表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
王達の恋愛事情
155/198

月の宴2

維月は、几帳の後ろから透けて見える王や皇子達の後ろ姿を眺めながら、今日は十六夜も警備の方に回っているんだなあと思っていた。

十六夜や碧黎が広域に見ている中で、もし不埒な輩が居たとしても何某かしてはこれないからだ。

向こうからは見えないが、几帳の裏にはそれぞれの妃と皇女が座っていた。

維月は、隣になる箔翔の妃の悠子に、まず声を掛けた。この中では悠子が維月の次になるからだ。

「悠子様。ごきげんよう、お久しぶりでございます。いつも御文ばかりで失礼致しておりますわ。」

悠子は、微笑んで維月に頭を下げた。

「維月様。ご無沙汰致しておりますわ。いつも美しいお手での御文に学ばせて頂いておりまする。」

維月は、それから反対側の隣の綾を見た。

「綾様。本日は椿殿もお連れなのですね。先日の立ち合いでは素晴らしいご活躍で、我も立ち合う者同士、大変に心強い事でしたわ。」

綾は、椿と共に頭を下げてから、答えた。

「維月様には大変に優れた立ち合いをなさるとか。椿も驚いておりましたわ。」

維月は頷いて、次だと沙耶を見た。

「沙耶様。ごきげんよう、本日はお召し物も月の光によう映えておりますこと。良い織りですわね。」

沙耶は、嬉しそうに頭を下げた。

「まあ龍王妃様。はい、此度のために王が作らせてくださったものですの。良い出来だと王も喜ばれておりました。」

これで、声を掛けていないのは、皇女の白蘭だけ。

維月は、白蘭が頭を下げたまま、ベールに包まれてそれは慎ましくしているので、悠子の向こう側の白蘭を見た。

「そちらは…白虎の宮の白蘭様であられますかしら?初めてお目にかかりますわ。」

白蘭は、心配そうに真後ろにぴったり控えている侍女に軽く視線を送ってから、深々と頭を下げた。

「はい。何事も弁えぬ新参者でございますので、どうぞよろしくお導きくださいますようお願い申し上げます。」

維月は、驚いた。

聞いていたのと違う…完璧に上位の宮の皇女の模範的な様だ。

そういえば維心もこの間、志心が皇女の急に励む様に戸惑っておった、と言っていた。

何より白蘭は、きちんと維月に声を掛けられるまで待っていた。

「そのように堅くなることはないのですよ。」維月は、微笑んで言った。「こちらはそう礼儀にうるさい宮ではないのです。こちらは我の里であって、お気になさらず分からぬ事はお聞きくだされば。」

すると、維月と白蘭の間に座る、悠子が言った。

「内向的なかたのようで、そのように侍女が先ほど申しておりました。ご緊張なさるのも致し方ないかと。怖くて几帳の裏でもベールをお降ろしになれぬのだとか…慎み深いかたなのですわ。」

見れば、皆はベールを降ろしているのに、白蘭はそのままだ。維月も座ってすぐに侍女が降ろしに来たので、今は扇で顔の半分を隠しているだけだった。

女同士であるので、扇すら降ろしてしまうのが几帳の利点なのだが、白蘭はそれすら無理らしい。

とはいえ、これで、几帳の裏の皆には声を掛けた。

維月はホッとして、皆が会話する様を眺めて座っていた。

椿は、そんな几帳の裏の様子にため息をついていた。

これからはこういう場にも慣れて行かねばならないのだ。何しろ、今悠子が座っている位置に自分も座る可能性がある。

思いながら前を見ると、そこには自分が嫁ぐらしい、箔炎という皇子が座っている背があった。

まだ青年辺りの大きさだが、既に重々しい雰囲気は持っていて、同い年というより少し年上に見えた。

鷹特有の金髪で、先ほどちらと見た所赤い瞳で、凛々しい様だった。

嫁ぐと言われてもピンと来ないのだが、しかし椿は、その箔炎の気には慕わしい、と思う、懐かしい印象を持った。

なので、嫁ぐなら他と言われるよりはこのかたで良かった、とは思っていた。

いや、むしろ箔炎で幸運だったと、どこかホッとしているようなのはなぜだろう。

椿がそんな風に思いながらじっと母に習った通り、扇で顔の大半を隠してじっと座っていると、皆と仲良さげに話していた綾が、振り返った。

「椿、悠子様があなたの手を大変にお褒めくださっておるわよ。そのように引っ込んでおらず、今少し前へ。」

椿は、ハッとして慌てて前へと膝を進めた。そして、龍王妃の向こう側に座る、恐らくは自分の義母となる悠子に、頭を下げた。

「椿殿、素晴らしい御手のお文をありがとうございまする。我が王も、大変に感心しておりましたわ。このように優れた皇女を箔炎の妃にお迎え出来るのは、幸運だと話しておりましたの。」

まだ正式には話した成っていないはずだったが、悠子はそう言った。椿は、どう答えたものかと悩んだが、言った。

「そのような…我などまだ半人前で、ただお恥ずかしい限りでございます。」

何しろ、まだ成人していないのだ。

綾は、横から答えた。

「こちらこそ、鷹の宮の妃にお迎え頂けるなど、なんと幸運なと王とお話しておりましたところ。まだこのように未熟であるのですが、宮へお迎えくださる時には必ずやしっかりとした妃として上がれるように、努めさせて参りますわ。」

悠子は、それには首を振った。

「そのように気負われなくとも。既に素晴らしいかただとこちらでは感心しておるのですから。あのような大らかなそれは美しい文字を書かれるのですから…何やら、広く大きなお人柄を感じましてございます。」

維月は、それを脇でじっと聞いていて、やはり母は変わらないのだと心の中で思い、込み上げて来るものと戦っていた。文字には、人柄と教養が現れるという。母の大振りな、恐らくはしっかりとした筆致の字は、前世、地の陰であった頃から変わってはいないのだろう。

すると、前を向いて皆と歓談していたはずの維心が、ふと振り返った。そして、維月をじーっと見て、言った。

「…維月?ここへ来ぬか。」

維月は、びっくりした。几帳があるのに、どうしてわざわざ呼ぶの?

しかし、維心は振り返ったまま手を差し出して待っている。

普段なら、衣装が重いとかみんなこちらなのでこちらでとか言って、行かない選択をするのだが、今は皆の手前、王を立てて龍王妃として完璧でなければならなかった。

なので、急いで寄って来た侍女達に再びベールを掛けられて、維月は立ち上がった。

「王がお呼びですので、しばし失礼を。」

維月はそう、皆に声を掛けてから、几帳の脇を抜けて、維心の方へと数歩歩いて寄った。

こんなに大層な着物を着ている時に、王達がたくさんいるのにどうしてお傍に呼ぶのかしら。

維月は少しむっとしたが、それを表に出さずに、維心に頭を下げてから、その手を取った。

「維月。」維心は言って、維月を引き寄せた。「何かあったか。」

維月は、そこで悟った。維心は、維月の椿を見ての感情の変動を、前で感じ取って心配になったのだ。だから傍に呼んだのだろう。

維月は、どこまでも心配性な維心に苦笑しながらも、回りに分からないように維心に身を摺り寄せて、言った。

「ご心配くださったのですね。違うのですわ、椿殿の御手の話になっておって…。広くて大きなお人柄を感じる、美しい御手なのだそうですわ。」

維心は、その言葉で悟ったのか、維月の肩を抱きながら、頷いた。

「そうか。ならば面倒があってつらくなったのではないのだの。ならば良い。」

そう小声でやり取りしていたのだが、それを見た箔翔が、良い機だと思ったのか、後ろを振り返って言った。

「ならば悠子も。なに、本日は箔炎も連れて来ておるし、翠明との取り決めのこともあって、本人同士の対面をさせてやりたいと思うての。」

箔炎が、少し緊張したように体を硬くする。翠明は、待ってましたとばかりに言った。

「ならば綾も、椿も。」

樹籐は、何やら自分だけ妃を隠しているようになると思ったのか、急いで言った。

「皆出て参るのなら、沙耶も。しかし、どうなっておる。箔翔殿と翠明は、取り決めをしておるのか。」

翠明が答えようとしたが、箔翔の方が先に答えた。

「そうなのだ。椿殿なら是非にと、悠子も言うておるのでな。早い方が良い。」

それを聞いて翠明は驚いた。箔翔の方が、何やら前向きになっているからだ。

志心が、言った。

「几帳の向こうが白蘭だけになってしまうではないか。では、もういっそ几帳を避けてしもうたら良いのよ。幸い、ここの桟敷は最上位や上位の王ばかりぞ。慣れておるのだから大丈夫であろう。」

それを聞いた蒼が、皆を見回す。全員、異論は無いようだったので、侍女に手で指示して、そうして、几帳を取り除かせた。

そうして、王達がそちらへと体の向きを変えたので、全員が向き合って輪になるような形になり、自ずと箔炎と椿も、顔を合わせることになった。

「!!」

椿は、突然の事だったので、ベールをまとう暇も無く、ただ扇を高く上げて必死に下を向いた。こちらを向いた箔炎は、一瞬ちらりと目が合ったが、それは美しく吸い込まれるような慕わしさがあった。そして、なぜか涙が出て来そうなほど、懐かしい。会いたかった、という気持ちが、湧き上がって胸が詰まりそうだった。

一方、箔炎は、驚いたような顔をしたが、しかしじっと黙っている。

維月が息を飲む中、前世の王と妃の二人が、記憶を失ったまま対面したことに自分を重ね合わせて、維心は感無量だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ