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転生

ようやく時間が取れるようになり、執筆活動を再開しようと思いました。

久々の投稿となりますので、自分が書いてて楽しいことを適当にダラダラ流していきます。


4歳になるころには今置かれている状況がなんとなくわかってきていた。

前世の記憶と言うべきか、それとも来世の人生と言うべきか。

とにもかくにも、自分の人生は二度目だということだ。


微かな思い出じゃなくて、はっきりした記憶の中で自分のことを思い出すことができる。

住んでた地域は日本。まだ日本語は喋れるけどこっちの世界では全く使わないのでそろそろ怪しくなってきた。

前の記憶で一番新しい誕生日は17歳を迎えたはずだ。両親は15で他界して、親戚の家からわずかな仕送りで高校に通っていたことも覚えている。

大学は諦め、高校を卒業したら即就職するつもりだった。

部活も中学でやめ、バイトばかりしていた。


まぁ、そんな身の上話はどうでもいい。


「アギー、はやく荷物運んじゃって!」

「はーい、ママ」


それがどうしてこう子供の身体で野菜屋の手伝いをしているかというと、多分転生したから。

どうして『多分』がつくかというと思い出せないからだ。

何かがあって、前の僕は死んだ。

そのはずだ。そのことははっきりとわかる。

でも、どうして死んだのかだけは思い出せなかった。


とにかくメンタルだけは17歳のまま僕はこうして4歳のふりをしている。


「ありがとう。本当にアギーはお手伝いしてくれて助かるわ」


頭を撫でられると年甲斐もなく照れてしまう。

実年齢的には本当ははねのけたいところだが、ここはこう子供らしくしようと思う。


「もうっ!やめてよ。恥ずかしいんだから!」

「あら、ごめんなさいね」


こんなものだろうか。

正直、あまり自信が無かった。

まだ日も登り切っていないうちから商品を棚に並べ、雨戸をあける。

朝食の前に買い出しにきたお隣さんや、早起きのおじいさんが早速買い物に来ていた。


「今日も買いに来たよ。野菜揃ってるかい」

「うーん、いいトマトだな」


店先で繰り広げられるいつもの光景。

それを見ながら欠伸を一つ。

転生して夜型の生活からいきなり朝型の生活になったんだ。体の調子がいまいちよくない。時差ボケのようなものだろうか。


そんなふうにぼんやりしていたせいだろうか。あまり前を見ていなかった。

机に肩がぶつかった。母さんが野菜のヘタ取りに使う作業台だ。


「あいたっ!」


机に弾き飛ばされ、尻もちをつく。

後ろでそれに気付いたお隣さんが笑い声をあげていた。

母さんも「あらあら」なんて言って笑っている。

その直後だった。


「危ないっ!!」


母さんの鋭い声が飛んだ。

その声に身体が身構えた。

つまり、動けなかった。

机の上からハサミが滑り落ちてきたのは見えてきていたのに、身体の筋肉が強張って動けなかった。

野菜の茎を切ったりもするそのハサミはペンチと見間違う程に大きく、切っ先は鋭い。

その鋭い切っ先が下を向いて落下していた。


カボチャに包丁を突き刺したような音がして、トマトのような赤い飛沫が舞う。


「うっ・・・うぁ・・・」


最初に氷でも押し付けられたような冷感が走った。

だが、それはすぐに鋭い痛みに変わる。


「うわぁっぁぁぁぁあ」


精神年齢とか、17年間の経験とかが全て吹っ飛ぶ衝撃。

僕の細い足のふくらはぎの表面をハサミがざっくりと切り裂いていた。

ただ、その時の僕にはそんなことを悠長に観察している暇はなかった。

その時の僕は今まで経験したことのない痛みで半狂乱に泣きわめいていた。


「いたい!いたい!いたいいいいいいい!!」

「アギー!暴れちゃだめ!!」

「はやく、教会に行きましょう!!わたし、旦那起こしてくる!!」

「坊主!あめちゃんやろう、だからな、なっ、なっ!」


周りの大人が手を差し伸べてくるが、そんなことは目に入らなかった。

ただ、自分の足を真っ赤に染めていく血が怖くて仕方なかった。

足が切り落とされたんじゃないかと思う痛みに涙が止まらなかった。


「うわぁぁぁぁ、うあぁぁぁぁぁ」


怖い、怖い、怖い、怖い!

止めなきゃ、止めなきゃ、血を止めなきゃ!!

ひたすらに傷口を手で押さえつけて僕は泣き叫んでいた。

何が怖いのかわからないぐらいに混乱していたし、本当に痛いのかなんかなんてどうでもよかった。

流れ出る血の量に怯え、ぱっくりと開いた肉の中に閉じこめようと押し込む。

それでも、血はあとからあとから溢れ出てきた。


後になって思えば死ぬような怪我じゃなかった。

出てきた血も多かったかもしれないが本当に死ぬ量じゃない。

でも、前世を含めてそれ程大きな怪我に出会ってこなかった僕にとっては命の危機を感じるには十分だった。


そして、それが契機になった。

僕が魔法が使えるようになった契機はそれだった。


無我夢中だった。ただ、体の奥が熱くなったのはよく覚えている。それはちょうど心臓のあたり。風邪に浮かされたような強い熱量が冷や汗で真っ青になっていた僕の身体を駆け巡っていた。

次の瞬間、その熱が一気に掌に集まる。

自分の掌が光った瞬間を僕は一生忘れないと思った。、


そして、その時には痛みが驚くほどに和らいでいた。


「いたい、いた・・・・え?」

「アギー!見せてごらんなさい!はやく!!」


力を抜いた瞬間に母さんに腕をどけられる。

母さんは手拭で僕の足の血を拭い取った。


「え?あれ?傷は?」


血を拭き取った後には傷ひとつない綺麗な肌が残っていた。

驚いて瞬きをすると、瞼に残っていた涙が大粒となって零れ落ちた。


「アギー痛くない?」

「うん、もう、平気?」


足をぶるぶると振ってみる。どこも痛くなかった。

まるで怪我をした時間を遡ったかのように傷跡が綺麗さっぱりなくなっていた。

血を流した跡がなければ本当に夢かと疑ったところだ。


「治っちゃ・・・た?」

「あらあら、神のご加護かしら?」

「僕が毎日教会にお祈りしてたから?」


親子で顔を見合わせて首をひねる。

さっぱりわけがわからない。

もしかしたら、この世界の神様は前の世界より優しいのかもしれない、なんて思ったりもしていた。


そんな時、茫然とした声が聞こえた。


「・・・こりゃ・・・」


いつも毎朝くるおじいさんが腰を抜かしていた。


「・・・まさか・・・治癒の魔法?で、でもこんなこと・・・ありえん」


治癒魔法?


ひょっとして回復魔法とかそういう奴だろうか。僕は転生した拍子に傷を一瞬で治す魔法使いになっちゃってたの?

自分の手のひらを見つめる。

本音を言えば、少し残念だった。これでも男の子だ。

熱血主人公みたいな炎魔法は趣味じゃないが、そのクール系の氷とか雷とかそういった魔法がよかった。希望を言わせてもらうなら重力とか風とか植物を操る系が好みだ。


「えっ、魔法?でも、うちの子その手の勉強なんか一度もさせてませんよ」

「なぁにっ!ってことはまさか・・・生まれつきの・・・」


大人たちの視線が集まる。

といっても、僕には小首を傾げることしかできなかった。

次の瞬間、母さんの金切り声があがった。


「もしかして、天才ってことぉ!!」


反射的に耳を塞いだ隙に、脇から抱えられて高い高いをされていた。


「アギー!あなた天才ですって!すごい!すごいわ!」


急激に高い位置に持っていかれて、振り回される。

ジェットコースターに乗っている気分だが、何ぶんメンタルは17歳。

高い高いではあまり興奮はしなかった。

だが、それも母さんの次の言葉には思わず慌ててしまった。


「ねぇ、もう一回、もう一回やってみせて。あっ、私が怪我するから。ちょっと待ってて」

「えっ!えっ!!ちょっ、ちょっと待って母さん!ダメ、ダメだから!!やめてって!!」


落ちているハサミを自分の腹に向けた母さんをおじいさんと二人がかりで必死に止める。


「やめなさいって!まだ、この子の力がどの程度かわかんないだろう!」

「やめてよ!お願いだから母さんが怪我するのなんてやだから!ねぇ!やなの!僕の言葉聞いて!!」


こういう時、使い慣れない言語だと上手い言葉が咄嗟に出てこない。

日本語ならもっとしっかり喋れるという歯がゆさ故に思わず手が先に出てしまう。


「おい、なにやってるんだ!!」

「奥さん!はやまっちゃだめ!!」


ようやく旦那さんを連れてきたお隣さんに止められ、母さんの奇行はようやく抑え込まれた。


治癒魔法を使える。

それはどうやら凄いことらしかった。


一度は母さんを押しとどめたが、今度は父さんが大喜びだ。


「なにぃっ!なっ、なら腕だ!俺の腕切り落としてやるから俺にも見せてくれよぉ!」


巨大な鉈を取り出してきた父さんを四人がかりで押しとどめ、指の腹をちょっと切るだけで勘弁してもらった。

僕はさっきと同じようにお腹の奥が熱くなる感覚を味わいながら、父さんの傷を治した。

その後、また「すごいぞぉぉ!じゃ、じゃあ、今度は腕だ!」なんて言い出した父さんをまた宥めた。

騒ぎを聞きつけた兄貴達もやってきて、みんなが口々に僕を褒め称えた。


「すげぇ!それじゃあ怪我してもタダで治してくれんのかよ!」

「これならいくらでも喧嘩できるな!」

「僕にも見せてくれよ!!」


みんなが揃いも揃いって自分の身を切り裂こうとさえしなければもっと感動的だっただろう。

僕は自分の手足を切ろうとする兄貴達を泣きながら止めていた。

首を切るとか言い出した二つ上の兄貴は喧嘩する勢いで止めた。


「兄ちゃんのバカ!バカバカ!痛いんだよ!すっごい痛いんだよ!!」

「ご、ごめんなさい」


ポカポカと殴りながらそうやってしゃくり声をあげていた。

精神年齢的に18になろうというのに、ここまで取り乱してしまうのはどうかと思うけど。

だが、嫌なものは嫌なのだ。

それこそ、泣き叫んで罵詈雑言を浴びせたいぐらい。



そんな血祭りのような光景を作ってのほほんとしている家族に代わってくれたのは近所のおじいさんだった。


「とにかく、教会だ!教会にいこう!治癒魔法なら教会の管轄だろう!」


そう言われ、父さんと母さんに連れられて教会にいった。

店を兄貴に任せてよかったのだろうかとも思ったが、二人はどこ吹く風で道を歩きながらお互いを褒めあっていた。

「あなたの育て方がよかった」だの、「お前の家系がよかった」だの、「子供を授かるってすばらしい」だの、幸せそうに。

この調子だと妹か弟が出来るのも時間の問題だろう。

家族の仲がいいのは良いことだと、僕は現実逃避を決め込んだ。

両親の夜の情事など想像したくもない。


それで、教会で何をしたかというと、教会の神官長に魔法を見せて『神魔法』として認定してもらうことだった。


「す、すばらしい!これぞ神の奇跡の一端である。我が教会の名をもって、あなたの魔法を神が授けし力と認定いたしましょう」


わけもわからず頷き、跪き、なんかよくわからない木片で肩を叩かれておしまいだった。

後で聞いたことだが、おじいさんは僕の魔法が曲解されて『悪魔の力』とか言われる前に行動したかったらしい。

なぜなら、一度疑われて異端審問にかけられたらその魔法の効果に関わらず火刑台行きになるからだ。


もちろん、その時の僕はまだ4歳。

自分の精神年齢はまだしも、周囲は子供として扱ってくる。

僕に詳しい説明はなにもないまま、その日は店に戻ったのだった。


そこからの僕の人生はまさに成功の連続であった。

教会で「神の子」と称され、街の人には「聖者」と称えられた。

周囲の子供達は皆が僕に憧れ、女の子は全員僕に夢中であった。

そこらの若者ぐらいなら僕の方に主導権があり、大人たちでさえ僕にへこへこしていた。

教会の人達は僕を囲いたかったらしいけど、どうにもこの世界の聖書とやらには興味が湧かなかった。

それに、教会は僕の治癒魔法で金儲けをしたいという欲望が透けていた。そんな奴らに使われるのはごめんだ。

僕はお店の傍らで毎日怪我をした人を片っ端から治した。

1回目は無我夢中だったけど、3回目ぐらいでコツを覚え、10回目にはほとんど疲労感もなく出来るようになっていた。

人を治して、お金をもらう。


感謝と銅貨を積み重ねて、僕は街で知らない人のいない人気者になっていた。


その全てはこの世界に僕みたいに一瞬で人を治す魔法がないことが原因だ。

切り傷一つに小一時間の祈りが必要な教会など、正直言って僕の相手にすらならない。

僕の治癒魔法は特別だった。

転生した時にこの魔法を授けてくれた神様にはおおいに感謝していた。


そして、もう一つ幸運があったとすれば、それは両親だった。

両親は僕が稼いだお金で店を大きくしたり、変なことに使い込んだりせず、その全てを僕の成長に使ってくれた。

学校は、正直言って前の人生の焼き回しだったから楽勝だったけど。

特別な先生をつけてもらって魔法を教えてもらったり、騎士を呼んで剣の稽古をつけてもらったり。

そのおかげで僕は15の時には一端の騎士に劣らぬような男に成長していた。その過程でわかったことだけど、どうやら僕は他の人よりも成長力があるらしい。

他の人が何年もかかる修行が15の時に完結していたのがいい証拠だった。


そして、推薦み推薦を重ね、僕は16にして最高の成績をもって、この世界最大級の魔術学校の治癒魔法科に入学することができたのだ。


両親はそのことに泣いて喜んでくれた。

幼馴染は僕が帝都に行ってしまうことに泣いていたけど。

ついでに、本当に両親が授かってしまった妹にも泣かれたけど。

二人に「必ず戻ってくる」と合計23回も言って、ようやく振りほどいたものだ。


とにかく、周りの人はとても喜んでくれていた。

でも、正直言ってそこまでの感慨は僕にはなかった。

なにせ、そこは僕のサクセスロードの最後の通過点でしかない。

正直、今の僕の治癒魔法は学ぶことがないほどのものになっていた。

僅かな魔力、瞬時の回復力、魔王討伐のパーティに即座に入れるレベルだと思っていた。

最後に欲しいのは、治癒魔法科卒業という肩書き。

それさえあれば、もはやどの街に行っても、治癒魔法師として生きていける。


そして、僕、アギリア・スマイトはナルグバード魔術学校の入学の初日を迎えたのであった

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