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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
王達の恋愛事情
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老い2

朝になった。

朔と到は、昨夜の敏と識の様子が気になって、非番になってすぐに待機所へと急いだ。

そこには、もう起き出した軍神達が、王から帰る準備をしろと言われる前に、さっさと場を整えて備えているのが見える。

その中で鈍色の甲冑を探すと、昨日見た顔がその軍神達に混じっているのが見えた。

「敏、識!」

朔が呼ぶと、二人はこちらを向いた。脇の仲間らしい軍神達も、同時にこちらを見る。脇の同じ色の甲冑を来た軍神が、言った。

「なんだ、その甲冑の色、月の宮の軍神か。主らは知り合いか?」

朔は、疑われてはと頷いた。

「まだ集落に居った幼い頃のの。懐かしゅうて、つい声を掛けてしもうて。」

相手は、驚いた顔をした。

「なんとの。月の宮がはぐれの神を受け入れておると聞いておったが、主らもそうか。」と、敏を見た。「良い、もう終わるゆえ。話して参るが良いぞ。岳が呼びに来たら申すから。」

敏は、頷いた。

「すまぬな。では、少しだけ。」

こうして見ると、元はぐれの神と言っても、皆が皆荒くれもののままではないのだ。獅子の宮の元はぐれの神は、皆そのままなのだと思っていたが、そうではないらしい。

朔と到がそう思っていると、敏が促して、識も共に、四人で待機所の外へと向かった。


外へと出ると、すぐに到が言った。

「すまぬ。他の軍神のことなど忘れておった。ただ、昨夜のことが気になってしもうてな。しかし、主ら思いとどまったようよ。安堵した。」

朔も、頷いて同意した。

「そうよ。どうなったかと、昨夜は気が気でなかったのだ。なので、非番になってすぐに参った。」

識が、敏を見てから、小声で言った。

「実は…昨夜は、参ったのだ。どうしようかと逡巡しておる間に、主らが言うておったように、碧黎という地が参って…父上のためにも、幸福になれと言われた。」

それには、朔も到も仰天した顔をした。あの、地と話したのか!

「主ら、碧黎様と話したのか!我らでも、滅多に顔も見ぬというに。だから言うたであろうが、見えておらぬ場所などないのだからの。とはいえ、やはり地に留められて成し得ることなどないわな。良かったことよ…どうなることかと思うたが。」

そんな朔に、敏は顔をしかめた。

「だがの、別に解決したわけでもないのよ。我ら、駿様は大変に敬っておる。何しろ、駿様が居ったら話を聞いてくれるし、真面目にしておったらいきなり殺されることなどまず無いのだ。岳が観の指示通りに斬り捨てようとした時にも、駿様が居ったら留めてくれる。真面目でない者なら止めもせぬが、真面目であったら話を聞けとおっしゃる。なので、我ら駿様ならお仕えするのに異論は無いと申した。そうしたら…我らが若いゆえ、代替わりを待てと。観は死にそうにないのに、そう言われたら仕方がないではないか。昨夜はそれで間違いないと思うたが、よう考えたらいつになるやら分からぬその時まで、我らびくびくして仕えねばならぬと気を重くしておったところよ。」

識が、それに頷いた。

「そうなのだ。とはいえ、地があのように大きな気で、それが申すのに逆らうことも出来ぬ。ゆえ、我ら今覚悟しておったところなのだ。」

朔は、顔をしかめた。

「そうであるなあ…ならば、やはりこちらへ参れるよう、王にお願いしてみようか?我らの王である蒼様は、こちらの話をそれはよう聞いてくれる。恐らく良いと申してくれると思うのだが。」

それには、敏と識は顔を見合わせたが、二人同時に、首を振った。

「主らが我らを気遣ってそう申してくれるのは分かっておるが、しかしの、我らは己だけ助かろうとは思うておらぬのだ。」

識が言うと、敏が頷いた。

「我らには、友も居る。先ほど居った軍神もそうよ。皆気がいい奴らなのだ。あれらを置いて、己らだけ助かるなど考えられぬ。それに、駿様には仕えたいと思うのだ。あのかたが育っていらしてから、我らは格段に楽になった。あのかたの考えは、観と同じでありながら違う。我らをきちんと神として見てくれる。思えば父上が殺された時にも、駿様さえ居たらああはならなかったのに。あの事件の後も、駿様はさりげなく我らの任務を外して時をくれたりしたのだ。だから…我は、駿様の御代になるまで、待つことにするよ。」

朔と到が複雑な顔をすると、先ほどの同僚の軍神が、慌てたようにこちらへ向かって叫んで来た。

「識!敏!早う!王が、何やらお加減が悪いと…岳が知らせて参った!急ぎ宮へ帰らねばならぬぞ!」

二人は、振り返った。

「なんだって?!」

その軍神は、こちらへ飛んで来て二人の前に降りた。

「どうやら、老いが参ったとか聞いたと。それでも獅子は老いが緩やかな種族らしいゆえ、二か月ぐらいはあるとかなんとか。我もそれしか知らぬのだが、せっかくの昔語りの最中にすまぬな。輿を治癒の対まで直接持って参らねばならぬようよ。」

敏は、首を振った。

「良い、すぐに参る。」

相手の軍神は、頷いてまた、飛んで行った。識は、茫然としながら敏を見た。

「どういうことだ…?昨日の今日?昨夜まで、ぴんぴんしておったのに。まさか…」

地、か。

約したことは違えぬと言っていた。見ておれと。まさか、地は神の寿命すら司っておるというのか。

「…とにかく、行かねばならぬ。」敏が、行って朔と到を振り返った。「ではの。また会おうぞ。地という存在の大きさが、恐れるのを通り越してただ敬うしかできぬわ。主らも、心して仕えるようにな。」

そうして、二人は軽く会釈すると、朔と到から離れて去って行った。

朔も到も、地の力の大きさは知っていたが、世に名だたる大きな力の神の王達までも、地という存在の前には無力なのだと思い知らされて、ただ茫然とそこに立っていた。

すると、地から念の声が聞こえた。

《朔、到よ。》二人は、ビクッとその場から飛び退ったが、どこに居ても同じ地の上なのだから意味はなかった。声は続けた。《このこと、誰にも言うでないぞ。あれらにも言うておく。我が命を司っておるのことは、知っておる神なら知っておる。だが、大ごとになるのは避けねばならぬのだ。黙っておれよ。我は見ておるぞ。》

二人は、もはや答えることも出来ずに何度も何度もブンブンと首を振って頷いた。

碧黎の苦笑するような気配を感じたが、二人はその場から逃げるようにして、宿舎へと飛んで帰って行ったのだった。


蒼が、何とか気持ちを切り替えようと人知れず涙をしっかりと拭いて、治癒の対へと足を踏み入れると、そこには観が身を起こした状態で、寝台に乗ってこちらを見ていた。蒼は、険しい顔のまま、観に歩み寄った。

「観殿。炎嘉様から聞いた…老いが、参ったのか。」

観は、そう悲壮な様子でもなく頷いた。

「そのようよ。まあ、もう千年以上生きておるし、そろそろであったのだ。駿も頼りになるし、我はそう案じておらぬ。だが、岳が騒いでこのように大ごとになっておるが、本来あのまま宮へ向かって飛び立っても問題無かったのだ。まあ、まだ少しあろうしな。祖父など老いが来てから二か月普通に生きておったと聞いておるし。我ら、老いが来ても緩やかな種族なのよ。なので、黄泉へ参るまでの間、駿に伝えねばならぬ事だけ出来る限り伝えたいと思うておる。なに、やっといろいろ終わった気分であるのだ。ここまで長かった…もう、我は満足よ。」

思えば、観は獅子が滅ぼされる時に弟の暦と共に宮を逃れてさすらっていた神だった。

幼い頃からはぐれの神の中で育ち、生き残り、力が満ちるのを待って、育って後にあの辺りの神達を世話して守って生きていた。

維心に見つけられ、宮を与えられて、あの辺りのはぐれの神を一層することを任された。獅子の宮として再興することを許されて、維心でさえも厄介だと手を出していなかった荒くれもの達を統治し、宮をあそこまでにしたのだ。

確かに、長く濃い生だっただろう。

「…主はようやった。オレなら、きっとあそこまで生き残ることも出来なかっただろうに。宮をあそこまでにして、そうしてしっかりした宮を跡に遺すことが出来る。駿はとても優秀な皇子だと聞いているし、もうそろそろ休んでも良いのだろうな。」

観は、感慨深げに遠い目をしたが、頷いた。

「そうであるな。…誠に、そうよ。暦が待っておるし、あれとあちらで昔語りするのを今から楽しみにしておる。」

岳が、ショックを受けているのか、ただ放心状態でその話を聞いている。

蒼は、これでもう観とも会うことはないのだろうと思いながらも、観が宮を飛び立って行くのをただ、見送ったのだった。

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