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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
王達の恋愛事情
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連動3

炎耀、箔炎、志夕が回廊を急いでいると、そこに義心が降り立った。どうやら高い宮の回廊の上を飛んで、辺りを巡回していたらしい。

炎耀は、渡りに船と急いで義心に歩み寄った。

「義心!良かった、主を探しておったのだ。白蘭殿を見なかったか。」

義心は、頷いた。

「それをお知らせしなければと思いまして参りました。先ほど、あちらの回廊で行き会い、兄君とはぐれられたとおっしゃって。我に案内を申しつけられましたが、任務の途中でありましたので、侍女に出発口まで送らせました。案じておられてはと思い、急ぎご連絡まで。」

志夕が、ホッとした顔をする。しかし、箔炎も炎耀も、やはり義心に会うために出て行ったのかと憤っていた。

「迷惑を掛けてしもうたの。ならば良いのだ。我らももう、宮を発つ。」と、志夕は箔炎を見た。「参ろうぞ、箔炎。炎耀は、炎嘉殿をお待ちするのであろう?」

炎耀は、イライラとしてくる気持ちを何とか抑え、頷いた。

「ああ、待たねばな。これからは気を付けて見ておれよ。ではな。」

炎耀は、志夕の返答も待たずにサッと身を翻して控えの間の方へと大股に帰って行った。志夕は、自分の事ではなかったが、こんなことで恥ずかしい思いをしなければならない事に、父王を恨んだ。父王は、知っていたはずなのだ。白蘭がこんな風で、侍女すら連れて来させなければ、どんなことになるのかを。

しかし、父も早く白蘭をどこかへ縁付けて、厄介払いしたかったのかもしれぬ。

志夕はそんなことを考えながらも、気遣うように肩に手を置く箔炎に頷きかけて、そうして、二人で出発口へと急いだのだった。

義心はそれを見送って、これは白虎の中で揉めねばいいが、と思っていた。


「炎嘉!」維心は、倒れた炎嘉に駆け寄って顔を覗き込んだ。「…息はある。痛みで気を失ったか。」

十六夜が、ハッと我に返ったように目を開いた。そして、翳していた手を下ろすと目の前の惨状に目を丸くした。

龍の宮の奥宮に使われている石は、特別に硬いものを選んだ安定したもので、さすがにそれは焦げ跡がついている程度だったが、辺りの調度は粉砕されている物もあり、仕切り布などが切り裂かれたようになってぶら下がっていた。

目の前では、炎月が青い顔をしてぐったりしている。炎嘉も、その近くに突っ伏して倒れていた。

維心が、目を開いた十六夜に矢継ぎ早に言った。

「炎月が暴れ出して炎嘉が抑え、痛みを半分肩代わりしておったと。維月は碧黎が見ておるので、我はこちらの騒ぎを何とかしようと、暴れる炎月の気弾を打ち落としておったのだ。それが突然に、こうして。」

十六夜は、立ち上がった。

「陰の月が抵抗してなかなか消せなかったんでぇ。陰は守りに特化してるから丸く玉みたいになられたら、なかなか貫けねぇ。もっと容赦なくやらなきゃダメだって、親父が言って来て、それで思い切り…」十六夜は、そこまで言って奥の扉を見た。「そうだ親父!維月はどうなった?!」

維心は、歩き出しながら言った。

「それが維月はこんなに暴れてはいなかった。ただじっと寝ておるだけで、表情も険しくない。だから我だって碧黎に任せてここへ出て来れたのよ。大して影響は無かったようよ。」

十六夜は、維心について歩きながら首を振った。

「違う。親父が全部肩代わりしてたから維月は痛みを感じなかったんでぇ!身を焼かれるって言ってたぞ。あの親父が、物凄い苦し気に…」

「十六夜!維心様!早う!」

維月の声が、悲鳴のように叫んだ。二人が慌てて足を速めると、維月が涙を流しながら、寝台の上に倒れている碧黎の頬に触れていた。

「お父様が…!炎月の中の陰の月が消滅したのを感じた瞬間、お倒れになられたのですわ!私の…私の痛みを全て受けておられたから…!」

維月は、碧黎の人型の胸の上に顔を伏せた。碧黎は、じっと目を閉じているが、ピクリとも動かない。十六夜が、そんな維月の背を撫でてから、碧黎の額に手を置いて、目を閉じた。

…気を失っている。

十六夜は、目を開いた。この父にこれほどのショックを与える痛みだったとは。

「…親父は気を失ってるだけだ。命に別状はねぇ。心配すんな。」

しかし、維月は目を真っ赤にして言った。

「お父様が気を失うなんて…!殺される痛みを受ける事など、本来お父様ならあるはずの無い事であるのに、私のせいで…!」

確かに碧黎なら、痛みなど受ける事はあり得ないだろう。その命に傷をつけることが出来るものは、誰も居ないからだ。

それだからこそ、痛みに慣れないので余計に衝撃が強かったのかもしれない。

そう思うと、維月は居た堪れなかった。本当なら自分が受けるはずだった痛みを、全て肩代わりしたからこうなったのだ。ほんの半分でも良かったはずだった。それを…。

「ああお父様…。」

維心は、ため息をついて維月の肩を抱いた。

「炎嘉も、外で炎月の痛みを半分引き受けて居ったから、気を失っておる。十六夜の光に焼かれた陰の月の痛みを、感じ取ったという事であるな。とにかくは、客間に移して治癒の者に診させようと思っておるが、碧黎はどうする?居間の惨状の事もあるゆえ、我らもしばし部屋を移さねばならぬしな。」

十六夜が、言った。

「この宮のオレの部屋へ連れてくよ。ショックは強いが命に別状はねぇ。維月さえ無事なら、親父だって満足だろうし心配すんな。また気が付いたら知らせるよ。」

「私も一緒に」維月は、十六夜の腕を握った。「お父様は私を助けようとこうなられたのよ。私も一緒に行く。お目覚めになる時お傍にいなければ。」

十六夜は、維月の頭を撫でた。

「お前、痛みは無かったが衝撃はあっただろう。伝わってるはずだから命に影響してるはずだ。人型だって不安定じゃねぇのか。」

維心も、言った。

「そうだ維月。主はここで寝ておった方が良い。先ほどから所々薄れたり目が赤くなったり戻ったりしておるぞ。碧黎が気を失うほどの衝撃を命に受けたのだからの。」

それでも、維月は聞かなかった。

「お願いですわ、維心様!父の傍に居りたいのです。どうか、十六夜と共に父の傍につくことをお許しくださいませ。」

維心と十六夜は、顔を見合わせた。こうなると、維月は聞かない。駄目だと言っても、勝手に抜け出して同じ宮の中なのだから十六夜の部屋へと行くだろう。

「…分かった。ならば参るが良い。しかし、無理せぬように。」と十六夜を見た。「頼んだぞ。」

十六夜は、頷いた。

「任せとけ。お前は炎嘉と炎月の様子をまた知らせてくれ。命の一部を失ったんだからよ…炎月だって相当ショックを受けてるはずだ。炎嘉はその痛みを半分肩代わりしたからそっちも精神的にダメージ受けてるだろう。龍の治癒の神は優秀だから大丈夫だろうとは思うが、オレが消した手前、気になって仕方ねぇんだ。」

維心は、十六夜が、仕方がないとはいえ陰の月を消した事実に良心の呵責を感じているのだと知った。抵抗する陰の月を、手にかけたのは十六夜なのだ。

「分かっておる。案じるでない、我は主に感謝しておる。これで、維月も他に煩わされる事無く、己の事だけ考えて行けるだろう。皆で決めた事だ。主だけの責任ではないゆえな。後は我に任せよ。」

十六夜は、苦笑した。維心は、いつも相手を安心させようとするとき、自分に任せろと言う。十六夜が陰の月を消したことに参っているのを、感じ取ったのだろう。

なので、維心に笑いかけた。

「まぁたお前は任せろってよー。オレだって手伝いてぇからこうしてここに居るんだ。全部背負わなくていいんだっての。」

維心は、驚いたような顔をしたが、十六夜に笑い返し、そうして、十六夜は維月を抱き上げ、碧黎を侍従達に運ばせて、そこを出て行ったのだった。

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