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回復魔法のススメ

今回は自分の息抜き回です。この世界での『治癒魔法師』の具体的な仕事や、必要なスキルの設定なんかをダラダラと垂れ流してます。流し読みでもいいです。ストーリー動かないし、伏線も埋めておりませんので。


「諸君!人間にとって一番大事なものはなにか!」


ザイラル先生の初講義で、彼女は開口1番にそう言った。


「Mr.モーガン!なんだと思う?」


彼女が指差して先にいたのは銀髪を肩で切りそろえた貴族だった。

彼は勿体つけるようにゆっくりと席から立ち上がった。

そして、机に手をつけ、高らかに宣言する。


「それは、名誉です!」

「座れバカ」


ほとんど秒殺であった。


「お前は自分が治癒魔法科の講義室にいることを忘れてるんじゃあないのか?次、Mr.バイン!」

「はい!」


隣でボブズが勢いよく立ち上がった。


「食い物です」

「お前の今の気持ちがよくわかった」


なにぶん、今日の最後の講義である。外は夕焼けが近く、小腹もすこうというものだった。

ちなみに僕は『水』かなぁと漠然と思っていた。

人間、食い物がなくても1週間は生きられるが、水が無ければ3日と持たないというのは有名な話だ。


「Ms.フューズ」

「は、はい・・・魔力でしょうか?」


栗色の髪をした女子の答えにザイラル先生は少し言葉を詰まらせた。


「確かに人体のバランスを保つ上で魔力は大事な要素であるが、1番では無い」


ザイラル先生は『1番』という言葉をことさら強調して言った。

そして、ザイラル先生は講義室を見渡し、僕の前に座っているルルに目を止めた。


「Ms.シルフィード。わかるか?」


彼女が立ち上がったことで、彼女の金色の髪が揺れ、鼻先をかすめた。

今度からルルの前に座るようにしようと思う。


「空気・・・です」


あ・・・そりゃそうか・・・


言われてみれば当たり前だった。


「そうだ、人間呼吸が出来なければ死ぬ。当たり前のことだ。そのために人命救助を最大の目的とする治癒魔法師に最もスキルが求められる魔法は回復魔法ではなく、風属性の魔法だ、私の最初の講義は風魔法について進めていく」


はぁ・・・


出そうになるため息を強引に押し込める。


講義開始から数分で僕の『神魔法』が否定されたのだった。

本格的な治癒魔法師としての講義が始まって1日目、本日はこんなものの繰り返しだった。


ダグ先生の人体構造の講義では各種族の骨格、臓器、血管走行、神経走行、筋肉のつき方まで細かく学ぶ必要を説かれた。その知識量は膨大でひたすらに暗記の繰り返しである。

歴史の講義を行なっていた時間は薬と強化魔法の勉学へと移った。薬が体内に与える影響、強化魔法が心臓や肝臓などにどういった影響を与えるか等だ。

例えば、人体の筋力を一時的に増加させるバーサークは心臓を強く働かせる働きがあるため心臓の病に応用されるとか。敵の動きを鈍くするスロウは筋弛緩の効果を使って治癒の役に立てることもできるとか。


今日一日を経て、僕は治癒魔法師という職を改めざるおえなかった。


冒険者の怪我や毒を治癒魔法でパパッと治す人、ぐらいにしか思っていなかったのがだが、実際はまるで違う。


毒1つとっても、神経毒なのか、出血毒なのかでそもそも対応が異なり。細菌性か、植物性か、動物性か、それともガスによるものかでもまた分けられる。そして、毒を使う相手がご丁寧に「こんな毒を使いましたよ」などと言ってくれるわけもない。治癒魔法師は症状、体内へ取り込まれた方法、毒を使った相手の行動などから推測して動かねばならない。


しかも、治癒魔法師は魔族討伐の最前線にいる人たちをいつも相手取るわけではないのだ。


街では風邪を引いた子供が連れてこられ、突然胸を押さえて苦しみだした老人も運び込まれ、腹が痛いとだけ繰り返す貴族も連れてこられる。

そんな人達を相手に怪我を治す『だけ』しか能のない回復魔法が如何程の役に立つのかという話だった。


『この世に万能な魔法なし』


今日朝一の講義で先生はそう締めくくった。


「魔法基礎学は既に全て理解しているものとして扱う。だが、これより貴様らは治癒に使う魔法に特化していく。特に風魔法の習得は非常に大事だ。私が過去に従軍した魔族討伐対では、風魔法による魔力消費が一番多かったほどだ」


ザイラル先生はそう言って、珍しく楽しそうに笑った。


「不思議そうな顔をしている連中がいくらかいるな。では、どう使ったか教えてやろう、まずはわかりやすいもの、メイスで鼻を破壊された男だ。鼻血がえらく吹いてな、それが鼻を通って、気道にまで到達し呼吸が止まった・・・ここで、鼻出血だけに注目して骨折に回復魔法を当てる者が多くて困る」


確かに、僕が同じ場面に遭遇したら、鼻に回復魔法をあてて満足しそうだ。

呼吸が止まったら、骨折が治っても死んでしまう。


「他には毒だ。特に南の湿地帯に生息するガララガエルの肝を使った毒は非常に強力だ。剣や矢に塗られると、軽く傷を負っただけで数分後には全身の力が抜け、呼吸が止まる。しかもやっかいなことに、この毒に対する有効な浄化魔法は開発されていない。唯一助かる方法は、身体が毒を分解排出してくれるのを待つだけだ。そこで、呼吸が止まっている間、風魔法により酸素を送って命を繋いだ」


浄化魔法が効かない毒があるというのは今日の午前の講義でも言っていた。

傷を回復魔法で治し、毒を浄化魔法で治癒しようとしても助からない場合もあるというわけだ。


「いいか、人間は呼吸が止まれば死ぬ。数分で死ぬ。貴様らが治癒魔法師を目指すならば、風魔法の習得は必須だ。下級の精霊でいい。ある程度の密度の空気を集め、息を吹く程度の風をおこせるだけでいい。だが、その扱いは完璧であることが条件だ」


ザイラル先生は手をかざし、風の球体を作り上げた。

遠目からも空気が球体の中を渦巻くように流れているのが見て取れた。


「まずは全員、この大きさの球体を作ってもらう。大きさは適当でいい。だが、『適切』な大きさにしてもらう。条件は3つ。一般的な人間の肺よりも大きいこと、取り回しが楽な小ささであること、安定した風を常に流していること。肺の大きさは近くにいる人間の胸部に収まるくらいだと考えろ。さぁ、はじめろ!!」


唐突な実技の開始であった。

講義室の中では誰が先陣を切るか、互いに顔を見合わせている生徒が多かった。

かく言う僕はというと、半ば呆けてしまっていたので現実の世界に戻ってくるのに幾ばくかの時間を要していた。


「ったく、ようやく治癒魔法師の勉強が始まったと思ったら。いきなり風魔法かよ」


隣でボブズがぼやいた。


「ボブズは風魔法は得意なの?」

「これっぽちも、俺は土の精霊とは仲いいんだけどな。風の精霊は気まぐれすぎて性に合わない」

「ボブズらしいや」


僕はどちらかというと、精霊魔法は得意な方だった。

その中でも風魔法は一番得意である。『竜の精霊』を呼び出せるのは風の竜だけだ。


「あ、あの・・・」


前に座っていたルルが振り返った。


「どうしたの?」

「皆さんの肺ってこれぐらいですか?」


ふと、彼女の机の上をのぞき込むと見惚れる程の綺麗な球体が出来上がっていた。

風の精霊が起こす風は空気の密度の差のせいか白い光を帯びる。それが規則正しく、丁寧に折り重なって球体を作っていた。まるで上質な白い毛糸で作った毛糸玉のようだった。


ボブズが感心するようにため息を吐いた。


「すげぇ・・・でも、ちょっと小さくないか?」

「ああ、うん。僕もそう思う。ルルやラックの大きさならそれでいいかもしれないけど・・・僕らだったらちょっと足りないんじゃない?」

「そうですよね・・・もう少し大きく・・・」


ルルは慎重に球体を大きく、そして安定させていく。


「ハへー・・・ナんでそんなに綺麗にできるんだ?」


ルルの隣に座っていたラックがそう言った。

ラックも風の球体を作ろうとしたらしいが、なぜか全体的に楕円形のようになっていた。風の流れる強さに差があると綺麗な球体にはならないのだ。


講義室のあちこちでも同じように風の球体を作ろうと、皆が動きだしていた。


僕らも遅れてはならない。


僕は両の掌を合わせた。魔力を練り上げ、身体から放出し、精霊に呼びかける。


「ふぅー・・・」


自らの吐息に魔力を乗せ、机の上に風の吹き溜まりを作った。

それに掌を当てて風の流れを操る。

風の球体はインク瓶程度の大きさから、徐々に巨大化していく。

僕の風は規則など知ったことかと言いたげに、縦横無尽に駆け回っている。


僕はその流れの中に一点の核を作り上げた。魔力を意図的に強く集めて作りあげる核だ。

そうすると、風に一つのまとまりが生まれた。

一つ、一つの風の流れは相変わらず気まぐれだが、魔力の核から常に一定の距離を保って周りだしたのだ。その流れは次第に綺麗な球形へと収まっていく。


『ある1点から一定の距離にある点の集合体』これすなわち『球』である。

日本では中学で習う『球』の定義だ。


これは僕が上位の精霊を制御するときによく使う手だった。

精霊はいつも気まぐれではあるが、檻の中にいれ、その中の自由が保障されていれば十分におとなしくなる。


風の球体が安定したら、今度はそれを拡大する作業だ。


だが、いざ取り掛かろうととした時、強烈な破裂音が鳴り響いた。

同時に隣からすさまじい突風が吹き荒れる。


「のわっ!」

「きゃっ!」


風の直撃を受け、僕らの球体のバランスが吹き飛んでしまう。

風の球体は空気に解けるかのように霧散していった。

突風はすぐに収まった。何事かとその方向を見ると、髪を吹き乱されて茫然としているボブズがいた。


ボブズは操り人形のように歪な仕草で僕らの方を向いた。


「・・・・・・・ごめん」


彼は苦笑いを浮かべながら、冷や汗を流していた。

それは『間抜け面』を絵にかいたような顔だった。


僕もラックもルルも笑ってしまう。

つられて、ボブズも笑いだした。


「魔法が安定しない時は核を作るとやりやすいよ」

「か、かく?」

「ナんだそれ?」


ラックとボブズがこちらを向く。

別に隠すような技術でもない。僕は魔力をコントロールするコツとして、友人二人にそれを教えた。


講義の時間は瞬く間に過ぎていく。


僕の『神魔法』が無双するようなことはなかったが、なんだかんだ言っても新しいことを学ぶのは楽しいと感じる一日であった。


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