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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
王達の恋愛事情
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連動2

小さな玉のような塊になってしまった炎月の中の陰の月に、十六夜は手こずっていた。

あっさり消せるはずだった。それが、そうなってしまうと守りに強い陰の月相手には、かなり難しい戦いになった。

十六夜がそれでも力を向けていると、碧黎の声が聴こえて来た。

《主の中にあれを不憫に思う気持ちがあるからぞ。》碧黎の声は、何やら緊張しているようだった。《誠心から消そうとせねば、軽い気持ちでは陰の月は消せぬ。そのままでは相手をいたずらに苦しめるばかり…身を焼く痛みに耐え続けておるのだぞ。消さねばならぬなら、覚悟を持たぬか。》

歯を食いしばっているような、絞り出すような声だ。

十六夜は、答えた。

《親父、どうしたんでぇ。維月は無事か?まさか親父にまで影響してるのか?》

碧黎は、それでも苦しげに答えた。

《我は地。月で何が起ころうと影響などないわ。維月は無事。だが急ぐのだ。維月の心がこれに耐えられるとは思えぬ。生きながら業火に焼かれる事を考えてみよ。現実の炎月はのたうち回り、炎嘉が必死に押さえて己にいくらかその痛みを逃してなんとか保っておるのだぞ。命は無事でも、炎月の心が死ぬ。早う始末せよ。出来ぬなら今すぐやめよ。》

そういう碧黎自身の、声は苦痛に歪んだ。十六夜は、ハッとした。もしかして、親父は維月の痛みを自分で引き受けてるのか。

《…終わらせる!もうちょっと耐えてくれ!》

十六夜は、迷いを捨てて力を放った。

皆が苦しんでいる…自分の力のせいで。

その瞬間、炎月の玉は粉々に砕け散った。

砕け散った欠片など、十六夜の浄化の光の前にはひとたまりもない。

《ああああ…!》

小さな叫びを残して、陰の月は十六夜の光の前に消えて行った。


炎嘉は、暴れ始めた炎月を必死に押さえていた。触れた手から伝わる信じられないような苦痛に、その精神に分け入って行って、いくらか自分に引き受けて炎月を守った。

闇雲に放たれる気の弾は、外の様子に気付いて奥から飛び出して来た維心が撃ち落とし、回りに波及するのを防いだ。

じっと目を閉じて手を翳す十六夜は、そんな外の様子には気付かぬ様子でただ、眉間に皺を寄せて力を放ち続けている。

早う…!早うせねば我とてもう長くは…!

炎嘉がそう思った瞬間、十六夜の顔は一層険しくなり、力の出力が一気に上がった。

その途端、身を引き裂くような痛みと共に、スッと苦痛が途切れた。

…終わった…か。

炎嘉は、その場に気を失って突っ伏した。


義心は、次々に己の宮へと帰って行く者たちの監視を部下に任せて、全体を見張っていた。

今朝は、維心が忙しいのは知っている。炎嘉が来て、奥へと炎月を連れて行った。ということは、昨日話していた、炎月の中の陰の月を消すという、作業をしているはずだった。そういう時は、維心が見て居られない分、自分が現場に立つのではなく、全体を見張っていなければならない。

外宮から出発口へと向かう神の流れが少なくなりつつあるのを見回りながら、義心がそこを歩いていると、ふと、背後から声がした。

「…義心様。」

義心は、侍女が何か伝えに来たのかと振り返る。

すると、そこには意に反して白蘭が、たった一人で立っていた。

急いで回りを見回したが、箔炎も志夕も見当たらない。

まだ客が残っているのに、このような場でたった一人で居るとは。

義心は思いながら、言った。

「白蘭様。兄君はどちらに?まだこのように宮の中は騒がしい状態でありまする。お一人で歩かれては、いくら我が王の結界内とはいえ危険でありまするから。兄君のお傍に戻られた方が良い。」

しかし、白蘭は困ったように首をかしげると、扇を少し降ろして言った。

「はぐれてしまいまして。このように広い宮の中、今兄がどちらに居るのか分からぬのです。偶然にも義心様をお見掛けし、安堵しました次第ですわ。どうか、我を出発口までお連れ頂けませんでしょうか。」

白蘭は、スッと手を差し出した。連れて行けということだろう。

だが、志夕や箔炎も、宮の中を歩くなら手を取っているはずで、途中ではぐれるなどあり得ない。どう考えても、白蘭が勝手に出て来たと思う方が自然だ。

義心は、昨夜の宴の様子の事を思い出し、やはり白蘭は面倒な性質の皇女であるようだ、と思い、その手を取らずに会釈した。

「それはお困りでありましょう。我は任務の途中でありますので、では侍女に。」と、侍女達が行き来する、仕切り布の向こうへと声を掛けた。「誰かある。」

すると、すぐに二人の侍女が、脇から出て来て義心に頭を下げた。

「はい、義心様。お呼びでしょうか。」

義心は、頷いて言った。

「白虎の宮、皇女の白蘭様を、出発口までご案内せよ。そちらで兄君の志夕様に引き渡すように。」

二人は、頭を上げてから、また下げた。

「はい。仰せの通りに。」

そうして、スッと白蘭に歩み寄ると、一人は背後に、一人は斜め前に立ち、白蘭に頭を下げて言った。

「こちらへどうぞ、白蘭様。」

白蘭は、ためらうように義心を見た。

「義心様、あの、我は…」

しかし、義心は白蘭に軽く頭を下げた。

「では、我はこれにて。」

そして、サッとその場を去って行った。白蘭が茫然とそれを見送っていると、侍女が品よく、しかし急いでせっついた。

「白蘭様、兄君がご心配あそばされますわ。さあ、こちらへ。」

そして、二人の侍女に引きずられるように、白蘭は出発口へと連れて行かれたのだった。


志夕は、目が覚めて出発の準備をしている間に、白蘭が居なくなっているのに気がついていた。

箔炎の部屋へと急いで向かったが、そこにもいない。

もしかして、昨夜の間に何か…?しかし、侍女達が先ほど白蘭様のお仕度が整いましたと言って来ていた。ということは、着付けが終わった後、勝手に出て行ったのだ。

もしかして、炎月の所か。

急いでそちらへと向かうと、そこには炎耀だけが着物を着ていつでも出発できるような状態で、座って庭を眺めていた。

「…主だけか。炎月は?」

箔炎が聞くと、炎耀は答えた。

「王が参られて。今、奥へ龍王と話しに炎月を連れて参っておるのだ。どうしたのだ、帰る前に挨拶でもと寄ってくれたのか?」

箔炎は、首を振った。

「いや、志夕が白蘭殿が居らぬと申して。恐らくは勝手に宮の中を歩いて行ったのだと思うのだが…てっきりここへ来ておるものと。知り合いなど居らぬし、来るならここしかないと思うたのだ。」

炎耀は、怪訝な顔をした。

「誰も来ぬぞ。どういう事なのだ、志夕殿。白蘭殿はこの二日で、一人で歩き回るのは危険だと学んだはずであろう。まだ客も残っておる宮の中、何かあったらどうするのだ。それとも、何かあった方が良いとあれは思うておるという事か?」

暗に白蘭は軽い女なのかと蔑む言い方だ。箔炎は何か言おうとしたが、もっともだと思ったのか黙り込む。志夕は、眉を寄せていたが、炎耀が厳しい顔をしているので、仕方なく息をついた。

「…我ら、あまり良い育ちではないのだ。前にも申したが、宮へ来たのはここ数十年の事。我なりに、あのような環境でも学ぼうとはしておった。我らが居た辺りは、略奪などは無かったが、その代わりに遊び()は居った…我らの母は、そのような女で。女というのは弱い。だからこそ、男に守らせるより無いし、あのような環境では、それを悪いことだとは思わずに、強い男を探してすり寄るような性質に育ってしまうのだ。それが身を守る術だからだ。妹は父に似てそれは美しい容姿で、あの辺りの男などひとたまりも無かったわ。思いのままの生活をしておった。だが、突然に宮へと召され、皇女だと言われ、厳しい監督のもとに置かれて、それでもあれなりに努めておったと我には見えた。元の生活に戻りたそうな顔はしておったのだ…しかし、父がそれを許さなかった。恥を外へ晒すぐらいなら、その手で始末するとまで言っていらした。妹は、殺されるとまでは思っていなかっただろうが、しかし父王の威圧に負けて、これまで奥でおとなしゅうしておったのだ。主らが危ないと申しても我がいまいち鈍かったのも、そういう妹を見ておったからぞ。あれはの、男というものを知っておる。下々の男なら、簡単に言いなりに出来ような。父が恥と隠すことであるし、我は申さなんだが…しかし、主らにも迷惑を掛けるとあっては、言わずにおれぬ。すまぬが、あれを探すのを手伝ってくれぬか。」

炎耀は、立ち上がった。

「ならば放って置くことは出来ぬの。しかし白蘭に惑わされるような男は、此度ここへ来ておる中では少ないやもしれぬぞ。それなりの手練れでなければこれには出れぬ。今聞いておると、厄介な性質を抱えておるようではないか。ならば普通なら、少し話せば気取るもの。温室育ちの炎月のような、まだ幼い皇子なら別であるが。」

志夕は、長い溜息をついた。

「分かっておる。だが、こちらから言い寄って恥を晒して辺りを歩いておるのかと思うと居たたまれぬのだ。だが…そういえば、あれは一昨日の肩慣らしの時に義心を見てから、何やらあれのことばかりを話しておったな。もしかして…。」

箔炎が、頷いた。

「宴の席でも話しかけておったの。さすがの我も、あれには眉をひそめたゆえ覚えておる。義心を探して出て参ったのやもの。」

「参ろう。」

炎耀は二人に頷きかけて、そうして三人は、控えの間を出て義心を探してフラフラしているであろう、白蘭を探しながら早足に歩き出した。

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