“苦肉の策の新天地③”
庭にはその殆どが風化で崩れかけてはいるものの、質素なガゼボやテーブル、椅子、植物が咲き乱れていたであろう柵、巨大な水瓶など設置してあった。
入り口の両扉は錆びて重くなっていたが、アルドラが押すと難なく開いた。
明りは崩れかけている窓からの陽光のみ。
カビ臭く、埃が差し込む光に反射してキラキラと輝いている。
「先ずは上階から見ていきましょうか」
エヴァンスが明りの呪文を唱え、皆を誘導した。
「この建築物が発見されてからマーヴィック様が一度調査に来ておられるので安全面では問題ないと思います」
西側に設置された螺旋階段で最上階を目指す一行。
「どうやら、古代魔法王朝の王族が使っていた別荘みたいなもの、とマーヴィック様は判断したそうです」
エヴァンスが情報を付け足してゆく。
「ほう…興味深いな」
アルドラが螺旋階段の壁面を手でなぞりながら呟いた。
階段が途切れた。此処が最上階なのだろう。
扉を開けると執務室らしい内装に、午後の柔らかい陽射しが部屋中を照らしていた。
硝子が割れている箇所ばかりだが、窓が大きく、自然光を上手に利用したその建築設計には匠の技が感じられた。
眺めも良い。
「これはっ!なかなか良いではないか」
アルドラはえらく気に入っている様だ。
「ここに鏡を設置してやろうかな」
何だか楽しそうだ。
「では、下の階へ行きましょうか」
エヴァンスが微笑む。




