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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
王達の恋愛事情
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十六夜が月の宮へと帰ると、維月が部屋の窓際に座って、空を見上げてむっつりと険しい顔をしていた。十六夜は、苦笑して維月に歩み寄った。

「で?どうだ、やったのか?」

維月は、不貞腐れたような顔で頷いた。

「ええ。あなたが着いて気で掴んですぐにね。力を使ってみて思ったんだけど、抑える方の力はいくら使っても大丈夫みたいね。性欲を煽る方に使うと面倒な事になるみたい。どっちにしても、十六夜の力の玉があるから、あなたがすぐに抑えてくれるからおかしなことにはならないと思うけど。」

十六夜は、維月の肩を抱いて、頷いた。

「良かったじゃねぇか。でもよ、志心ってあんな感じじゃなかったのに、どうしたんだろうな?あいつなりに、炎嘉には本気だったって事だと思うと、ちょっと気の毒な気がするけど。」

維月は、十六夜を睨んだ。

「それでも、あれでは気持ちの押し付けでしかないじゃない。炎嘉様は同情でずっと相手してらしたんでしょう?やっぱりお互いに同意してしたくてしてるならいいけど、断ってるのに無理やりにってそれは間違いだと思うわ。そういう強引さって、私ちょっと苦手なの。というか、嫌い。」

十六夜は、苦笑した。陰の月と維月では、ほんとに考え方が違うからなあ。

「…やっぱりお前はお前だな。で、これでお前が不能にした神って何人だ?人も入れたら結構な数だよなあ。」

維月は、ぷいと横を向いた。

「知らない。いちいち覚えてないもの。人なんて気が付いたら寿命終わってて死んでるし。嫌がる人に無理に襲い掛かる人とか、節操無い人とか、全部不能にしてやったもの。目についた人だけだから、見えてない人が好き勝手してると思うと腹が立つわ。ただ、維心様に願いに来た改心した神とか人だけは、戻してあげたけど。」

十六夜は、今頃志心はどうしているのかと月から見ていたが、月などに左右されぬと自信満々で居たようだったが、やはりできなくなっていたようで、失意の中鳥の宮を飛び立って行くのが見えた。

…やりたいのに出来ないって、つらいよなあ…。そういう欲求が無いならいいけどさ。

十六夜は、そう思いながら、維月を見た。維月の力は、やる気をなくすことは出来ないようで、体に影響を与えるだけになるのだが、それがまた残酷なのだ。

十六夜は、言った。

「いくらお前でも、やる気をなくすのは無理だもんなあ。むしろ、それはオレの力だし。浄化したら聖人みたいになるんだけどよ。いっそ欲求自体を無くしてやろうかなって思う時もある。」

維月は、それに意外そうに十六夜を見た。

「あら?それなら罰にならないじゃないの。どちらかというと、私は気持ちの方を操る方が得意よ。体だけの方が難しいの。気持ちを強く持てば、体も反応するじゃない。それをしないようにするんだもの、結構技が要るの。できるようになった時は、やった!と思ったわ。」

十六夜は、びっくりして維月を見た。

「え、お前あれを意識してやってたのか。」

維月は、頷いた。

「そうよ。罰だって言ったでしょ?そういう方面で悪い心根の奴は、そういう能力を取り上げる事で罰を与えるのよ。欲はそのままなのに、出来ないってどんな気持ちかしらって思うと、ざまあみろと思うわ。」

暗い笑いを浮かべる維月に、十六夜は身震いした。こういう黒い所も、今生生まれながらの陰の月として育った維月に、時々見られる様子だった。つくづく、維月を怒らせると恐ろしい…。

十六夜は、心底そう思っていた。


炎嘉は、次の日の朝早く、龍の宮へと降り立った。

まだ日が昇って来たばかりだったが、維心が維月が居ない時に、日の出と共に起きているのは知っている。

慌てて寝ぐせのまま出て来た兆加に、勝手に行く、と手で示してから、炎嘉は奥へと急いで歩いた。

そもそも、結界を通してくれた時点で、維心には炎嘉が来ていることは筒抜けだったからだ。

「維心!」

居間へと飛び込んだ炎嘉に、維心がぶすっとした顔で見返して言った。

「何ぞ。早いわ、常ならまだ寝台に横になっておる時刻であるぞ。」

「維月が居らぬから出ておると思うておった。」と、炎嘉は、言われないのに維心の前の椅子へと座った。そして、矢継ぎ早に言った。「昨日、あれから十六夜に頼んでの。そしたら、折よく志心が来ると言うて来て、待っておったら焔が来た。そして、志心は帰ったのだが、焔が帰ってからまた志心が来て、十六夜を呼んで、収まった。」

維心は、ぽかんとした顔をした。何の話ぞ。

「…主な、端折り過ぎぞ。何を言うておるのか分からぬわ。焔がなぜに出て参る?」

炎嘉は、焦り過ぎた、と言い直した。

「焔はの、会合の時に我の所へ忍ぶ志心を見て、やばいと思うたらしくて志心が来るのを気取って邪魔をしに来てくれたのだ。志心は、焔が共に語ろうと言っても断って、一回は帰った。なのに、焔が深夜に帰ったら、またその後忍んできおったのだ。だが、我ははっきりと断ったぞ?なのに…あやつ、我が主を想うておるとか勘違いして激高しおってからに。」

維心は、それには思い切り眉を寄せた。

「なぜに我よ。前世から長く共であるからか。」

炎嘉は頷いた。

「我はの、主とはそういう仲ではないと申したのだ。性的な関係など無いが、命を張ってお互いを守って戦って来た仲だと。なのに、あやつはそれが思うということだとか言いおって。違うと申すに。我は両刀ではないからの。そんなものが無いからこそ良いのに。」

維心は、それには渋々同意した。確かに無いから良いのだが。

「それはそうだが、あれらどっちでもいい神からしたら、それが思うということなのだろうの。」

炎嘉は、頷いた。

「それで、我が断っておるのに激高しておるからあやつは無理に押し倒しおった。それで、十六夜を呼んだのよ。」

維心は、その光景が目に浮かぶようだった。そして、顔をしかめた。やはり、男同士の何某など見とうない。

「あれは間に合ったであろう?恐らく神世最速であろうしな。」

炎嘉は、また頷いた。

「そうなのだ。すぐに来た。あの時、あれは頼りになると本気で思うたものよ。しかし…その、陰の月の力が、性的なことを煽ることだけでなくて、抑えることも出来るのを知っておるか。」

それには、維心は両方の眉を上げた。知らなかったのだ。

「…維月は、志心の衝動を抑え込むことが出来たのか。」

炎嘉は、それには首を振った。

「いや、抑え込むのではのうて…その、維月はの、十六夜と一緒に、これまでも無理やりにそんなことをしようとしたり、したりした男に罰を与えておったのだそうだ。そら、神世でいきなりに不能になってしもうて、主に何とかしてほしいと嘆願に来る神が居るとか申しておったではないか。あの状態よ。」

維心は、それを聞いて目を見開いた。維月は…陰の月は、相手を煽るだけでなく、不能にすることも出来るのか!

「なんと…知らなんだ。あれは、そんなことをしておったのか。我は、聞いておらなんだ。では、まさか我に嘆願に来ておったのは、維月がやっておった者たちなのか。」

炎嘉は、それには困ったように首を傾げた。

「いや…全てではなかろうがな。しかし、一部はそうであろう。主に頼んだら治る王も居ったであろうが。あれは、維月が横で聞いておって、改心しておると思うてのことではないか?そうでなければ治らぬのだ。きっとそうだと我は思うた。」

維心は、そうだったのかと心の中で合う辻褄に、目の前が開かれるようだった。維月と十六夜が、月としてどんな仕事をしていて、どんな力の使い方をしているのかなど、問うことも無いし、向こうも問われないのにわざわざ言わない。維心が、いちいち自分の仕事の内容を言わないのと同じだった。

しかし…。

「…それとこれと、いったい何の関係があるのだ。昨夜は十六夜が来たのだろう?」

炎嘉は、下から見上げるような目で維心を見て、渋い顔をした。

「そうだが…これを説明してくれたのも、十六夜でな。というのも、維月も月からこちらの様子を見ていて、無理やりにやろうとした志心にとても腹を立てておったらしくて。その…罰を、執行したのだ。」

維心は、怪訝な顔をした。陰の月の力を使ったのか。

「維月は、今力を使わぬようにしておったのに。十六夜が居れば大丈夫であったということか。」

炎嘉は、それにも答えられなかったが、言った。

「十六夜の言う通りのことが起こっておったゆえ、維月は問題なく陰の月の力を使っておるようだった。何しろ、志心は…しようとしておるのに、全く身が反応せずで。十六夜の言う通り、出来ずに、そんな己に愕然として帰って行った。同じ男として、その背に少し、不憫に思うたほどよ。」

維心は、我が事のように嫌そうな顔をして言った。

「ほんにな。我はそんな事になったら狂うやもしれぬ。欲はあるのに、出来ぬということであろう?生殺しの蛇のようよ。」

炎嘉は、何度も頷いた。

「びくともせぬのだぞ?自信も無くなろう。あのような罰があるとは…自業自得とはいえ、恐ろしいと思うたわ。もう二度と、志心はああいう事が出来ぬということよ。」

維心は、思わず同情した。いくら何でも、ちょっと羽目を外したぐらいで、そんな重い罰を。

「…気の毒な。何なら我が維月に申してもう少し緩めてもらうように申そうか。だが…また主の所へ来ようの。困ったことよ。」

炎嘉は、あきらめたように息をついた。

「申し訳ないが、志心にはあのままでいてもらうしかないの。そのうちにあきらめてくれたら、維月も考え直してくれようが…今は、十六夜が言うには怒っておるようで。維月はああいう事をするやつをことのほか嫌いなようであるな。維月らしいといえばそうなのだが。」

維心は、複雑な顔をした。

「…陰の月はそうではないがな。維月自身はそうであろうの。」と、ふっと息をついた。「では、とりあえずは主は一息付けたわけであるな。やはり十六夜に相談して、志心は気の毒ではあるが、主は良かったであろう?」

それには、炎嘉はすぐに頷いた。

「我ではまた困ったことになっておった。十六夜に相談しておいて良かったのだ。まさか志心が、あのように無理に押して来るとは思わなんだし…十六夜が居らねば、また後悔しておったところよ。断っても駄目だったという絶望もあろうしな。志心は気の毒だが、我はあれで良かったと思うておる。」

維心は、チラを炎嘉を見た。

「…ということは、十六夜が去った後、あれは懲りずにまだ、断っておる主に手を出そうとしておったということよな?呆れたものよ。」

炎嘉は、それには言いたく無さそうな顔をした。しかし、維心にここまで言っておいて、今さら隠すのもなので、渋々口を開いた。

「そうなのだ。志心は…着物を脱いで我の着物も剥ごうとしたが、我は抵抗した。口づけてきおったがそれは気で跳ね返した。そういう時は、これまでならあれは余裕で出来る状態になるくせに、全くもってそういう状態にはならぬで。その後、我は絶対に否だと思うて着物の前をしっかり押さえて見ておって、その前でいろいろと試しておったが、やはり全く反応無しでな。さすがに異変に気付いて、我に、試したいから、もう何もせぬし着物を脱いでくれと言い、我は仕方なく従った。それでまた己で何とかならぬか我を見ながら試しておったが、全くもって駄目。それで、十六夜は嘘を言っていなかったとわかったのだ。それで、己の体に愕然として、失意の中で帰って行った。その背が寂し気に丸まっておって、さすがに不憫に思うたわ。」

維心は、炎嘉が語った様子がいちいち頭に浮かんで来て、嫌なものを見たようにその、美しい顔を歪めて横を向いた。

「…見ておらぬで良かったことよ。何をやっておるのだ主らは。ほんにもう、これでそういう話を聞かずで済むと思うと安堵することよ。それにしても…次の会合、志心は来ぬかもしれぬな。」

炎嘉は、それには頷いた。

「恐らくはな。相当なショックを受けておったし。蒼は関係ないが、月関係には今、会いたくなかろうよ。残酷だが、我が頼んで止めてもらったことであるし…やり方はどうであれ、文句は言えぬな。」

維心は、息をついて空を見上げた。誰がやったのか分からないまま、急に不能になったのならこの限りではないが、正面切って自分がやると言ってからやったのだから、志心の出方が気にかかる。

こんなことで神世が乱れるとかは無いとは思いたいが、しかし神の心は誰にも測れない。

維心は、また懸念材料が出来たかと、頭を押さえたのだった。

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