“苦肉の策の新天地④”
執務室の下層は幾つもの小部屋に分かれており、それぞれに朽ち果てた家具一式が設置されていた。
「ここ、俺たちの、自室、最適」
セスが尻尾を振って喜んでいる。
前居住区ではセスだけ犬小屋の様な寝室で、酷い扱いを受けていたからであろう。
「うむ。5部屋程あるな。快適な建築物だのぅ」
アルドラが腕を組んで感心している。
「では、更に下へ行ってみましょうか」
エヴァンスが一行を促す。
2階となるこの空間は、部屋の片隅に瓦礫が積まれ放置されている以外、何もない大広間の様だった。
何となく瓦礫に近づいたアルドラが驚く。
「なんとっ!これは…!」
手をかざし、様子を探る。
「やはりそうか…」
目を瞑りながらも何かを悟り、独り言ちる。
その場に居た全員が首をかしげていると、アルドラは静かに詠唱を始めた。
最初は内緒話の様にヒソヒソ声で。
鍵穴からピンで開錠する盗賊の様に、答えを探しながら徐々に語気を強めていく。
やがて魔力が瓦礫に注がれつつ朗々たる詠唱は完成した!
廃棄物の山は中央から輝きだし、室内を眩い光が包んだかと思うと、そこには一体のゴーレムが佇んでいた。
「ゥゴォォォ…」
「こ、これは!!、マーヴィック様も気付かなかったゴーレムの存在を感知するとは流石アルドラ様です…」
エヴァンスが感嘆の声をあげた。
「これはただのゴーレムでは無さそうだ。見ておれ」
アルドラは簡易的な古代魔法語で巨大な傀儡に命令を下す。
「我望む、書物を収納せし棚」
「ウゴォオ!」
瞬く間にゴーレムは変形し、オープンブックシェルフに姿を変えた。
「おおぉ!!」
皆驚く。
「ふむ。ではこれはどうだ………我望む、大胸筋を鍛えし負荷200の器具!」
「ウ、ウゴッ!?………ウゴゴオオオッ!」
再度ゴーレムは変形し、一瞬途中で止まった気がしたが、最終的にスミスマシンに変形した。
「おおおお!!これはイイっ!これはいいゾ!!」
アルドラは嬉々として恐らく200kgはあろう重さのバーベルを軽々と持ち上げている。
お前の頭は筋肉の事しか無いんかーーーーーい!
てか、ゴーレムお前も不可解な命令をいとも容易く完遂しちゃダメ―――!
大腿筋、広背筋、僧帽筋まで試し、ゴーレムを酷使した後、やっと満足したのか
アルドラは満面の笑みで
「よし、ここはトレーニングルームに決定だな」
と同意を求める。
「でしょうね」
全員が口を揃えて言い放った。




