表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神さまは1500円! ~降臨サービスはガチャガチャで~  作者: 眠理葉ねむり
女神さま降臨編
1/8

【500円玉×3】



 俺がそのガチャガチャを見つけたのは、多分、奇跡的な偶然だったのだと思う。


 ガソリン代節約の為に自転車で買い出しに行ったスーパーからの帰り道、海沿いにある建物の一画に、そのガチャガチャはあった。今はもう使われていないレンガ造りの建物の前にぽつんと佇んでいるそれは、ごく一般的なガチャガチャ本体だ。夕日に照らされた白くて四角いボディにカラフルなカプセルを目一杯詰め込み、誰かに回されるその時を待ちわびている、普通のガチャガチャ本体。

 ただ、本体以外は普通とは言い難いガチャガチャだった。


「一回1500円!?」


 カプセル取り出し口の上に書かれた金額に、俺の口からは思わず大きな声が漏れる。

 ガチャガチャといえば一回100円から500円が相場だ。100円玉を入れて回すのだから、普通そうなるだろう。欲しいものが出るまで回させようと思ったら高すぎる金額設定は逆効果だ。

 しかし、このガチャガチャは一回1500円だった。あまりの金額に一瞬見間違いなのではと己の目を疑ったが、何回確認しても1500円と書いてある。しかも金額の下にはご丁寧に「500円×3」と書かれていた。どうやらこのガチャガチャは本気で1500円を搾取しようとしているらしい。

 ただ、普通のガチャガチャと違うところは、それだけに収まらなかった。――普通、ガチャガチャといえば「どういう商品が入っているか」紹介する紙がカプセル収納部に入っているものなのに、このガチャガチャには何も入っていなかったのだ。これでは何のガチャガチャなのか一切分からない。


「……上に書いてる『女神』ってのはメーカー名なのか?」


 本体上部に書かれた『女神』の文字を読み上げ、うーん、と唸り声を上げる。

 正直、このガチャガチャには何の魅力も感じない。何が入っているか分からないし、1500円に見合うものが入っているとは到底考えられない。どう考えても無駄金だ。

 けれど、正直なところ、このガチャガチャを回してみたいという欲求だけは急激に膨れ上がっていた。何が入っているのか知りたい、本当に出てくるのかどうか知りたい……。もしもこのガチャガチャがそれを見込んで設置されているのだとしたら素晴らしい作戦だと言わざるを得ないだろう。


「…………」


 ショルダーバッグから財布を取り出し、中身を確認する。――財布の中には、500円玉が三枚入っていた。最近始めた500円貯金に使おうと取っておいた500円二枚と、そして先程おつりで貰った500円一枚だ。普通、500円玉が財布の中に三枚も入っていることなどない。これは奇跡だろう。


「……回すかあ」


 途轍もない奇跡の力と好奇心のダメ押しを受けた俺はため息を吐きながら500円玉を投入した。一枚、二枚……三枚。俺の500円玉は投入口から順調に吸い込まれていく。


「…………」


 三枚の500円玉が無事吸い込まれたことを確認し、レバーに手を掛けた。ゆっくり、何かを確かめるように右へと回していく。

 ガコ、と音がして、色とりどりのカプゼルが位置を変えた。

 そうして――クリアピンクのカプセルが、取り出し口に転がり落ちる。


「…………」


 手のひら大のそれを取り出し、試しに軽く振る。やや重みのある手応えと共に、カコ、と音がした。どうやら中身はコインらしい。


(1500円のコインかよ……)


 ソシャゲもびっくりのハズレガチャだったか……。

 はあ。ため息をついた俺はカプセルを空けることもなくショルダーバッグに放り込み、自転車を走らせた。高額な買い物をしても同じ分のリターンがあるとは限らない。これもいい人生経験だ。今の俺がすべきことは後悔することではなく、1500円の浪費を取り戻すべく節約することだろう。



 こうして、そのコインは捨てられることなく俺の家に持ち帰られた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ