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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
王達の恋愛事情
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維月は、維心と共に月の宮の維心の対へと戻って来てから、重装備を解いてスッキリとしていた。

今夜は、月の宮へ戻って来ているのにも関わらず、十六夜に全く会っていない。とはいえ、十六夜のことなので、姿を見せていなくても、あちこち見ているのは確かだった。

維心と一緒に居るのにわざわざ十六夜の話をするのもと思い、維月が黙っていると、休み支度を整えた維心が口を開いた。

「…そういえば、本日は全く十六夜の姿を見ておらぬな。どこに居るのだ。」

維月は、自分の懸念が伝わったように言う維心に、頷いた。

「気配はずっと月にありますわ。なので、月から見張っておるのだと思います。宴は月が沈むまで行うでしょうし、今夜はずっと天上に居るのでしょうね。」

維心は、維月の肩を抱いて、寝台へと歩きながら言った。

「此度は仕方がないの。あれが守るこの地の中で、何かあっては蒼も神世に示しが付かぬし、十六夜自身が望んでおるはぐれの神の救済を、進められぬようになろうしな。」

維月は、頷きながら寝台へと入る。維心もその後を追って寝台へ上がり、そうして二人で並んで寄り添いながら、また維月の肩へと腕を回して抱き寄せた。

二人して天蓋の天井を見上げながら、お互いの気に和みながらまったりとしていたが、ふと、維月は言った。

「そういえば、母がなんとも可愛らしい姿で緊張気味に座っておったのには癒されましてございます。箔炎様とお互いにどう感じておるのか、その表情からは測れませんでしたが…。」

維心は、クックと笑った。

「命が覚えておるであろうから、不思議な心地であったろうの。とはいえ…椿は、やはり前世をどこか引きずっておる様子であったな。顔立ちが翠明と、僅かに綾に似た感じであるのに、どういうわけか主にも様子が似ておった。やはり命の筋と申すのは変わらぬのだなと思うたものよ。」

維月は、維心を見上げた。

「誠にそうですわ。父は知っておるのでしょうに、姿すら見せませなんだ。前世とはいえ己の片割れとして長年同じ本体を共有しておったのに、気にならぬのかと少し、残念に思いましてございますわ。」

維心は、それには顔をしかめた。碧黎は恐らく、全く陽蘭のことなど意に介していない。碧黎自身は一人で十分だと思っている節がある。何しろ、時々維月が居れば、碧黎は問題ないのだ。

「碧黎は…そもそも、自分の上に転生しておるのだし、別に月の宮へ来ずとも顔などいくらでも見れるであろうと思うぞ。此度だって、十六夜と共に結界内は見ておるはず。あの場にも、姿は現さなんだが見ておったのではないか。主が居るのだし、碧黎の視野は広いゆえ、我はそう思う。」

維月は、ため息をついた。

「…はい。確かにそうかもしれませぬが、もしどこかに記憶があるというのなら、もしかして父を思い出して母は少しでも記憶を取り戻すのではないかと…。」

維心は、維月の頭を撫でて、苦笑しながら首を振った。

「ならぬ。維月、主には分からぬか。主は己を思い出してほしいのだろう。未だに母を諦めて切れておらぬのだ。だが、何のための転生ぞ。此度こそ、何の憂いも無く限りある命の中で、誰かを愛し、愛されたいと思うたからではなかったか。思いもかけず、箔翔と翠明があのように取り決めたゆえ、あの二人は再び夫婦となることが出来る。我は良かったと思うておる。陽蘭自身が望んだ通りに生きておるのだからな。碧黎も、だからこそ姿を見せぬのだと思う。もし、また前世の長い記憶を思い出すようなことがあれば、椿という女神の一生は無くなってしまう。陽蘭はせっかく転生したのにも関わらず、また陽蘭として生きねばならなくなる。我は、陽蘭自身が望んだように、もうあの生は無くした方が良いと思うておるのだ。主も弁えよ。主が言うは己のためぞ。椿のためでは、陽蘭のためではない。」

維月は、維心に言われて下を向いた。確かに維心の言う通りだ。母を亡くして、それが翠明の宮に戻っているのだと知った時、また以前のように話すことが出来るのではと、期待した。いつか思い出して、維月と呼んでくれるような気がしていた。

だが、それは自分の独りよがりな望みでしかない。

ここで記憶を戻したら、せっかく一度死んで転生したのにまた前世を引きずってしまう。分かっているのだ。それなのに、思い出してほしいと思ってしまう…。

「…私の我がままなのはわかっておるのですわ。それなのに…申し訳ありませぬ。」

維心は、維月の額に口づけた。

「良い。維月、主に母などもう要らぬではないか。人も神も、本来不死の親など居らぬから、先に親を亡くすもの。そうして、己自身で生きて行くもの。陽蘭が死んだ時、主は母を亡くしたのだ。しかし我が居るではないか。他に何が必要だと申す?」

維月は、伏せていた目を上げて、維心を見上げた。そうして、維心の頬に触れた。

「はい。十六夜も、父もまだ今生に居てくれるのですし。何もかもと、私は欲張りでしたわ。何より、維心様は前世も黄泉も今生も、ふらふらと気ままに私の側を離れる十六夜とは違い、ずっと傍に居てくださった。その信頼感がありまする。ずっとお傍に置いてくださいませ。」

維心は、嬉しそうに笑うと、維月を抱きしめた。

「傍に居れ。我らは黄泉であろうと現世であろうと変わらず共ぞ。それがどれほどに我にとって幸福か、主には分かるか?だからこそ、我は重い責務にも耐えられる。案じずとも離れる事など無い。我は主を愛している。」

維月は、維心に唇を寄せた。

「はい、維心様。私も維心様を愛しておりますわ。私とて、どれほどに幸福でありますことか。あなた様に出逢って愛されることが出来たなど、なんと幸運なのかといつも思いますもの…。」

「維月…。」

維心は、幸福な気持ちのまま、維月と愛し合った。

外では、月見の宴はむしろ盛況に、まだ続いていた。


「ふーむ蒼も今は独身か。」焔が、盃を片手に言った。「確かに月は不死であるから、妃は先に死んでしまおうな。」

蒼は、同じように酒を手に頷いた。

「そうなのだ。最後に華鈴が逝った時に、もうこんな悲しい思いをするのはと思って、妃を娶るのはやめた。こちらは、オレが不死なので、跡継ぎ問題というのも無いしな。」

炎嘉が、考え深げに言った。

「我の前世の最後の皇女であった。つらい思いもさせたが、蒼に嫁いであれは幸福であったと思うのだ。蒼は、神世のどの王よりも女を大切にするからの。人であったし、対等の意識があるゆえ。いつ見ても、幸福そうに笑って穏やかな気をまとっておったわ。あれは幸福なまま逝ったのだと思う。なので、我は満足よ。」

蒼は、炎嘉を見て微笑んだ。

「最後まで面倒を見ると言って、あれを娶ったので。そうであったらいいなと思います。」

焔は、志心を見た。

「主も妃を亡くしておったな。まだ老いが来ておらぬが、新しく娶るつもりはないのか。」

志心は、静かに盃を空けていたのだが、首を振った。

「もう、いつ老いが来てもおかしゅうない歳よ。最近では全くそのような気も起らぬし、気がかりなのは我が子達のことだけ。志夕が無事に育ってさえくれたらと、そのような事ばかり考えておる。」

箔翔が、頷いた。

「年齢を経て来ると、次の王座の事ばかりが頭を過ぎるようになって参った。我などまだ先は長いが、それでも箔炎を無事に育て、箔真はそれに倣うであろうが悠理を嫁がせて…と、そんな事ばかり考えてしもうて。とりあえずは椿殿を箔炎にもらえることになって、まずは一安心というところ。しっかりした妃というのが、我らの考えであったからな。箔炎の助けになってくれるであろうて。」

翠明は、あまりに箔翔が椿を高く評価しているので、段々に不安になって来た。

「その…椿は、確かにしっかりしておるが、しかしどの程度そちらの期待に沿えるものか。あまりに期待されると、こちらも不安になって参るものよ。」

綾も、後ろで扇で目だけを出して、確かに不安そうだ。しかし、焔が言った。

「いや、椿殿は動きも洗練されておって良い皇女であったわ。あの気も、何やら月の眷属と似たような大きな大らかな珍しいもので。翠明が嘆くのでどんな皇女かと思うておったが、あれなら急がねば成人したら競争率が高くなろう。箔翔も、そう思うたから急いでおるのではないのか。」

箔翔は、思惑を当てられて少し、バツが悪そうな顔をしたが、仕方なく頷いた。

「その通りよ。最初はどんな皇女かと思うておったが、あの歳とは思えぬような芸術品のような美しい手で。姿も美しいし、気も珍しい。その上、綾殿が育てたとなると、我らここで押えておかねばあれ以上は箔炎に望めぬだろうと思うての。」と、翠明を見た。「そんなわけで、我ら婚姻の正式に約したいと思うておるのだ。近日中に結納の儀を執り行いたいと思うておるのだが、そちらはどうか?」

翠明は、少し驚いたが、チラと綾を見た。綾は、翠明を見て頷く。翠明は、箔翔に頷いた。

「では、こちらでご使者のお迎えの準備をしよう。日取りを決めて知らせてくれぬか。」

箔翔は、嬉し気に頷いて、悠子を見る。悠子も、ホッとしたように微笑んだ。

「ならば、臣下に申しつけて一刻も早く決めて知らせようぞ。」

すると、庭の向こう側から、箔炎と椿が歩いて来るのが見えた。蒼は、それを見て、あの小道を行ったのなら、奥の滝まで一直線なので、奥まで行って来たのかな、と思って見た。

ほんの二時間あるかないかの時間だったが、何やら打ち解けているようで、楽し気に話しながら戻って来る。

翠明が、それを見てホッとしたような顔をした。

「おお。椿が気に入ったか。」

ため息と共に独り言のように言うと、綾が頷いた。

「椿もあのように。気が合ったのかもしれませぬわ。誠に良かったこと…。」

箔翔も、満足げに頷くと、二人が近づいて来るのを待った。

箔炎が、桟敷まで戻って来ると、椿の手を取ったまま草履を脱いで上がって来るのを待って、そうして、二人して頭を下げた。

「父上。戻りましてございます。」

箔翔は、頷いた。

「思うたより長い時間であったの。話が弾んでおったようよ。」

箔炎は、椿をチラと振り返ってから、頷いた。

「は。婚姻までの間、お互いにこうして知り合って参ろうと約しました次第でございます。」

ということは、二人は婚姻に異論はないということだ。

翠明が、少し涙目になりながら、言った。

「良かったことよ。主らがそこまで前向きであるなら、結納の儀の話をしておったのだが、良かったの。」

箔炎は、箔翔を見た。

「結納の儀を?」

箔翔は、頷く。

「こちらで日取りを決めて早急に正式に婚姻を約すと今、決めておったところよ。それからは自由に宮を行き来して構わぬようになるし、交流もしやすかろう。主らが思うように、ゆっくりと婚姻まで知り合って参れば良いのだ。」

箔炎と椿は、顔を見合わせた。ということは、もう正式に決まるのだ。

とはいえ、二人はもう、将来を誓い合っていた。なので、あまりに急なので驚きはしたが、嫌ではなかった。何より、なかなか会えなくなると文ばかりのやり取りになると残念に思っていたので、それは嬉しかった。

なので、箔炎は答えた。

「はい。では、そのように。」

箔翔も翠明も、悠子も綾も肩の荷が下りた思いで、嬉し気にしている。

蒼は、明るい話題に本当に良かったと、月を見上げた。

月は満月で、十六夜の気配がしたが、十六夜の意識はこちらに向いてはいないようだった。

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