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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
王達の恋愛事情
143/198

当日

その日は、晴れ渡っていた。

というのも、他の地では大荒れだったが、維心が雨雲を追いやってしまっていたので、その時だけ晴れている状態だったのだ。

遠くで雷雲が音を立てているのを聞きながら、維月は苦笑して維心を見上げた。

「まさか台風が来るとは思いもせずで。ここらだけ晴天なのは、人世では奇異でありましょうね。」

維心は、ため息をついた。

「しようがないことよ。試合の間だけであるしな。人にはしばらく堪えてもらうことにする。」

とはいえ、人だって台風となるとしとしと降る雨とは違い、来て欲しくはないだろうし、ここらの人だけラッキーだと思っているかもしれない。

維月はそう思いながらも、義心が最終報告に来るのを待って、二人とも甲冑姿で維心と共に座っていた。

すると、きっちり定刻に義心はやって来て、二人の前に膝をついて頭を下げた。

「王、参加者の最終報告でございます。」

維心は、頷いて先を促した。

「申せ。」

義心は、懐から書を出して、それを見ながら言った。

「53名の登録者のうち、1名が欠席となりましたので最終52名となりました。組み合わせを考えずにきっちりと分けることが出来たので、対戦相手の面倒はございませんでした。」

維心は、眉を上げた。

「全員宮へ入ったと昨日申しておったのでは?」

義心は、頷いた。

「は。獅子の宮の茉奈様が、昨日遅くまで訓練場で立ち合っていらしたのは見ておったのですが、どうやらご体調を崩されたようで。駿様から欠席のご連絡が早朝にございました。」

維月は、口を押えた。

「まあ。治癒の者は?」

義心は、首を振った。

「駿様自身が治癒の術を知っておられるので、良いと。そこまで症状がお悪いのではないとのことで。お疲れのようでありますな。」

維心は、苦笑した。

「まあ女の身ではな。励み過ぎて疲れたのだろう。しようのないことよ。茉希殿は出るのであろう?」

義心は、それには頷いた。

「はい。ご緊張なされておるのか険しいお顔つきであられましたが、対戦されるとのこと。先ほど肩慣らしをされておるのを見ましたが、そこそこ技術はお持ちのようであります。」

維心は、ふふんと笑った。

「それなりに見れるということであるな。しかし維月に敵う女など居るまい。誰の妃であろうと我が妃には敵わぬわ。」

維月は、そんな維心を見上げて言った。

「維心様、そのように。私は月なのでございますから。神ではないのですわ。そこをお間違えにならぬように。」

維心は、それでも微笑を浮かべたままだった。

「所詮そんなものと言いたいのだ。主は特別よ。」と、まだ反論したそうな維月を後目に、義心に命じた。「では、皆を訓練場へ揃えさせよ。参る。」

義心は、頭を下げた。

「は!それでは、御前失礼致します。」

そうして、義心は出て行った。

維月は、維心のどうあってもやはり女を下に見ている考えを、どうにか変えられないものかと皆の頑張りに期待していたのだった。


駿は、今日は男物の着物姿のままで居る、茉奈に言った。

「では、行って参る。母上はご機嫌がお悪いし、主はここで居れば良い。」

茉奈は、頭を下げた。

「はい。いろいろありがとうございました。」

茉奈は、駿を見上げた。昨夜は、寝るまで幼い頃のように、ずっと語り合っていた。第一皇子で宮の後を継ぐ駿は、茉奈とは違い、段々に政務などにも携わり、あまり二人で話すことも無くなってしまっていたが、駿は、あの頃と何も変わってはいなかった。茉奈を気遣ってくれていたし、妹の幸せを願ってくれていたのだ。茉奈が幼い頃から、駿の背を追ってばかりで、他の女が興味を示すようなことに無関心だったことも知っていた。駿が立ち合いの練習を始めたら、自分もやりたいと言い出した。母が自分の身を守るためとそれを許した時も、茉奈は母よりずっと意識が高く一生懸命だった。駿も、妹というより弟という感覚で、茉奈に接していた。

しかし、母も父もそれに眉をひそめて、茉奈が興味が無いことも、皇女の嗜みだとさせていた。茉奈は、立ち合いを続けることを許してもらうために、それも一生懸命努めていた。駿は、父や母が言う、茉奈が良い所へ嫁ぐことが一番幸福だということに、ずっと疑問を持っていたのだ。

「我の力には、限界がある。」駿は、昨夜茉奈に言った。「父上は母上の言いなりではないが、しかしある程度は同じ考えでいらっしゃる。始めは反対されよう。だが、主が本気であることが伝われば、父上は必ずご理解くださる。そういうかたであるから。母上のことは気にするでない。母上は我には逆らえぬ。だが、父上は別ぞ。主は己の力で己の望みを手にするのだ。分かったの。」

茉奈は、覚悟をもって頷いた。自分が男で居るためにも…そして、男でないと分かっても、そこらの女とは違うのだと定佳に知ってもらうためにも、自分は一生懸命軍神として努めねばならぬ。

茉奈は、そう決心していたのだ。

駿は、茉奈の目を見返して頷くと、そこを出て試合の観覧へと向かった。

母の茉希とは、顔を合わせることはなかった。


定佳は、広い観覧場で、上位の宮の王達が集う貴賓席へと目をやった。

しかし、たくさんの上位の宮の王族が居るにも関わらず、そこには茉奈は居らず、駿という第一皇子が居るだけだ。

近くて遠い貴賓席に足を踏み入れるわけにも行かず、定佳は茉奈を気にしながらも、訓練場へと視線を移した。

そこには、どこにこんなにと思うほど、女の軍神達がひしめいていた。

皆女のために仕立てられた甲冑を身に着けているので、明らかに龍の軍神達とはたたずまいが違う。

それでも、女でも甲冑姿になると、それなりに戦えそうに見えるのだから不思議だ。

龍王と龍王妃が最後には立ち合うのだという。この、女の軍神達の試合がそうでもなくても、あの二人の立ち合いが見られるのならここに座る価値があるもの、と定佳を思って見ていた。


最初は、レベルが下の者たちの対戦だった。

立ち合いが始まったが、それは立ち合いには程遠く、子供が戯れて庭ででも木刀を振り回しているのではという様だ。

それを見た龍王は失笑していたが、隣の龍王妃がそれを咎めて、困ったように表情を変えていた。

会場の皆も、何やら失笑ムードになっている中で、段々に上位の宮の軍神達へと移行し始めた。

すると、お、と目が立ち合いに集中するようになり、もしかして下位の軍神なら男でも勝てぬのでは、というレベルになって来た。

「おお、良い動きよ。」と、定佳は思わず言葉を漏らした。「いったい、どこの宮か。」

隣りで、兵馬が答える。

「は。配られた案内によると、あれは獅子の宮の王妃であられまするな。」

では、茉奈が言うておった戦う母か。

「ならば巧みなのも道理よ。あれは宮で実戦を繰り返しておるから、ああして型通りではない動きにも対応できるのだ。そうか、観殿はあのような妃をお持ちか。」

長い黒髪は、後ろで束ねてあるが、茉奈を思わせた。茉奈は男なので短いが、色が同じ。

定佳がそれを慕わしく思い出していると、勝敗はいきなり決した。

茉希は、次の試合へと進んだのだ。

「ふむ、あれが中間となると、上位の腕の女神は期待できるものよ。なんと、女でもそこそこやりおるではないか。」

定佳がそう言うと、兵馬は眉を寄せたまま訓練場へと目をやって、そして言った。

「…あれぐらいならば、我らの軍では最下位の者でも勝てまする。実際の戦闘ではこれほど短いものではないし、あの獅子の王妃はもう息を切らせておいでではありませぬか。我はどうかと思いまする。」

定佳は、それを聞いて苦笑した。まあそうなのだが、女にしてはようやっているではないか。

そう思ったが、兵馬の考えをどうの考えてはいなかったので、黙っていた。

しかし、試合が進むにつれて、トーナメント方式で強い女ばかりが勝ち残って行く。

そうなって来ると、最後に近付くにつれて、かなりの手練れになって来た。

その辺りまで来ると、定佳の脇に控える兵馬の顔は険しくなり、唇は真一文字に引き結ばれて、寡黙になった。定佳は、笑いそうになるのを必死に堪えて訓練場を見つめていた。

今、立ち合っている女神はどちらもかなり若いが、兵馬では勝てるかどうか疑問よな。

定佳は、そう思っていたのだ。もちろん、定佳には敵ではない。だが、兵馬のレベルでは、恐らくはいい勝負になるはずだ。

定佳は、言った。

「…あの女神は、どこの軍神ぞ?良い動きをしよるな。あそこまで出来るのならそこそこ序列がついておるのでは。」

兵馬は、睨むように立ち合いを見ていたのだが、ハッとして、定佳に頭を下げた。

「は…その、案内では、若葉色の甲冑は翠明様の宮の、皇女椿様。金色の方の甲冑は、鷹の宮皇女悠理様と。」

定佳は、感心して見ていた。翠明の娘の椿が、もうあれほどに育つか。それにしても鷹の皇女と言ったら、つい最近生まれたように思っていたのに…確かにまだ、子供ではあるが、しかし何と素早い動きぞ。

定佳は身を乗り出すように見ていたが、それに釘付けになっていたのは、何も定佳だけではなかった。

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