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続・迷ったら月に聞け11~居場所  作者:
王達の恋愛事情
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謝罪

志心が鳥の宮を訪れたのは、そんな時だった。

公式にやって来るので、こちらも公式に迎えねばならないと、炎嘉は宴の準備も滞りなく申し付けて、到着口で志心を迎えた。

志心は、侍女達がため息を付くほどに凛々しく美しい正装で鳥の宮に降り立った。白い髪に薄い青い瞳は、鳥にはない美しさだ。

その場に居た皆が見とれている中、落ち着かない気持ちで炎嘉は進み出た。

「よう来たの、志心よ。」と、隣りの炎月を見た。「炎月もこのように回復して、わざわざに来てもらわずとも良かったのに。」

志心は、首を振った。

「我の知らぬ所でとはいえ、迷惑を掛けたのだからの。定佳にも謝罪の書状は送ったが、また参るつもりでおる。だが、まずは主にとの。」

定佳が男しか相手にしないのを、志心は知っているのだろうか。

炎嘉は、ふと思った。そういう趣味を持つもの同士は、勘が働くと聞いた事はあるが、二人とも何も言わないので分からなかった。

そもそも、聞かれもしないのに言う事でもないのだ。

炎嘉は、志心を伴って炎月と共に、応接間へと足を進めた。志心の臣下達は、何やら炎嘉の臣下である開に書状やらなにやらと渡して話をしていた。恐らくは、謝罪に来たのでそのための品やら目録やらを臣下内で申し送っているのだろう。

志心は、炎嘉と共に回廊を歩きながら、懐かしそうに言った。

「復帰してから初めてこの辺りまで入ることよ。確かに前とは造りが変わったが、しかしこの宮は鳥らしい趣があるの。懐かしい。」

炎嘉は、そうだったかと、志心を見た。

「そうであったな。忙しゅうてなかなかに主を呼ぶことも出来なんだ。こちらがバタバタしておるから、個人的にあまり呼べなかったし。いつなり来てくれて良いぞ。」

志心は、いつもの穏やかな様で微笑んで頷いた。

「楽しみなことよ。」

志心はあくまで自然体だが、炎嘉は前のこともあるので、落ち着かなかった。志心のことを意識して見たこともないし、そんな対象として見たことも、これまでは無かったのだ。それなのに、あんなことがあったので、どうしても炎嘉の方は意識してしまっていた。

何しろ、炎嘉は前世今生と、友だと思っていた神とそんな仲になったことなど一度も無かったからだった。

志心はそれを横目に見て、炎嘉の様子に苦笑していたが、それでも何も言わずに、二人と炎月は応接間へと入って行った。


応接間では、書状を臣下から渡され、それには、炎嘉へ自分の眷属である白虎の一人が迷惑を掛けた事への謝罪と、謝罪の品の内容が書かれていた。

炎嘉はそれを受け取り、志心の謝罪を受け入れ、別に何もお互いに軋轢など無かったのだが、それで許して元の関係に戻るという手順を踏んだ。

その場には炎耀も臣下として同席し、宮同士の関係の修復はこうするのだということを、炎月と共に体験した。

その後は、場を大広間へと移して、両方の宮の臣下軍神が集まって、酒を酌み交わした。

いつもの会合の後の宴なら他の宮の王達も居て、維心をからかったり、焔とふざけ合ったり、蒼を困らせたりしながらあちこち話すのだが、今は志心しか居ない。

炎月も炎耀も、まだ200歳に達していないので酒を飲むことはあまりなく、二人ともこの宴の始めだけに来て、もう戻ってここには居なかった。

高座に二人にされてしまうと、志心と自分となると、話題がそう無いのだということに、炎嘉は気付いた。神世の内情など、会合の後などなら、ついそんなことにもなるのだが、あいにく今は問題もない。

宴に政務の話も無粋なのだが、それしかないので炎嘉は口を開いた。

「…定佳の宮にも行くと聞いたが、定佳とは話したことはあるのか?」

志心は、盃を下ろして、答えた。

「会合で居るのは見ておるが、直接に話したことはまだ無い。こちらの方が気がかなり大きいゆえ、話しかけてはあちらも構えようと思うてな。しかし、此度は我の眷属が迷惑を掛けておるし、放って置くわけにも行くまい。あちらは妃を殺されておるしな。」

炎嘉は、それには顔をしかめた。

「あれは、聞いておろうが我に懸想して面倒であったゆえ、一斎も困っておったし定佳に我が押し付けたのよ。その…あやつは、女に興味が無くてな。なのであの若さで翠明の皇子を跡継ぎに据えておるぐらいぞ。」

志心は、軽く片眉を上げた。

「ほう?そういえば…あやつは男ばかりを見ておるような気がしたの。あれは、気のせいではなかったのか。ならば妃の存在は鬱陶しかったであろうな。謝罪の品と書状を送るだけで良いかの…わざわざ出かけて行くのも面倒だなと思うておったのだ。あやつとは接点が無いゆえ、話題も無かろうが。」

炎嘉は、驚いた顔をした。話題も無いと。我とだって一晩中話せるほど話題など無いが。

「え、定佳はそこそこ美しい顔をしておったが。」

思わず言った炎嘉に、志心は呆れたように炎嘉を見た。

「あのな。いくら我が両刀であるからと、誰でも良いわけではないわ。臣下でもないのに戯れに手を出すわけにも行かぬし、だからと言ってそれからずっと関係を続けようと思うほど興味もない。主ら女しか相手にせぬ男は、何か勘違いしておるのだ。主らが女だからと誰彼構わず手を付けるのではないように、我らだって良い悪いがある。ちゃんと考えてそういう仲になるのだ。見た目だけで選んだりもせぬしな。好みがあるということぞ。定佳は別に、好きでも嫌いでもない。」

炎嘉は、そういうものか、と思って聞いていた。何しろ、自分は男を好きになったことが無いから分からないのだ。

「…そういうものか。よう分からぬでな。定佳がそうだと聞けば、主は特に行く気になるのかと思うておった。だが、そうではないのだな。我も目を開かれるものよ。」

志心は、目を細めて言った。

「ま、そうであろうな。だが我は好ましければどちらでも良いので、どちらかと決めておるわけではないからの。主も知っておろうが、我は前世の維月を娶りたいと思うておったし、今もあれ以上の女は居らぬと思うておるから、未だに妃として誰かを娶ろうとは思わぬ。だが、男としたら誰かというと、特に決めてはおらなんだ…この間まではの。」

炎嘉は、ギクと肩を震わせた。この間まで?

「…誰か見つかったか?」

炎嘉が、恐る恐る尋ねると、志心は、フッと笑った。

「言うたではないか。我は主を好ましく思う。七年前のあの時までは、見ておるだけで特にそうなろうなどとは思わなんだが、いざそうなってみると、主以上は居らぬでな。次は酒など飲まぬで、しっかりと記憶に留めてもらいたいと思うがの。」

炎嘉は、思わず志心から目を反らした。どうしてそうなるのだ。

「その…だから我は、そんな関係にはなるべきでないと思うておって。あの時は我もタガが外れてあんなことをしたが、今は無いと思うのだ。また主の伽の勘違いした男に恨まれて炎月をさらわれても困るし…。」

志心は、首を振った。

「七年前からはそんな男など持っておらぬよ。だからこそあれは呼ばれることが無うなって主を恨んだのであろうからな。主だって、維月を知ってから誰も娶っておらぬだろう?それと同じぞ。」

そう言われても…と炎嘉は困って下を向いた。一度自分が酔って誘ったばっかりに、志心にこんな期待をさせてしもうて。

「そうは言うてもの…。確かに我は維月以外は相手をせぬがな…。」

志心は、あくまでもがっついた感じではなく、さりげなく言った。

「維月も男同士のことならば、そう気にしておらぬようではないか。主だって妃も居らずでは持て余すのではないか?女ならば妃として娶らねばならぬようになる世の理も、男ならそんな面倒なことにならぬ。特に、我は王であるから割り切っておる。主も慰めの場があっても良いとは思う。」

炎嘉は困って、言った。

「ならな維心はどうよ?我は…あやつなら特に何の構えもなく襲えるのだが、あれだけ美しければ主だって興味があろう?我よりいくらか高貴に美しいぞ。」

志心は、苦笑して首を振った。

「維心はならぬ。もちろん、あれが良いならいくらでもふるい付きたくなるような男であるが、羽目を外すなどあり得ぬし、男女関係なく命の底から維月だけが興味の対象で、まず出来ぬわ。見たら分かる…あやつは無理に事に挑もうとしても、反応せぬと思うぞ。たまに居るのだが、本当に他に対して禁欲的なのだ。」

炎嘉は思った。やはり維心はふるい付きたくなるような男か。あやつは最強の神で命拾いしたな。

「…ならば、なぜに我よ?しかも今さら。前世から長く知っておるではないか。たった一度の事であるし、それに我の興味の対象はあくまでも女であって、男と体は合わせられても心まで動じぬしな。」

志心は、それにも丁寧に答えた。

「今も言うたように、前世から主には興味はあったが、主は男に興味もなさそうだったので、何も言わなんだだけよ。あの折主から誘われて驚いたが、我にしたら降ってわいた幸運であった。我は別に主と特別な関係になってどうこうしようと思うておらぬ。王同士であるしな。割り切って考えておる。主さえ良いなら、こういった機会などに戯れるだけで良いと我は思うておる。もちろん、この間のように気を体に残すなどせぬようにする。あの時は…我を忘れての。すまないと思うておる。」

炎嘉は、どうしたらいいのか分からずに、とにかくは目を反らして、言った。

「考えておくゆえ。すぐには答えなど出ぬから。我だって生きて来た道があって、それを簡単には変えられぬのだ。」

志心は、穏やかに微笑んだまま、頷いた。

「誰も皆そうであろう。良い、今夜は静かに酒でも飲んで、語り合おうぞ。」

志心には余裕があった。しかし、女相手なら慣れている炎嘉も、力の拮抗している男に言い寄られるなど経験もなく、どうしたらいいのか本当に困っていた。

維心をからかって遊んでいただけであったのに。

炎嘉は、密かにため息をついていた。

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