無事にやり遂げて、次は駿の王座に就く即位式よな。それからはそう催しも開くことも無かろうし、徐々に慣れて参れば良いのよ。そのうちに、会合もここで開けるようになろう。ゆっくり考えれば良いのだ。」

駿は、二人が歩いて来たので、慌てて頭を下げた。

「箔翔殿、志心殿。申し訳ありませぬ、ご到着に気付かず。この度は、いろいろとご支援いただきまして、感謝しておりまする。」

箔翔が、手を振った。

「良いのだ。我とて回りから助けられてやっと己で何とか出来るようになったのだしな。二人が言うのも分かるのだ、確かに宮に妃は必要よ。観を失った今、主の次を早う残さねばならぬし、宮を回してもらわねばならぬから。うちの悠理なら立ち合うし悠子が育てて宮も難なく回そうが、あれは鷹であって…。鷹は、鷹しか生まぬから。龍と同じでな。軍神に降嫁させるのが一番良いと、最近思うておって。」

駿が、皆を促して、葬儀の式の執り行われる謁見の間の方へと、皆を仕草で促す。それに従いながら、焔が言った。

「まあなあ、同じ種族とはいえ、鷹はそういう血であるから。子が生まれても次を継がせられぬし、娶る方も面倒よ。とにかくは今は回りから助けて、何とかするしかないわな。その間、我らも良い皇女が居らぬかしっかり探してやろうぞ。」

駿は、頼んだわけでは無かったが、しかしそうやって気遣ってくれるのは有難かった。なので、黙って葬儀の場へと、四人を案内した。

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