13 大逆転と次の試練
そしてししゃもに戻った、神との期限の最終日。
……はあ、柊のぼっち飯の件は、何一つ進行しないままだった。
このタイミングで、あんなヘビィな運命を突きつけてきた神に、今更ながら理不尽な思いを覚える。
これから、ずっと猫か。人間として、結婚とかしたかったな。美味しいものも食べたかった。ゲームもソシャゲもとことんやってみたかった。
それが……。
俺は、思わずため息をついた。
トボトボと旧校舎裏を抜け、柊がぼっち飯をしている芝生を目指す。
おや……?
俺は違和感を覚えた。
なんだろう? 何か、いつもと違う感じがする。
柊は、いつもの定位置にいた。
緑の木の下で、慎ましやかな弁当箱を広げているところだった。
「ししゃも」
俺を見つけると、嬉しそうな顔をして、女の子座りした横の芝をポンポン、と叩く。
ここに来い、という意味らしい。
「なー」
俺は一声鳴いて、そこまで歩いて行き、ちょこんと座り込む。
ふと、鈴を転がしたような声で柊がつぶやく。
「ししゃもがいてくれるから、私はぼっち飯じゃないね。ししゃもがいてくれてるから、私は寂しくないよ」
ん? えええええ?
もしかして、そういうオチなの? 初めから、柊はぼっち飯じゃなかったとか?
神のやつ、捻くれやがってるな。そんな解釈でいいのか?
「そんなわけないでしょ」
と、ふわふわした心地でいる俺の頭に、冷水を浴びかけるような言葉が挿入される。
な、なんだよ、やっぱりダメなのか?
と、声の主を見ると……。
「西沢……と、槻谷……」
柊の驚いた声の通り、呆れたような声を出したのは、弁当袋持参で、空いたほうの手で槻谷の腕を引っ張ってる西沢だった。
「立花さ……柊、お昼、一緒に食べよ!」
ぱっと背後に花を咲かせるような笑顔を見せてから、掴んだ腕の後ろを振り返り、対照的なじめっとした声を投げかける。
「槻谷も、私たちと一緒にご飯食べるようになれば、いじめられることも、……あんな馬鹿な事を考える
こともなくなるでしょ?」
槻谷は、「余計なお世話だよ……」と、ゴニョゴニョ口の中で呟きながらも、逆らうようなことはしない。
さすがのことに、柊はぽかんとしたままだ。
「西沢……」
「美玲」
「え?」
「美玲って呼んで」
「え、だって……」
「友達……でしょ?」
「私たちって、そうだったの……?」
「そこは肯定してほしいな! ともかく、私は美玲、あなたは柊! いいでしょ?」
「僕は……」
「槻谷は保護観察対象者」
「ひでぇな」
「でも、西沢、私たちと関わってたら……他の子達と……」
「もちろん、他の友達ともちゃんと付き合うよ。私、交友関係広いもん」
「でも……」
「柊、いい加減にしなさいよ。槻谷みたいにカッコつけてると、本当にぼっちになっちゃうんだから!」
「僕を引き合いに出さないでくれ」
「あなたはいいの」
柊は目をパチパチして西沢と槻谷を見比べると、次の瞬間、プッと吹き出した。
「そうだね、間違いかもしれないけど、何事も経験だよね」
「なにー、それ? ひっかかるなー?」
「あはは。それじゃ、西沢……」
「美玲」
「みれ……い……。お昼ご飯、一緒に食べてくれる?」
引っかかりながらも真摯にお願いする、チキンの柊に、西沢は待ってましたとばかりに、清々しい笑顔で頷いた
「もちろん! ご飯は、みんなで食べたほうが美味しいよね!」
◇◇◇
『ぼっち飯脱出ミッションコンプリートおめでとう~~』
「ああ~~~、まあ、心臓に悪いぜ。だが、どうやらめでたしめでたしだな。俺、やったよな? 人間に戻れるよな」
『今回は、おまけで合格としよう』
「いや、期限ギリギリだけど、きっちりこなしたからね? それにしても……」
『なんだ?』
「お前、計算してやってるの? タイムリミットとか、今回のあれこれとか?」
『なんことだ?』
「いや、ちょっと気になっただけ」
『そして、明智の身に次々襲い来る試練! さて次のミッションだが……』
「ちょっと待て! 少しくらい休ませてくれないの?」
『お前が猫でいる時間を引き伸ばしたいというなら、それは吝かではない」
「すぐ与えてください。試練ください」
『『柊を、デートさせよう』』
「まてまてまて、また無茶振りだから。あいつの本性チキンだから。そんなミッション、絶対無理」
『詳しくは二週間後に! それまでキャットライフを楽しんでくれ』
「すぐ試練与えてくれと言ったのに、また裏切られた!」
『それでは、くれぐれも借り物のお身体にはお気をつけて。びー・あんびしゃす』
「大志抱いてどうするんだよ。テイク ケアだろ、その意味だと」
『さらばだ、明智』
「あー、はいはい」
一難去ってまた一難。
またまた厄介な試練に振り回されそうだ。
でも、まあ、今日だけは。
どうにも青春臭い、昼のひとときを、ししゃもの体を借りて、傍から見守らせてもらうことにしようか。




