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僕の回復魔法は特別なんかじゃない C

マイクオー・アベルは帝都にある商業組合に所属する行商人であった。各地の村々を歩き、品物を仕入れて別の村で売る。ある村で麦を買って、布を売る。ある町では取引の契約書のやり取りだけで大金を動かして儲けを得る。市場を読み、値上がりするであろう商品を見極め、金の匂いに鼻をひくつかせる。

彼はそれなりに優秀な商人として名を売り、確実に懐に収める貨幣の量を増やしていった。


ある時、彼は隊商に参加した。その行商人を10人前後集めた隊商で、金を集めて傭兵を雇い、北の魔族との戦場付近の村に出向いて一儲けしようとしていた。

戦場は世界で最大の浪費現場だ。彼等は大量の飯を食い、焚火を作り、毎日のように装備品を壊してくれる。彼等は自分達でそれら消耗品を補充する手段がなく、商品を持っていけば確実に儲けが出るのだ。


マイクオーの信念は『危ない橋は渡るべからず』であった。

安全と安定と安寧。それこそが彼の求めるものであり、いつか危険な行商という仕事をやめ、商館で書類仕事に精を出すのが夢であった。

そんな彼が戦地へと赴いたのは、どうしても性急に資金が必要になったのだ。


彼はその時、結婚を目前に控えていた。それと同時に商業組合で上のポストが空き、その部署に滑る込める目途がついていた。行商の仕事をやめ、帝都という城壁に囲まれた安全な土地への永住。

それは彼が待ち望んだ夢だった。


そのための資金繰りのために彼はその隊商に参加したのだ。


だが、これが間違いだった。


帝都で雇った傭兵は戦地よりはるか離れた土地で山賊や野生動物を相手に護衛任務を行っている連中だった。本物の魔物に相対した経験も知識も少ない。

今思い返しても、あまりにもお粗末な隊商であった。


傭兵達の虚言と誇大広告に見事に騙された形だ。


案の定、隊商は森の中で魔族の奇襲を受けて、被害を受けた。相手がなんだったのかは今もわからない。闇の中から突然奴らは現れた。マイクオーが覚えているのは小人のような体格の相手が錆びた剣を振り上げる姿だけだった。

傭兵の半数は死に、隊商の仲間達も数人が犠牲となった。

唯一の救いは商品を乗せた馬車だけは死守することができたこと。だが、マイクオー自身も深手を負い、死に体のような有様で近くの村へと駆け込んだのだった。


その時の痛みをマイクオーは今も覚えている。


背中から袈裟切り振り下ろされた錆びた剣が皮膚を切り裂き、骨の一部を砕いていた。

腕をあげることもままならない痛みに呻きながら、それでも馬の手綱だけは離すまいと自分を奮い立たせていた。背中から生温い液体が零れ落ち、それと反比例するように体温が下がっていっていた。

身体は恐怖と寒気でガクガクと震え、意識が徐々に抜け落ちていこうとしていた。だが、ここで意識を失えば死ぬという事実だけが彼を支えていた。背後にはまだ魔族が迫ってきており、一度落馬してしまえば隊商の仲間が自分を救いに足を止めてくれるはずがないのだ。


マイクオーは何度も妻になる女性の名を呼んだ。何度も神に慈悲を請いた。

普段は聖書など、信者に売るための商品としか考えていなかった彼がこの時ばかりは本気で神へ祈った。


もう、縋れるものがそれしかなかったのだった。


死に物狂いで逃げ、夜が明ける頃にようやく近隣の村へとたどり着いた。

だが、それが心の安寧に至ったかというと、そういうわけでもない。


既にマイクオーは大量の血を流しており、傷口はふさがる様子もみられない。

背中を二つに割らんばかりの傷を治すのに、何時間の治癒魔法が必要なのか想像もつかなかった。下手したら数日かかる可能性もあった。

その間、マイクオーは自分が生きてられる保証などどこにもないことを悟っていた。

村の入り口で既に気絶しかかっていたマイクオーは死神の足音が近づいてくる音が確かに聞こえていた。

それは失血による耳鳴りであったかもしれないし、ただの幻聴だったかもしれない。


そんな時だった。


「おい!あんた達、大丈夫だぞ!!ここには『神魔法の少年』がいるんだ!!」


傭兵の一人がそう叫んだのを朧気に聞いたのを覚えている。だが、既に頭を回すだけの活力も失っていたマイクオーは傭兵達に連れていかれるままに、とある野菜屋を訪れ、そして彼に会ったのだ。


『神魔法の少年』アギリア・スマイト


彼は傷に軽く手を添わせるだけで皆の傷を治癒していった。傭兵の腕を深くえぐった切り傷も、青く腫れあがった打ち身も、マイクオーの背中の焼けつくような痛みも全てが最初から存在しないかのように治してしまった。

その全てが一瞬だった。一瞬で傷が全てふさがっていく光景をマイクオーは生涯忘れることができないだろう。それはまさに神がもたらした奇跡としか言いようがなかった。


マイクオーも以前から噂だけは聞いていた。

だが、そんな都合の良い治癒魔法など存在しないと鼻で笑っていた。せいぜい5時間かかる治癒が4時間半に縮んだ程度だろうと、そう思っていた。そんな『神魔法』を自分が持っていたら、幾ら儲けられるだろうかと笑い話にしていたぐらいだった。


だが、その魔法は実在していた。


そして、その『神魔法』の持ち主はそんな自分の魔法の価値を何も理解していないかのように無垢な笑顔で言ったのだ。


「え?お代ですか?うーん・・・別にいらないんですけど・・・特に何かしたわけじゃないし・・・一応、一律で銅貨10枚ってことにしてるんで、それでいいです」


それが真に自分の価値を勘違いしての行動なのか、それとも宗教的隣人愛によるものなのかは今もマイクオーはわからない。


だが、そんなことはどうでもよかった。

目の前にいる少年こそが神に遣わされた奇跡そのものだということだと思った。


彼にとってその時から『神魔法の少年』はほとんど信仰の対象であった。

道中の安全や健康を祈る時、彼はアギリア・スマイトの困ったような微笑を思い浮かべるようになった。


そして、彼は戦地でしっかりと儲けを出し帝都へと帰ることができた。


帰り道にアギリア・スマイトの元をもう一度訪れて御礼の品を送ることも忘れなかった。心の片隅では彼を懐柔して手元に置ければ莫大な儲けになることも考えていたりしたが、結局それは不可能だと悟った。礼と共に少しほのめかしてみたが、彼は野菜屋の軒先で店番をしながら曖昧に笑っただけだった。


彼が望んでいたのは自分の『神魔法』を鍛え上げることと、他の魔法の習熟や剣技の習得のことだけだった。そんな彼の姿にマイクオーは清貧な修道士の姿を重ねていた。地方を歩き回り、自らに苦行を課す修道士は教会で高説を垂れて銀盃を持ちまわる祭司よりもより余程神に近いように思えるものだ。


帝都に戻った彼はその資金をもって結婚式を挙げ、商館で仕事をするようになった。それから2年。子供もでき、仕事も軌道に乗り、何もかもが順風満帆に思えた。


今日、ヴァンパイアの夜が始まるまでは。


マイクオーは妻と子供を連れて屋台に食事を買いにきていただけだった。仕事が順調でたまには肉でも食べようと妻と談笑していた時であった。


彼の安寧は無残にも崩壊した。


夜空に奇妙な金切り声が響いたと思った途端、市場は戦場へと変貌を遂げた。

あちこちの路地から血を滴らせた獣が現れて人々を襲いはじめ、貧民街の方から赤黒い光を放つ武器を持った亡者が溢れかえったのだ。それは血の魔法で形作られた刀剣であったのだが、そんなことに気が付いたところではこの状況はどうにもならなかった。


全てが阿鼻叫喚に包まれた。いくら亡者から逃げようとも、獣の機動力には勝てやしない。市場の至るところで悲鳴があがり、涙が流され、それ以上の血が吹きこぼれていた。


パニックを起こす人々の波に飲まれ、それでも1歳の息子と愛する妻を必死に抱きかかえ、マイクオーは逃げた。行商を続けてきたおかげに身に付いた危険に対する嗅覚を総動員して、必死に走った。

マイクオーは再度奇跡を願った。あの隊商の経験以降真面目に参加するようになった教会のミサで習った祈りを口の中で唱え、アギリア・スマイトの顔を思い浮かべ、何度も祈った。


だが、神の奇跡などこの世の大半の人々は見たこともない。数多くの人が祈り、献身的に身を捧げてなお、神は無情にその前を通り過ぎていく。


逃げるマイクオーは横道から走ってきた人に気づかず、まともに衝突された。

誰かの頭部とマイクオーの側頭部が激しく衝突し、マイクオーは地面に投げ出された。

衝撃で世界が回っていた。何もかもが夢のように霞んでいた。息子の泣く声が耳鳴りの向こうから響いていた。

だが、動かなければ死ぬことがわかりきっていた。身に宿る生存本能がマイクオーを再び飛び起きさせた。

そして、何もかもが手遅れになっている様を目撃したのだった。


妻は路地から現れた亡者に追い詰められていた。それでも、息子だけは絶対に傷つけさせまいと彼を抱きかかえ、亡者に背中を向けた。その背に向けて振り上げられる紅の剣。


マイクオーは叫んだ。内容のある言葉ではなかった。ただ、湧き上がってきた絶望が音となって口からこぼれただけだった。

ぎくしゃくと動く手足はまるで鉛を巻き付かれたかのように重く、目先の世界は泥の中に沈んだかのようにゆっくりと動いていた。

世界の時間が引き延ばされていくなかで、その紅の剣が妻の背中に向けて振り下ろされたのだ。

ビクリと震える妻の身体。


まだだ。まだ大丈夫だ。


マイクオーは必死に自分に言い聞かせた。


自分も昔あんな傷を負ったことがある。だが、こうして自分は生きている。まだ、妻は助かる。

気休めにもならない話でだったが、今絶望してしまったら動き出せなくなる予感があった。


だが、そんな彼をあざ笑うかのように亡者は再び剣を振りかぶった。

そして、亡者は妻の身体を背中から突き刺したのだった。彼女が腹にかばった息子を共に殺さんとしていたのだ。


マイクオーは再び絶叫をあげた。

マイクオーは亡者に捨て身の体当たりをぶち当てた。亡者の身体は異様な程に冷たく、そして腐りきった果実のように柔らかかった。マイクオーの突進に体勢を崩し、地面へと転がる。

亡者の手から剣が離れたことで、紅の剣は液体となって地面に流れ落ちていった。


マイクオーは必死に妻と息子へと駆け寄った。


息子は無事だった。さんざん泣いてはいたが息子には傷一つない。妻が身を挺して守り切ったのだ。

だが、二度の凶刃を受けた妻はそうはいかなかった。傷口からは血が噴き出し、顔色がみるみる青くなっていく。妻は既に意識を失い、呼びかけに答えることもない。


マイクオーは何度も妻を揺り動かしたが、その度に血が溢れ出るばかりで彼女が目を開けることはなかった。

このままでは妻が死ぬ。そのことを悟った時、やはり脳裏に浮かんだのはアギリア・スマイトの微笑であった。

彼はこの帝都にいない。だが、教会はある。『神魔法の少年』はいなくとも、『神の奇跡』に一番近い場所がある。


マイクオーはすぐさま彼女と息子を抱きかかえた。

片手で息子を腕に乗せ、もう片方の手で妻を支えて背中に背負う。

自分のどこにそんな力があったのかはわからない。緊急事態に筋肉のリミッターが外れているかのようだった。


マイクオーは飛ぶように帝都を走った。

走っている途中で靴が脱げた。それでも裸足で石畳を駆け抜けた。目の前にいる人を跳ねのけ、押しやり、耳元にある妻のわずかな息遣いだけを聞いて教会へとひた走った。


そして、妻の息がまだあるうちに教会へと運び込んだのだ。


妻は大広間に寝かされた。修道士や祭司が数人がかりで治癒魔法をかけていた。だが、その傷の治りは異様な程に遅かった。

それはアギリア・スマイトの治癒魔法を目にしているからこその感想だった。

数人がかりの治癒魔法で傷がふさがるスピードは普段一般市民が目にする魔法の速度をはるかに上回る。だが、それは『5時間かかる治癒が4時間半に縮んだ程度』のもの。『神魔法』には程遠い。


冷や汗を流し、呼吸がか細くなっていく妻の姿。妻の背中の傷から血が今も溢れていた。貫かれた創口から妻が呼吸するたびに空気が漏れていた。

修道士の一人に『助からない可能性が高い』と宣告された。それを聞きながら、マイクオーは泣き続ける息子を御守りのように抱きしめた。妻と自分の血を分けた息子を通じて、自分の命が妻へ届くような気がしたのだ。


そのうち、大広間から外に出るように言われた。


妻の傍にいたいと何度も言ったが修道士は聞き入れてくれなかった。

大広間には数多くの患者が運び込まれてくる。そこに立っているだけでも修道士や祭司たちの邪魔になるのだ。不躾な程に文句を垂れて、座り込めばそこに留まらせてくれるかもしれないと思ったが、それを実行に移す程の気力はもう残っていなかった。


思考力が麻痺していた。現実を受け入れることすらままならないでいた。

マイクオーは泣きわめく息子を抱え、言われるがままに廊下へと歩いていった。

目の前の景色が色を失っていた。自分の足元が崩れてしまったかのような感覚だった。世界の全てが凍り付いたような気がしていた。


何もかもが現実感がなく、夢の中にいるような気分だった。

だが、必死にしがみつく息子の手が今を現実だと教えていた。


奇跡は起きないのだろうか。神の慈悲はこの世にないのだろうか。

ところどこから聞こえてくる祈りの声が耳を通り抜けていった。


その時、マイクオーは世界の中に色づく存在を見つけたのだった。


彼の顔を見間違うはずがなかった。ずっと、彼の顔を思い浮かべて神に祈りを捧げていたのだ。


「もしかして・・・アギリアくん?アギリアくんじゃないか!『神魔法の少年』のアギリアくんじゃないか!!」


神はやはりいたのだ。ここにいた。


「アギリアくん!アギリアくんだろ!覚えていないか!僕だ!君に怪我を治してもらったことのある・・・頼む。妻を・・・妻を救ってくれ!!」


彼なら傷を治せる。なにせ圧倒的速度を持つ『神魔法』だ。

慈悲でも何でもいい。助けてくれ。君しかいないんだ。

妻を救えるんだ。


そんなマイクオーの視線の先でアギリア・スマイトが振り返った。少し強張ったような表情を浮かべていたが、そんなことをマイクオーが読み取れるわけもなかった。

2年の月日で変わった部分はあれど、面影の変わらないアギリア・スマイトの顔を見て、マイクオーは声をあげていた。


「やっぱり!アギリアくんだ!みんな見ろ!!『神魔法の少年』がここにいるぞ!!」


なんで彼がここにいるかなどどうでもよかった。

彼がここにいて、自分が二度目の奇跡に恵まれていたんだという興奮が全身を駆けまわっていた。

マイクオーは何度も神の名を呼び、必死に額を彼の足元にこすりつけた


「これこそ神の御導きだ!!妻を・・・妻を救ってください!」


アギリア・スマイトはその後、修道士に案内されて大広間へと向かっていった。

マイクオーは彼が消えた扉に向けてずっと祈りを捧げ続けた。


それから、どれほどの時間が経過しただろう。


時間の感覚など消え去る程の疲労の中、マイクオーは全身全霊で神に祈りを捧げていた。

アギリア・スマイトがいれば大丈夫だ。彼が『神魔法』を施してくれるならものの数分だろう。すぐに修道士が呼び来るはずだ。


『奥さんはもう大丈夫です』

『一命は取り留めました』


その一言がすぐに訪れる。数分だ。ほんの数分の辛抱だ。

そう思い、マイクオーは冷たい石畳に膝をつき、額を擦りつけて祈り続けた。


だが、その時は待てども待てども訪れなかった。

そして、数十回に及ぶ祈りの末。修道士がマイクオーの名を呼んだ。


「マイクオー・アベルさんですね」

「はい!はいっ!私です!!妻は!妻とはもう会えますか!?」


バネ人形のように飛びはねたマイクオー。

頭の中では妻の傷は『神魔法』によって完治しているはずだった。

今すぐ妻にあって、無事だった息子を抱かせてやるのだ。そして、また今度食べ損ねた肉を買いに行く話をするのだ。


頭の中に浮かぶ幸せな未来。


だが、それはもう訪れることのない未来であった。


「残念ですが・・・奥さんは息を引き取りました・・・」


マイクオーその言葉を理解することができなかった。


残念?息を引き取った?誰が?妻が?


「そんなはずはないだろ!嘘をつくな!だって、アギリア・スマイトが・・・『神魔法の少年』が!!」

「残念ですが・・・」

「そんなはずはない!嘘付きだ!こいつは嘘をついてる!!今すぐ妻に合わせろ!妻の姿を見せろぉ!!」


気づけば口から罵詈雑言が溢れ出ていた。息子が怯えたように泣いていたのも聞こえなかった。

修道服に掴みかかり、唾を飛ばしながら何度も「嘘つき」だと叫んだ。

まるで、信じられなかった。だって、『神魔法の少年』が向かったのだ。彼は奇跡の体現者だ。

なんでも治せる『神』そのものではないのか!?


修道士はそんなマイクオーに『仕方なし』という顔をしていた。

そして、修道士は彼を落ち着けるには現実を直視させるしか方法はないと思い至った。

修道士は興奮するマイクオーを大広間へと連れていくことにした。


大広間に入るなり、マイクオーは妻の寝かされていた場所へと飛んでいった。

そして、そこで見た妻の姿を見て言葉を失った。


「・・・・・・・・・・・そんな・・・」


妻の顔は青を通り越して白くなっていた。胸の上で手を組み、穏やかな顔でそこに横たわっていた。

胸の傷の周囲は黒く変色した血が染め上げ、今も内側の肉を露出させていた。


「違う・・・眠ってる・・・だけだよな・・・」


マイクオーは崩れるように妻の顔の傍に膝をついた。


「なぁ・・・嘘だろ・・・嘘だよな・・・」


だが、妻の呼吸は止まっており、触れた肌は氷のように冷たかった。


「なんで・・・なんで傷があるんだよ・・・なんで治ってないんだよぉおおおお!!」


マイクオーの慟哭が響いた。

傷が残っているはずがない。『神魔法の少年』が一瞬で治したはずなのだ。

なのに、マイクオーの目の前には妻を死に至らしめた傷がパックリと口を開けたままになっていた


「彼は・・・『神魔法の少年』は何をしているんだ!!アギリア・スマイトは一体どこにいるんだ!!」


腕を振り回し、周囲へと目を走らせる。周りの修道士が危険を察して飛びのいた。

そのおかげでマイクオーからは大広間の隅々まで視界が開けた。


そして彼はみつけたのだ。


祭壇の上で並べられた人達に手をかざしているアギリア・スマイトの姿を見つけた。

彼の顔を見間違うはずがない。ずっと、ずっと、ずっと彼の顔を思い浮かべて神に祈りを捧げて続けていたのだ。


その彼が祭壇の上で感情を殺したような顔で膝をついていた。


「アギリア・スマイトぉおおおおお!あんたはそこでなにしてんだぁあああああああ!!!」


マイクオー・アベルの声が教会の中に響き渡った。

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