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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
王達の恋愛事情
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新しい催し

維心は、急いで回廊を歩き、自分の最上級の控えの間へと向かった。

いつもなら、会合で宴の席に残ると、部屋へ帰っても維月は居らず、寂しい思いをすることになる。だが、今回は連れて来ているので、この夜も会うことが出来る。そう思うと、どうして毎回連れて来ないのかと自分でも思うほどだった。

気ばかり焦る中、ふと回廊脇の窓から見える庭の方へと視線を移すと、そこには緑翠が、前に見たより大人びたような顔で、何やら覚悟のようなものを持っている神のように、落ち着いた様でゆったりと散策している様が見えた。

…あのような事があったゆえ、緑翠も悟ったように見える。

維心は、そう思いながら、そこを通り過ぎた。緑翠は、定佳を思い切り、自分の責任を真実悟り、自分が背負うものに対する覚悟をしたのだろう。

定佳が死んだあと、あの宮を治めるのは緑翠なのだ。

他の宮の皇子であっても、神の成長も見るのは良いものだと気を良くした維心は、維月の待つ部屋の扉を開いて、中へと入った。

すると維月が、もう寝る支度を整えてゆったりと座っていたのだが、立ち上がって頭を下げた。

「お帰りなさいませ、維心様。」

維心は、それを見て一気に癒されながら、頬を緩めて手を差し出した。

「今帰った。我も寝る支度をしようかの。」

維月は、維心の手を取りながら言った。

「では、お体をお拭き致しますわ。湯の準備をしておきました。」

侍女達が、大きな桶に湯を貯めたものを気で持ち上げて脇へと急いで設置した。そうして頭を下げて出て行くのを見てから、維月は椅子に座った維心の襦袢を脱がせて、絞った布で背を丁寧に拭き始めた。

「大浴場も有るようでしたが、さすがに維心様のご身分ではこちらの浴場は使われないと思いまして。」

維月が言うのに、維心は頷く。

「身分というのは面倒なものよ。同じ格の神以外には男でも公に肌を晒す事が出来ぬのだからの。無理に入ると言えば、他の神が使えぬようになり面倒になる。公衆の浴場などに忍びで行く分には問題ないのだが、」

維月は頷きながら答えた。

「はい。私もこちらでは湯殿を使えず誠に残念でございますわ。綾様が申すに、露天風呂も備えた大きなものであるようですのに。」

維心は、維月に体を拭かれながら、首を傾げた。

「どうしてもと申すなら、明日の朝にでも翠明に言うて封鎖させて二人で入って参っても良いがの。朝ならそう、皆に面倒も掛けまいし。」

維月は、微笑んで答えた。

「はい。それも良うございますわね。」

そうして体を拭き終わり、襦袢を着せて着物を整えて、維心も寝る支度が整った。維心は、維月と共に寝台に横になりながら、その肩を抱き寄せて言った。

「それで、長い間何を話しておったのだ?こちらは政務の事ばかりで…いや、そういえば宴の席で志心が義心のことを話題にしておったの。」

維月は、驚いたように維心を見上げた。

「まあ、もしかして婚姻の打診を?」

維心は、首を振った。

「いいや。皇女が義心を思うて引きこもって居るとの話よ。観が何も知らぬから降嫁させてはと言い出したが、炎嘉や焔の助言もあり、我は断った。志心は賢しいゆえ真正面からは、やはり言うてはこなんだの。しかし…あれはまだ我と炎嘉の間に何かあると思うておるようで、嫌みを言われたわ。我らは男には興味はないと申すに。大概迷惑ぞ。」

維月は、苦笑した。

「誠に。志心様にはどちらも対象であられるので、そのように思われるのでしょうね。維心様にはかなりの潔癖症であられて、最近では侍女にすら袖を触れるのも嫌がられるのに。」

維心は、ため息をついた。

「あれには我の心地など分からぬだろうの。とはいえ、一応場は収まった。」と、維月を見た。「して?主は何を話して来たのだ。」

維月は頷いた。

「取り留めのないことですわ。子育てのことなど話しておりました。そこで、茉希様が皇女の茉奈殿の事を話しておって…とても活発なかたであられるようで。」

維心は、観が言っていた事を思い出しながら頷いた。

「観が言うておったわ。立ち合いをしておると?」

維月は答えた。

「はい。聞いておりましたらそのような女神は少ないながらも神世には居るようですわ。私も維心様に許された時に訓練場に立つのだと話すと、茉希様は大変に嬉しそうにしておりました。まだまだ神世では、女が刀を握る事に否定的な意見が多いようで、肩身の狭い思いをなさってきたようですわね。」

維心は、寝台の天蓋を見つめながら、答えた。

「確かにそうであろうな。我は、何事も優れておるのは良い事だと思うておるのでそんな女神が居っても良いという考えであるが、王の中には眉をひそめる者も多い。肩身は狭かろうの。」

維月は、今だ、と維心に言った。

「私も刀を握る手前、不憫に思いましてございますの。少しはそのような女神にも、日の当たる場所を与えてはどうかと思いましてございます。」

維心は、考え込むような顔をした。

「そうであるな…そうなるとそれらにも、己の能力を皆に示す場を与えるのが良いかもしれぬ。この太平の世で軍神達に精進する気持ちを持たせるために開く、我が宮の立ち合いの試合のようにな。あれは男しか出れぬし、女の軍神は口惜しい気持ちでいるやもしれぬな。」

維月は、目を輝かせた。

「ならば宮で女神だけの立ち合いの試合を催してはいかがでしょうか。珍しい催しに皆も楽しみに集まりましょうし、男神達も負けてはいられぬと奮起するのでは。私が開けば、神世も否定的な意見は出せぬかと。」

維心は天井を見つめてじっと考えていたが、ひとつ、頷いた。

「…そうであるな。最近は退屈な催しが多かったし、たまにはそういうものも良いかもしれぬ。他の宮の王も、己の面子が掛かっておるから女の軍神を育てようと力を入れるだろうし、そうなると男神達もうかうかしてはいられぬ。全体のレベルを上げるのに良いやもしれぬ。一度、試してみるが良い。」

維月は、パアッと明るい顔をして、維心に抱きついた。

「はい!楽しみですこと!ありがとうございます、維心様!」

維心は維月を抱きしめ返して苦笑した。

「ほんに主の思うつぼであるな。最初からそれが言いたかったのであろう?まあ良い、主の言うは間違っておらぬし。好きにせい。」

維月は、フフと笑って維心を押すと、上になって顔を覗き込んだ。

「まあ…好きにしても良いのですの?休めなくなりまするわよ?」

維心は、慌てたような顔をした。

「維月、アレはここではならぬぞ。隣に筒抜けであるし我もどこまで声を抑えられるか…」

維月は、今着せたばかりの維心の襦袢の腰ひもを勢い良く引いて解いた。

「場所など関係ありませぬ。さあ維心様…どこまでお声を我慢出来ますかしら。」

目が、うっすらと赤み掛かっている。

維月を喜ばせる場所を間違えた…。

維心は、その夜覚悟したのだった。


次の日、気だるい体で起き上がり、脇を見ると維月はまだ、よく眠っていた。

維心は、昨日の露天風呂のことを思い出し、維月を起こさないように起き出すと、侍女に指示して朝から入れるように取り計らうように伝えさせた。

少し外の様子をと一歩部屋から足を外へと踏み出すと、炎嘉と焔が、明らかに寝不足の顔で隣りの部屋から出て来ているところだった。

「…なんだ主ら。まさか一晩中飲んでおったのか?」

焔が、眉を寄せたままこちらを見て言った。

「飲んでおったわ。主な、客間は隣り合わせておって壁もそう厚くないのに一晩中何をしておったのよ。主が叫び声を上げるなど聞いたことも無いゆえ、我ら驚いてしばらく様子を伺ったわ。主の妃は王を襲うのか。」

維心は、やはり聞こえていたかとバツの悪い顔をしたが、仕方なく答えた。

「うるさいわ。維月は普通の女とは違うのだ。陰の月だと知っておるだろうが。あれがそっちのスイッチが入ると我とて堪え切れぬほど攻めて来るのだ。昨日は他神の宮でマズいと思うたが、もうこっちの言い分など耳に入らぬ状態で。」

焔は、むっつりとした顔をして、拗ねたように言った。

「…違う。別に苦情というより羨ましいのだ。そんな女は滅多に見ぬし、我だって長く生きた前世でも見たことがないゆえ。珍しい女を娶りおって。どこかに居らぬかの、誠に。」

炎嘉は、そんな焔を苦笑したまま黙って見ていた。炎嘉自身がそんな状態の維月を知っているのかは分からない。しかし、話の感じでは知らないような気がした。

その炎嘉は、言った。

「さあ、もう帰って寝ると言うておったであろうが、焔。我も戻って休みたい。他の宮の夫婦関係など良いではないか。もう疲れたわ。」

焔は、疲れ切った様子で力なく頷いた。

「そうであるの。我も疲れたわ。だが、昨日散々話し合って軍の編成の形が出来たのは良かったと思うておる。」と、維心を見た。「ではの、維心。主にもまた軍のことで意見を聞きに参るわ。」

維心は、頷いた。

「いつなり参るが良い。」

そうして、炎嘉と焔はそこを離れて出発口へと向かった。

それを見送った維心は、まだ眠っている維月のもとへと部屋へと引き返したのだった。

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