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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
王達の恋愛事情
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機会

「誠でございますか?!」黒髪で、鋭い緑の目の、観によく似た美しく凛々しい顔立ちの茉奈が、言った。「夢のようでございます、まさか龍の宮で、腕試しが出来るなど!」

茉奈は、すらりとした背格好で、女神には珍しく短く髪を切っていて、人世で言うならナチュラルボブと言われる形だ。胸もそう大きくはないので、さらしを巻いて甲冑を身に着けてしまうと、見た感じ細身の若い軍神の一人に見えてしまう。声も茉希に似て低めで、現に訪ねて来た他の宮の神達も、茉奈が男だと思っている者の方が多かった。

駿が、そんな茉奈を見ながら、言った。

「喜んでおる場合ではないぞ、茉奈。主は獅子の宮の代表として参るのだからの。父上の名折れにならぬように、これからでも当日までよう精進せねば。我も少し、見てやろうぞ。」

駿は、正に父の観にそっくりだった。若々しく凛々しい上に、鋭い目でしかも誰より気も大きく立ち合いも強いので、宮では女が寄って来て仕方がない、観の自慢の皇子だった。

観が付きっ切りで育てた甲斐あって、最近では観の代行も難なくこなす。誰も、皇子の駿には敵わなかった。

観は、満足げに頷いた。

「そうであるな。少し、見てやると良いぞ、駿。そうよ、では、当日は主が参るか。そろそろ他の宮も見て置いた方が良いと思うておったところ。兵馬に行かせるゆえ、主が茉奈と共に龍の宮へ行って参れ。主とて、井の中の蛙では嫌であろう?」

駿は、少し驚いた顔をしたが、微かに口の端を上げた。

「我が参っても良いのですか?」

観は、頷いた。

「良い。これからは、交互に参ろうぞ。主とてもっと外を知らねばならぬからの。母と妹を頼んだぞ。」

駿は、嬉しかったのか顔を少し紅潮させて、頭を下げた。

「は。母上と茉奈と共に、必ずや学んで参ります。」

茉希が、観の横で微笑んで扇を振りながら言った。

「龍王妃様の申されておった通り、なんと心の沸き立つ場であることか。我も、最近は訓練場には立っておりませぬが、肩慣らしをしておかねばなりませぬわ。王も、たまには我らと戯れてはいかがでしょうか?茉奈にも、何か技があったら教えてやらねばならぬのでは。」

観は、ハッハと声を立てて笑った。

「技とて我は自己流での。誰に教えてもろうたわけでもないのだ。それでも良いなら教えてやろうの。では、今から参るか。」

茉奈が、飛ぶように立ち上がった。

「はい!」

そうして、一家四人で訓練場へと笑い合いながら向かった。

危なく荒れた宮だと言われていても、観達家族は皆、幸福に生きていた。


義心が、維心と維月の前に膝をついて、懐から取り出した巻物を手に、報告した。

「全部で53人の、女神の参加が決まりました。レベルが分からないので自己申告制でありまして、序列が付いておる者はそれを、そうでない者はその旨を記すようにと知らせておったので、その宮のレベルと、序列で考えて対戦相手を決めておりまする。維月様の太刀は、他とは格が違うため、我がお相手をするか、それとも維明様か王がお相手をするということで、試合自体にはお出にならない形でと考えておりまするが。」

維心は、頷いて維月を見た。

「維月の相手は、我にしかできぬだろう。他は勝てた(ためし)がないではないか。ならば、我が最後に維月と立ち合うて見せる事にしようぞ。それで良いの?」

維月は、頷いて微笑んだ。

「はい。まあ楽しみですこと。聞いておったら観様の皇子であられる駿様が、初めて宮を出て来られるのだとか。維斗と同じぐらいの歳の頃ですし、仲良くしてくだされればと思いますわ。」

維心もそれに同意した。

「駿とは初めて顔合わせであるし、楽しみであるな。焔も、己の宮からは女の軍神など居らぬのに烙を連れて参るのだとか言うて来ておったわ。あれも変わったもの好きであるからな。」

義心が、書状に目を落として言った。

「確かに…こうして見ますと、下位の宮の方が女神の軍神が多いようでありますな。鷹の宮も鳥の宮も、鷲の宮も白虎の宮も参加者は無しでありますのに、下位の宮々では結構な人数が居るところもありまする。上位では、観様の宮、月の宮ぐらいしかありませぬ。」

維心は、思った通りだと微笑しながら言った。

「さもあろうな。上位の宮は皆、激務であるから女では務まらぬのだ。軍神になろうという女も居らぬしな。観の宮は己を守るために仕方なくであろうし、下位の宮は遊びであろうと我は思うておるよ。」

こうして見ると、維心の言うことは間違っていないように思う。

だが、維月はまだあきらめていなかった。女でも、一人前に自分を自分で面倒見てやっていこうとする気概がある女が居るのだと思いたかった。神世の誰もかれもが、男に守ってもらって生きようとするのが、間違っているように思えて仕方がない。すぐには変えられないだろうが、もし自分で生きたいと思う女神が居たら、足を踏み出すための一押しになれればと、維月は思ったのだ。

「女にも相応の場が与えられて然るべきだと思うておりますわ。きっと、維心様も驚かれることかと。」

維心は、それには維月の意図が見えかくれしてクックと笑った。

「分かっておるよ、主はそうであるな。まあ、立ち合いぐらいならそこそこ出来る者も居るやも知れぬ。しかし実際に任務に就くには恐らくは難しいやも知れぬがな。楽しみにしておる。」

維月は、どうあっても根本的な考えは変えられない維心に、仕方なく頷いた。

「はい。私もそのように。」

維月自身も、茉希や茉奈の腕前にはかなり期待していたし、あの二人ならば恐らく維心に、軍神として通用すると思わせるのではないか。そして維月も、勝てないとしても今回こそは維心を良い所まで追い詰めることが出来たなら…。

維月は、袖で口を押えて微笑みながら、そんなことを考えていた。


女が刀を握るのには眉をひそめる他の宮の王達も、これまでに無かった催しに興味は持っていて、それなりに楽しみにしているようだった。次の会合の時には王達の間でもその話題で持ち切りで、どこの宮でも今まで気にも留めていなかった、女の軍神という存在を、見直しているようだ。皆がそれだけ注目しているとなると、自分の宮からお粗末な軍神を出すわけには行かないと思っているようで、もう出場登録してしまった女神を抱える宮では、王まで出て来て鍛えているのだと聞いていた。

維心は、思った以上に神世がその時を楽しみにしているようなので、それはそれで驚いた。思ったより多くの神が観覧に来て大きな試合になりそうだったので、義心にもそれには気を付けるようにと場内整理にも気を遣わねばならない始末だった。

維月は、神世が今度の試合の事で浮足立った感じになっているのは月から見て知っていた。茉希や茉奈も、毎日訓練場に観や駿と共に立って、最上位の宮の軍神として恥ずかしくないようにと精進しているらしい。

獅子の宮は、家族ぐるみで前向きに軍務に向き合っていて、維月から見るととても幸せな家族に見えた。共に戦う事でお互いを敬う気持ちも出来るのではないのかと思えた。

龍の宮では、最初は気軽な催し程度の対応だったのだが、そうなって来ると大勢の観覧者を収める控えの間も必要になるし、案内係も必要になる。そして、皆絶対に手ぶらでは来ないのでそれを受け取る係と、こちらからの返礼の品を渡す係も大勢必要になる。

慌ててそれらの手配を命じた維月であったが、兆加達が必死に対応しているのを見ると、急いで開催すると言って悪かったな、と思っていた。一年ぐらい待てば、その間にゆっくり来客の人数を確認して、それ用の対応を考えて行くことが出来たのに、性急に進めているのでこんなことになっているのだ。

しかし、維心もいつもこんな感じで思いつきで動くので、臣下達は慣れていて間に合わないということはなさそうだった。

王だけでなく王妃まで面倒を、と思われているかもと思うとバツが悪かったが、維月は黙って臣下達に任せてその当日を待った。

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