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2 イケメン紹介されたけど・・・・・・?


 次の日。西沢のセッティング通り、柊は放課後の屋内体育館裏でバスケ部エースの鈴木政宗と落ち合っていた。


「やあ、君が立花さんか……柊さんでもいいかな、呼び方」

「別に……」


 柊は素っ気無く答える。

 外から見た感じは堂々としているのだが、柊は基本チキンである。

 体育館の壁とは逆方向の緑のある方、立ち木に隠れた俺と西沢が密かにエールを送っているのだが、柊はさかんにこちらの方に視線を送っている。それが「助けてください」のサインであることを、おそらく西沢は気づいていないだろう。


「それじゃ、柊さん。美玲から話を聞いているんだけど、正直、女の子からの紹介とか、少なくはなくて、困ることはあるんだ」

「……そう」


 柊が大して興味なさそうな声で応じると、政宗は男子にしては大きな目をぱちくりした。政宗はスポーツマンらしいというよりも、線の細い優男の容姿をしている。運動系の部活なのに清潔感があってバスケ部のエース。これはモテるだろう。

 だからこそだろうか。柊のそっけない返事に興味をそそられたのか、サラサラヘアを掻き揚げ、軽く苦笑いする。


「少し嫌味に聞こえちゃったかな? そうだな……美玲は君のことベタ褒めだったけど、俺も君のことは綺麗な人だなって印象を受ける。人柄も、顔もね」


 さりげなく顔も褒めるとか、うまいこと言うなこいつ。なんか鳥肌は立つけれど。

 だが、そんな垂らしの殺し文句も、柊は小首を傾げて受け流す。


「私は慣れてない。『友達に紹介されて男の子と話す』ことになんかね。だから、正直困ってる」


 痛烈な拒絶の刺を含んだセリフだったが、政宗はむしろプライドを刺激されたようだ。


「なるほど、クールな人だとは聞いていたけど……柊さんって面白い人だね。うん、僕の方からお願いするよ、次の休日、僕と一緒に出かけないか?」

「次の休日?」

「いわゆる、お試しデートだよ。そこから始めるっていうのも、なんか良くない?」

「…………」


 おおお? 期待はしていたが、こんなにスムーズに行くものか? ナイス西沢、お前の人選は間違っていなかった。いかに捻くれている柊とはいえ、こんなさわやかな優男に口説かれたら、デートからゴールインまで待った無しだよ! やったね、柊!


「そういえば、バスケ部って言えばさ……」


 え? スルー?

 お前、政宗のアプローチ、スルーしちゃうわけ? 今時の男って、こういう奴が流行りじゃないの? やっぱりおじさんが密かに感じていたとおり、少しキモさ入ってるの?


「バスケ部だったんだけど、やめちゃった人っていない? 佐々木くんって言うんだけど」


 自らの申し出を無視されたからだろうか。政宗の顔がみるみる歪んだ。


「うちはこれでも、バスケの強豪校なんだけどね、あいつはちょっとね……。故障が堪えたのだろうけど、うちの学校の不良と喧嘩して、危なくうちの部全体が出場停止喰らうところだったんだよ」

「…………」

「正直言って、バスケは巧かったけど人間的に問題があるやつかな。同じクラスということだけど、あまり関わらないほうがいいよ」

「……そう」


 政宗は軽く頭を振った。どうやらスルーされただけではなく、佐々木の名前をだされたことが気にかかっていたようだ。


「それで、どこいく? 次の休みだけど」

「行くことは決定なの?」

「君さえよければ、だけどね」

「……美玲から紹介してもらったのに、言えた義理じゃないんだけど……少しだけ、考えさせて」


 ……ああ、やっぱりそういうオチですか。またまた、一筋縄では行かないわけね。

 まったく、この女は、面倒くさいことこの上ない。


 政宗は肩をすくめると、爽やかに微笑んだ。


「わかった。いい返事を待ってるよ」


◇◇◇


「ひーーーいらーーーーぎーーーー!」


 うん、西沢。その怒りはもっともだ。存分に柊を叱りつけてやるといい。


「そんなに怒らないでよ、美玲」

「あのね、政宗くんって倍率高いんだよ? 言いよる女の子は数しれず。それなのに、逆に誘われたのを、あんなふうに袖にしてどうするのよ!?」

「だってさ……なんか気持ちわるいよ、あいつ」

「もおおおおお! そんなことないって! スポーツマンでサラサラヘアのイケメンで物腰も柔らかい! なんの不満があるって言うの?」

「あの人のことよく知らないし」

「その時点で女子力どうかしてるよ、柊。世のイケメンは、女子のみんなのチェック対象だよ!」

「美玲って、仲良くなるとどんどん優等生キャラがぶれてくるよね。槻谷くんに接するときと私に接するときだけかもしれないけど。そもそも美玲はイケメンチェックなんて必要ないじゃない」

「は、話をそらさないでよ……そ、そうかな、私のキャラって……そもそも必要ないって、その……じゃない! そんなのはどうでもいいの!」

「ごまかせないかー」

「……もうっ」


 西沢は頬を膨らませ、奮然として腕を組む。確かに優等生キャラは崩れてきているけれど、可憐というか、そういう仕草はかわいい系そのままではある。


「もしかしてさ……柊」

「ん?」

「政宗くんより、佐々木くんに興味があるとか? だからあんなこと言ったの?」


 柊は肩をすくめ、軽くかぶりを降った。


「どうかしら。興味がないといえば嘘になるけどね」

「はああああ。やめといたほうがいいとは思うんだけどね」


 西沢は壮絶にため息をつく。


「まあ、とりあえず用は済んだから今日は帰るよ。美玲は、委員の仕事があるんでしょ?」

「そうなんだけどね……まあ、最終的には柊の決めることなんだけど、さ……でも」

「でも?」

「チャンスは逃さないようにね」

「肝に銘じとくよ」


 ああー、と天を仰ぎつつ去っていく西沢を、お前キャラブレまくりだろ、というか、もともとはそういう性格なのかななどと首をかしげて見送る。俺は柊を見上げて一声鳴いた。


「ししゃも」


 柊は、手を後ろに回すと、俺の顔を覗き込んだ。


「ちょっとまた、行ってみようか」


 佐々木のところへ、か。

 こいつ、やはり佐々木に気があるのかな? そうならそうで、佐々木とデートという流れでも俺は一向に構わないのだが、如何せんチキンの柊のこと。二人の仲が進展しても、いざデートにもつれ込むまでにタイムリミットが過ぎそうな気がしてならないんだよなあ……。

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