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1 まだ形のない月

さくはなここあです。

マイペースな執筆になるとは思いますが、精一杯の早さで更新します。

よろしくお願いいたします。

             1 まだ形のない月


「はあ…」

 3月も終わりかけの、まだ肌寒い日。

 自分も何年か前に終えたはずであろう卒業式を横目に、青年はそっと高校を通りすぎる。

 耳のイヤホンからはラブソングが流れ始めた。曲調こそ哀しめだが、歌詞は至って前向きなもの。かつて彼が歌ったものだった。

「佳音様?」

 横を歩く青年が、佳音と呼ばれた青年に話しかけた。

「到着致しましたよ、ショッピングモール」

 佳音はその言葉に、イヤホンを外して正面を見直す。そびえ立つ大きな建物。それは紛れなくふたりが求めていたそれだった。

「いくぞ、里緒」

「はい、参りましょう」

 青年…里緒は、先に歩き出した佳音を追いかけるように横にならんだ。



 MdSプロダクション。アイドルを多く輩出する大手芸能事務所。

 "今をトキメク銀河アイドル" pop_Galaxyや、"天使の歌声"YxCなどの人気アイドルユニットが多数所属し、今最も勢いのある芸能事務所である。

 MdSプロダクションでスカウトからアイドルの配属振り分けなどを一手に担う、"社長の懐刀"と呼ばれる男性秘書・桜庭えみりによって、多くの現所属アイドルがMdSプロダクションよりデビューを果たしてきたが。同じく桜庭えみりにスカウトされた人材でありながら、未だデビューすら出来ていないユニットがあった。

 実良佳音。高校を卒業し、大学に進学するも長続きせずに退学。塾講師のバイトをしていたところ、桜庭えみりにスカウトされた。いわゆる美形で、風格も持ち合わせる天性のイケメンである。王道と言えるだろう。

 天埜里緒。佳音のバイト先に彼のお世話のために来ていた、佳音の幼馴染みの青年。佳音が「里緒と一緒なら」と条件を提示したためにスカウトされた、要は巻き込まれただけの青年。だが目鼻立ちはどこか中性的で品があり、こちらもとてもお世辞抜きで美青年だった。

 そんなふたりがショッピングモールで出会ったのが。

 水橋夏楓。きめ細やかで繊細な歌声を持つ青年。一通りの楽器を扱える才能の持ち主である。彼の叔母の会社で社員として働いていたそうだが、音楽と会社を引き合いに出したところ、迷いなく音楽を選んだあたり、音楽に対する熱や情はなかなかのものらしい。

 氏神恋。学生時代は(半ば強引に)バンドを組んでおり、絶対音感を持っているために様々な楽器を転々とした。なかでも本人はキーボードが気に入っていたらしいが、あまりガツガツ意見を言いにいく性格でないことで、結局押しきられてボーカルをやらされていた不運な好青年。

 この4人で結成されたのが、後に時代を揺るがす人気を生むアイドルユニット・Pulsation 。

 ___資料を閉じ、桜庭えみりは目の前に立つ男性・MdSプロダクション社長である静木隼祢に向かって口を開いた。

「社長、ユニットプロフィールですが…僕の名前まで出されるのですか」

 困り顔のえみりに対し、隼祢は満面の笑みだ。

「いいじゃん、桜庭はその道じゃ結構有名なんだから」

 はあ…と、えみりのついたため息は、隼祢の耳に届くことはなかった…。



「おはよう、夏楓」

 MdSプロダクションエントランス。里緒が手を振ると駆け寄ってきた夏楓にそう挨拶すれば、すぐに挨拶が返ってきた。

「おはよう里緒、すっごい広いエントランスだね~。わくわく~」

 相変わらずふわふわした人だ、と感じ、もうふたりの待ち人を待つ。と、そのうちひとりはすぐに現れた。走ってきたらしい、乱れた呼吸が平穏に戻るのを待ってから、朝の挨拶を交わす。これで待ち人はひとりになった。

「おはようございます、遅れてすみません、里緒さん、夏楓さん」

「大丈夫、まだ時間じゃないから。あとひとり待ってるし…」

 そう言ってスマートフォンを起動し、時計を確認。待ち合わせの一分前だが、約束に遅れるような人でないことは確かだ。どうしたのだろう、と思考を巡らせ、その途端にメッセージが届き、開封する。

「あ…佳音様、もう会議室にいらっしゃるんだって。行こうか」

「はいはい~」

「はい。…そういえば気になっていたんですけど、里緒さんって、佳音さんのこと、様付けで呼ぶの…何か理由があるんですか?」

「ん~…ないしょ」

 そんな会話を交わしながら、まるで旧知の仲みたいだな、とほっこりする。友達と呼べる友達もろくに作って来なかっただけに新鮮でもある。その点、佳音にはしきれないほど感謝しているんだけど。

「失礼します」

 会議室のドアを開く。高級そうな長机と椅子がいくつかあり、内のひとつに腰かける佳音と、正面に座る桜庭えみりの姿を見た。

「えみりさん…?」

 適当に座って、と促されて、三人は佳音のそばに座る。勿論里緒が隣で。

「今日は僕から、君たちPulsationに話がある」

 とたん立ち込めた重い空気に、三人はごくりと息を呑んだ…。


つづく。

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