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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
王達の恋愛事情
123/198

連動

維心が奥の間へと急ぐと、その後ろを碧黎もついて来た。

本当はここには決められた者以外は入れないのだが、この命たちはそんなことはお構いなしなので維心ももはや何も言わなくなっていた。

維月が、寝台の上に座って、二人が入って来るのを見た。

「維心様、お父様…十六夜は、始めておりますか?」

碧黎が、首を振った。

「もう始める。ゆえ、参ったのだ。何か、感じぬか?」

維月は、じっと耳を澄ませるような顔をした。

「いえ…今はまだ遮断したままですので、月に直接には伝わらぬのですわ。でも、命としては分けたものですから、あの子の動きは分かります。とても、不安に思っておりましたが、今は気を失っておる状態ですわ。」

維心は、維月をそっと寝かせると、その手を握った。

「無理をしてはならぬ。とにかくは、横になっておれ。」

そう言った途端、維月がビクリと体を硬くした。維心は、握っていた手に力を込めた。

「…始まったか。」

維月は、きつく目を閉じてただ、頷く。碧黎が、側に寄って来て維月の枕元側の方へと座った。

「遮断していてこの衝撃ぞ。維月は今、身に鉛の玉を受けたような衝撃を感じた。小さなものだが、威力は大きい。陽の月が身を割って削り取ろうとしているような感覚であろう。」

維心は、気遣わし気に維月の顔を見つめた。

「よう遮断しておったことよ。それでもそのような苦痛を味わわねばならぬとは。ほんになぜに我は、あれを腹に居る間に殺さなんだか…。」

碧黎は、維心を見た。

「今さらであるぞ、維心。生じた命を消すのはその命の責務も負うのだと前に教えたではないか。今生、早う解放されたくばあまりいろいろ背負い込むでないわ。炎月は鳥として、やらねばならぬことがある。月の力などに惑わされて世を乱すことに利用されておる場合ではないのだ。これは必要なこと。維月が命を落とすことはないゆえに。我が居って、これを消させたりはせぬわ。」

碧黎は、言って維月の額に手を置いた。そして、その置いた手から何かを探るように目を閉じ、何かを見ているようだ。

維心は、碧黎と言う存在が、頼もしいのか面倒なのか、分からずでいた。維月を守ってくれるのは助かる。だが、その維月を取られるような気がしてならないのは、自分の妬みでしかないのだろうか。それとも、何かを気取って危機を感じているのだろうか…。

しかし、今この時は、碧黎が額に手を置いた途端に、維月の眉間の皺が緩んで、苦痛が軽減されているのを見て、ホッとしていた。

しかし、維心は知らなかったが、その時碧黎は、維月の代わりにその苦痛を、その身に受けていたのだ。


十六夜は、炎月の中の陰の月と対峙していた。

それは、陰の月の気配ではあったが、間違いなく形は炎月の形をしていた。その陰の月は、十六夜を睨んで、言った。

『我を消しに来たのか。主に比べて、このように僅かな力しかない我を。存在しているだけで不安だからと?』

十六夜は、その炎月を見て、顔をしかめた。

『そうだな、不安だからだな。僅かな力たってお前、維月の力を思い切り引き出しやがったじゃねぇか。あれで何人が怪我したと思ってる。オレが抑えたからあれで済んだが、ほっといたら物凄い人数が死んでたぞ。そういう、軽く見てる所が駄目だってんだよ。』と、指を立てた。『そもそも、お前みたいに維月から分割された命ってのは、幾つあると思ってる。前世から、維月の子は維心がめちゃくちゃ作りやがったからめっちゃ居るんだぞ。だが、みんなお前みたいなことにはなってない。全員が、その危険性を幼い頃から知っていて、コントロールし、僅かでも使わないからだ。なのにお前だけが問題になっている。なぜだ?』

相手は、十六夜を睨んで答えた。

『使えるものは何でも使うべきではないのか。我を生み出した者が悪いのだ。持っている力を眠らせておくのはもったいないと思うもの。間違っておらぬではないか。』

十六夜は、呆れたように首を何度も振ってから、手を前へ上げた。

『さよならだ。オレは陽の月本体。一瞬だ。苦しまねぇよ。』

炎月は、必死に言った。

『待ってくれ!我だって…我だって生きる権利があるはずぞ…!ああああああ!!』

十六夜の光は、その炎月の人型を取っている陰の月を覆って消し去ろうと襲い掛かった。

『く…っ!抵抗するな、時間が掛かるから苦しむ時間が長くなる!オレには絶対勝てねぇよ!』

十六夜が言う。しかし、炎月の陰の月は必死に抵抗していた。十六夜の力には絶対に勝てない小さな陰の月の力で、十六夜を阻止しようと自分の殻を作って必死にこもっていた。

…くそ、長くなれば、苦痛も長引いて維月への衝撃も…!

十六夜は、思いながら力の出力を上げた。


その頃、白虎の宮では志心が自分の筆頭軍神である、夕凪(ゆうなぎ)の報告を聞いていた。

「…気取られたか。」

志心が言うと、夕凪は、頭を下げた。

「は…恐らくは、龍王が。」

志心は、ふうとため息をついた。宮の中でも庶出の皇女と言われて、侍女達が呆れていたのを知っていた。白蘭は、名は優雅だが、その実、内は行きずりの、着物や宝玉などと引き換えに、体を提供する女の子どもであったのだ。

志心は、その当時そういうことに自暴自棄になっていた。本来なら、相手にしないような女や男も、あちこちで相手をしては、その虚しさに引きこもるような、そんな生活をしていたのだ。

それでも、会合などではそんなことはおくびにも出さず、品の良い王を演じ続けていた。

そんな時に出来た子供だったので、本当に自分の子なのかと、最初は怪訝に思っていた。しかし、宮へと召して気を見てみると、間違いのない自分の血筋、直径の子であることが分かった。

急いで迎え取り、皇子の方は勤勉で真面目な性格で、とりあえず外に出すにも面倒のない様にはなったものの、皇女の方は、母親に似たのか少し、男に懸想しやすい女神に育ってしまっていた。

志心に似た見た目で相当に美しく、幼い頃から男には不自由しなかったらしい。とはいえ、急いで迎え取った時にはまだ60年ほどで、決まって通わせる男も居なかったし、そこら一帯に箝口令を敷いたので、志心の恐ろしさを知っている白虎たちは、決してそれを口にすることは無かった。

もうかなり育っていたが、乳母をつけ、侍女達にもかなり厳しく躾させた。

だが、それでも身に着いたものはなかなかに直らなかった。どうしたものかと思っている時、夕凪が、炎嘉のことを調べて来た。

そう、月と炎嘉の面倒な関係のことだ。

炎月のことで、恐らくはそうではないかと思っていたが、詳しく調べてみると、やはり炎月は維月の息子、つまり、炎嘉と維月の間に生まれたのが、炎月だということが判明したのだ。

そして、維心の子達とは違い、鳥である炎嘉と月の間の子である炎月には、うまく陰の月をコントロールすることが出来ていないことも分かった。

炎月が、陰の月の力を使うと、維月も連動して暴走し、そうして龍の宮も被害を被り、維心は大層に困っているようで、炎嘉もそのことで維心に強く言えなくなっているようだとのこと。

…これは、あれらをかき乱すには絶好の機やもしれぬ。

志心は、そう思った。

本当は、もう体の交わりが出来る出来ないなど、どうでも良かった。ただ、老いも来ず長くこの世に縛り付けられている、意味も分からず虚しくて、それを忘れる術を探して、一瞬でも我を忘れる事が出来るあの行為に走っていただけだったのだ。

炎嘉に固執したのも、久方ぶりに慕わしいと幸福に感じる瞬間を味わえたからだった。炎嘉という命は真っ直ぐで、優秀で美しい。それに受け入れられる幸福に、酔っていたに過ぎなかった。

そういうことを取り上げられたこの10年、志心は別に月を恨んではいなかった。確かに炎嘉を無理に相手にするのは良くなかった。あの時はつい意地になったが、本来志心は、そんなことをする性質ではなかったのだ。

しかし、それを当然と世に君臨している維心は、おもしろくなかった。前世から維月を側に置き、何もかもを手にして己が世を謳歌している。今生はそう苦労も無く、楽に生きているのが気に入らなかった。

…少しは緊張感を持つが良い。

志心は、そう思って軽い気持ちで白蘭を、分かっていて龍の宮へとやった。

炎月も来るのだという。白蘭もだが白虎は、皆白い髪を持つ者が多く昔から鳥に大層気に入られた。

恐らく見過ごすことなど出来ぬだろう。

もちろん、何も無いならそれでも良かった。ただ、どんなものかと様子を見るためにしたことだったのだ。

志心は、言った。

「…まあ、あちらも何も言えまいよ。勝手に懸想したのはあちらだ。それでどうなってどうしようとしておるのか知らぬが、我にはいくらでも言い訳はある。どう収めるのか高みの見物と行こうではないか。引き続き見張っておれ。」

夕凪は、頭を下げた。

「は!」

そうして、そこを出て行った。

遠く、月の気が激しく乱れているのを感じる。

志心は、空を見上げて頬を弛めた。どうせ死ぬことなどない命。精々気張るが良いわ。

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